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Mizuno Mizuno

CULTURE, FASHION, INTERVIEW 2021.9.1

Mizuno

Talk about WAVE PROPHECY SORAYAMA VOL.2

8月28日の先行発売を皮切りに、順次販売開始となる〈ミズノ〉と現代アーティスト、空山基氏によるコラボレーションモデルの第2弾。シルバーを基調とした空山氏の作品を連想させる第1弾を経て、今回はよりファッションへと落とし込みやすい黒をベースにした1足が仕上がった。新たな名作の誕生を存分に感じさせた第1弾から、さらに速度を上げて突き進む〈ミズノ〉は、この先独自の立ち位置を築いていくだろう。本コラボへの想いと〈ミズノ〉のファッションシーンにおける今後の可能性を探るべく、本作を手掛けた〈ミズノ〉のディレクター齊藤健史氏と、BALのデザイナーであり、業界随一のスニーカーフリークとしても知られる蒲谷健太郎氏の対談が実現。

Photo Haruki Matsui
Edit&Text Shiori Nii

アートであり
身体の一部

 今やアート界のみならずファッションのシーンにおいてもその名を轟かせている空山基氏。アートとファッションという観点は数年前からファッションの世界においてよく耳に挟む表現だが、本作はその融合における本質に迫る大作だと言える。まず対談の前に、改めて本作の背景について触れると、なぜこの取り組みがカルチャーの流れの中で重要な意味をもつのかが見えてくるだろう。

齊藤「前職から転職して〈ミズノ〉に入って、強みとして見えたのは、自分たちでテクノロジーを生み出して、アスリートに届けているという点でした。自分はアスリートや選手にとってのいいモノは、一般消費者に向けても悪くはないと思っていて、そのアプローチや見せ方を変えることで〈ミズノ〉としての新たな価値を提供できるのではないかと考えていました」。

スポーツメーカーとしての革新を100年以上の時間をかけて追い求めてきた結果、製品に落としこまれる技術やノウハウは相当蓄積されていたのだ。それはアスリートに向けた製品だけではなく、一般消費者に向けられたプロダクトについても同様だが、いわゆるスニーカーの市場において、今まで〈ミズノ〉の存在が意識されたことは、一部の熱狂的なフリークを除けばあまりなかったのではないだろうか。しかし今年の1月、その立ち位置を一気に推し進めたのが、WAVE PROPHECY SORAYAMAのローンチと言えるだろう。空山氏の作品を知る人にとっては、その親和性の高さが一目で腑に落ちる完成度であったし、SFチックな未来感を醸し出すプロダクトとしての美しさは、氏の作品を知らずとも心を掴まれる“なにか”が感じられたはずだ。

本モデルの特徴のひとつである6つの穴が空いたソールの内側に、控えめに配された“SORAYAMA”のロゴ。「僕ら売る側からすると、価値も変わりますし、“SORAYAMA”の名前をどこかに入れたいじゃないですか。でも、空山さんは、この靴は自分も絶対履きたいから、自分の名前なんてダサいから入れたくないと。なんとか説得して、小さく、しかも内側にですが、入れることを承諾頂きました」。(齊藤)

齊藤「自分たちが日本のブランドであると考えたときに、日本を代表するアーティストとご一緒したいというのがあって、自分が長年ファンだった空山さんが真っ先に思い浮かびました。ダメ元ではありましたが、直筆の手紙を書いて...。1ヶ月後くらいに返信をいただいて、直接話を聞いてくれた上で、“私の作品の1つになるわけだから、中途半端なモノにはするなよ。それに応えられる約束ができるならやりましょう。”というところからスタートしました」。

いわゆる決まり切った型にアーティストの作品などをプリントする一般的な方法ではなく、ソールやアッパーなどベースとなるものを1から空山氏の意向を存分に反映させながら生まれたのが、このWAVE PROPHECY SORAYAMAというわけだ。

齊藤「中途半端なモノになってしまうのは、空山さんのお名前を汚してしまいますし、空山さんのファンの方々に対しても失礼です。そして今までやってなかったことを会社としてやらせてもらっているので、空山さんからの毎回の難易度の高い依頼を最初から“できない”ということだけはしませんでした。空山さんが考えている靴を具現化するために、まずは意向をもち帰って開発担当などと擦り合わせ、少しでもできる方向を模索していました。空山さんには、“新たな自分の作品の1つとしてつくっている”と言っていただけましたし、実際に発売して、世界中で大きな反響をいただけて、プロダクトから醸し出される雰囲気や、オリジナリティある人の本来のかっこよさみたいな部分はレベルが違うんだなと体感しました」。

アーティストとともにつくり上げた“作品”であるからこその破壊力。アートであり〈ミズノ〉の技術がしっかりと注ぎ込まれた機能性も併せもつ。ブランドに根付く、その実直な姿勢とモノづくりへのこだわりは、ファッションのシーンにおいても、多くの人々を惹きつけるきっかけとなっている。

「最初、今回は〈ミズノ〉の象徴であるランバードをつけることに大きくこだわっていなかったんです。でも空山さんが、これは付けなきゃダメだ、俺がかっこよくするんだからって。〈ミズノ〉を大きく変えてしまうのではなく、いいところを伸ばしていけば自ずと結果はついてくると。本当にこの方はすごいな、ついていきたいって惚れた瞬間でしたね」。(齊藤)

カルチャーと結びついた
スニーカーの在り方

 ここまでWAVE PROPHECY SORAYAMAの完成までの道のりを振り返ってきたが、そんなオリジナルな動きを見せる〈ミズノ〉の今後を、自らもデザイナーであり、スニーカーフリークでもある蒲谷健太郎氏の視点も交えながら覗いていく。

齊藤「第2弾は空山さんが思う、冠婚葬祭でも自分が履きたいスニーカーというコンセプトからスタートして、このような墨黒になったという感じです。空山さんとのやり取りは、毎回自分の限界を超えさせられる難題が多くあって大変でしたが、めちゃくちゃ楽しかったですね」。

蒲谷「僕もブランドとしてアーティストの方と何かをすることはあるので、苦労はすごくわかります。これくらいアーティストの表現したいことを再現できているスニーカーというのは、スニーカーの歴史においてもそんなにないという印象があって。だからこそとてもエポックメイキングなことですし、すごいことだなと感じていました。そしてシルバーという空山さんを象徴するカラーをやった上で、第2弾がブラックというのもマーケットのことを考えても、すごく納得できます。僕はリセールのカルチャーをあまりよく思ってないですが、ひとつの指針としてそうした市場でかなり価値が上がっているというのも、多くの人が価値を認めているということですよね」。

齊藤「ありがたいですね本当に」。

空山氏の作品の特徴である、メタリックなロボットと生身の体の融合を思い起こす、靴と身体の曖昧な境界。うっすらと中が透ける半透明の素材は、空山氏の定義する、見えるか見えないかというセクシーな世界観を描き上げる。

ファッションシーンに明らかな爪痕を残した〈ミズノ〉の取り組み。とりわけ日々目まぐるしく新たな商品が登場するスニーカーシーンの現状はどうなっているのだろう。

蒲谷「なんかもう独立したカルチャーになってしまっているんじゃないかと思います。もともとはストリートファッションとスニーカーはひとつのものでしたが、今では全く別のカルチャーが出来上がっているなという印象です。さっき触れたようなリセールの部分もそうですが、転売目当てに買ったり、リセールのためのプロダクトがつくられる状況になってしまうとよくないなと思います」。

齊藤「僕らが小さい頃はカルチャーと紐づくものとしてスニーカーがあったじゃないですか。この靴を履くならこういう格好をしたいとか、音楽などとも近い存在だった気がしていて。市場としては盛り上がっていますが、靴をつくってる側からすると複雑な方向に入ってきているのかなって。逆にこれから〈ミズノ〉としてはスニーカーのカルチャーはまだまだないので、こういう作品をつくっていくことで、表層的な流行ではなく、より深くて面白いカルチャーと合わせたストーリーテリングをしていけるという部分の楽しさはあるんですけどね」。

スニーカーシーンの盛り上がりは、かつての90年代のころのカルチャーの匂いがプンプンするものとは異なり、いわゆる価格の上下のみが先走ってしまっている面があるのも事実。こうした現状を逆手に取るように、本質的なアプローチで話題をさらった〈ミズノ〉だが、再びカルチャーと密接にリンクするスニーカーのシーンを生み出すような存在となるかもしれない。

「ファッション業界も、毎シーズン新作を出してサイクルがどんどんと早まっていき、本質が置き去りにされているような気がしています。その中で、流行に左右されないオリジナリティがあり、ちゃんと意思が感じられるもの。そういうものが残っていくし、結果的に健康的なんだと思いますね」。(蒲谷)「僕は個人的にBALのファンでもあるんですが、唯一無二のグラフィックや、蒲谷さんの博識な部分がさらっと落とし込まれたデザインは本当に学ぶことが多いです」。(齊藤)

蒲谷「オシャレは足元からってよく言うじゃないですか。明日これ履こう、この靴に合わせる服なんだろうって僕は考えますし、それにはちゃんと理由があるものが僕は好きですね。どういう理由、背景でみたいなことがわかった方が楽しいですし。こういうブラックだと、ウールのスラックスとかとも相性良さそうですね」。

齊藤「カジュアルなシーンでもさらっと履いてもらいたいですし、やはり空山さんとのコンセプトであるフォーマルなシーンで履いてもらいたいですね。もしフォーマルなシーンで履いている人を見かけたら思わず話しかけちゃうと思います。セットアップを着てみても、新しい感覚になれる気はしています」。

蒲谷「靴に関しては自分の先入観に囚われたくないなって思っていて。びっくりするようなものがあったらどう履いてやろうかみたいな気持ちがあったり、あまり型にはめないようにしています。柔軟な方が楽しいですし、どんどん取り入れながら、飲み込んでいって、最終的に自分のフィルターをとって自分になっていくのではないでしょうか」。

齊藤「どれだけ売れてるかじゃなくて、自分の触手に反応するかどうかが大事ですね。僕の根本には、今でもスニーカー大好き少年がいるので、フィロソフィーが感じられるものが欲しくなりますし、この1足もそういう想いでつくってましたね」。

スニーカーそれ自体の価値観を更新するような1足を武器に、この先も進化を続けていく。

齊藤「〈ミズノ〉といえばこのモデルみたいなことを多くの人に知っていただきたいです。一般の方にとってはスポーツの部分がどうしても強いですし、象徴的ではありますが、そうした機能を普段履ける靴に落とし込んでいくことが、僕の夢でもありますし、チーム、仲間の夢かなと思っています。その上でこのモデルはとても重要で、〈ミズノ〉といえば、最初にこういうのあったよねと、認識してもらいやすいですよね。このアイコニックな、かつ空山さんとの取り組みがきっかけになっていろんな方に知ってもらう。そしてもちろんここで止まるつもりはないので、改善しながらより多くの人に履いてもらえるというのが、目指していく未来です」。

蒲谷「すでに感度の高い方々の中ではプライオリティはすごく高い位置にあると思いますし、そこから裾野に広がっていく段階にあるのかなと感じますね。今のやり方を貫きながら、時間を経ていくことでどんどん広がっていくと思います。今後も楽しみにしています」。

PROFILE

Mizuno

TEL_0120-320-799

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