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032c<br>Joerg Koch 032c<br>Joerg Koch

CULTURE, MAGAZINE 2021.6.25

032c
Joerg Koch

多角的に示す
スタイルへの道標

今年で20周年を迎えた、ベルリンを拠点に世界中でカルト的人気を博すマガジン〈032c〉。イメージカラーである、鮮烈な赤のカラーコードを冠したそのタイトルは、今や本業である雑誌を指すだけでなく、サイドプロジェクトとしてスタートしたファッションラインを、創設者兼編編集長であるヨルグ・コッホを中心に広がるコミュニティを、そしてそのすべてを網羅するプラットフォームを意味する。生き残りが難しいーンに軸を置きつつ、姿を変えながら勢いを増すアプローチを掘り下げ見えてきたのは、変化を恐れないしなやかさと、揺らぐことのない哲学。

Edit Shiori Nii

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マニュアルとしてのメディア

 創設者兼編集長であるヨルグ・コッホを中心に、独創的なエディトリアルとアカデミックな記事で、メディアの中でも唯一無二の存在感を放つ〈032c〉。2001年、ギャラリーのプロジェクトの一環としてスタートした当初は、シンプルで簡易的な新聞であった。「昔から、僕の軸にはDIY(Do it yourself)がある。自分の手でなにかをクリエイトして、自信に繋げるんだ。そのようにして興味をもったことを新聞に転換していたら、結果的に強いアイデンティティをもった雑誌へと形づくられていった」。ヨルグや他の編集メンバーの興味を注ぎ込んだ誌面は、キム・カーダシアンがグラビアを飾ったかと思えば、次のページではある哲学についての論文のようなコラムが並ぶ。ファッション、政治、ゴシップ、思想など、共通点を見出すことが難しい多彩なコンテンツ。しかし〈032c〉という雑誌の中にみるこれらの内容は、どういうわけかすべてがリンクし、一貫性が感じられるのだ。散らばる要素に1本の軸を通すのが、創刊から20年にわたり掲げる“MANUAL FOR FREEDOM, RESEARCH AND CREATIVITY”という、媒体の在り方。「ファッション誌やアート誌といった枠組みを嫌う僕らにとって、マニュアルという言葉はとてもしっくりくる。世界を理解し、異なる方法で考え、新しい視点を読者に提案するハウツー本であり、さらには自分たちの手でなにかを創造していくためのツールキッドとして〈032c〉を活用してほしいんだ」。徹底したリサーチの結果としてアウトプットされるのは、時代の第一線をいくモデルやアーティストのフィーチャー、知性を呼び起こす普遍的な概念、時代感を押さえつつ、数十年後もきっと変わらず魅力的に映るであろうファッションビジュアル。混在する多彩なコンテンツがそれぞれ機能し、はたらきかけ、時代の空気感を取り入れながらも本質を失わない1冊のマニュアルをつくり上げる。「年2回の刊行は、月刊誌とは異なる内容を発信をする必要があって、常に考えているのは、タイムリーとタイムレスの折衝。ドイツ語で、時代の友人のような意味をもつZeitgenosseという言葉があるんだけど、僕らが表現したいことの重要なテーマといえる。80'sでも90'sでもなく、自分たちが生きているこの瞬間の世界に寄り添い、理解し、時代の一部になりたいんだ」。

メディアとしての
ファッション

 広く開かれた興味と、それらをひとつに結合する軸をもつ〈032c〉というストーリー。その内容が られるのは、今や誌面の上だけではない。ヨルグの妻であり、JIL SANDERなどのトップブランドで働いた経験をもつマリア・コッホが率いるファッションラインは、2018年に本格始動して以降、サイドビジネスの域を超え、世界中で認知を広げる。「雑誌が新聞からスタートしたように、アパレルラインもブートレグのTシャツからはじまり、どんどん拡大して今ではしっかりとしたデザインと品質をもったブランドとなった。長い間マリアとは別々で働いていたけど、友人の勧めでいっしょに働きはじめて約4年が経つ。僕はメディアを総括し、彼女はファッション。最終的な責任や決定権ははっきりと分けつつも、とてもオープンな環境なんだ。編集チームもファッションチームも同じ建物内で働いていて、いつもアイディアが飛び交い影響し合っている」。誌面で発揮されるリサーチが反映されたアパレルプロダクトは、知的なムードとストリートのユーモア、そしてしっかりとつくり込まれたデザインと高いクオリティが共存する。アウトプットされる出口が紙であるか服であるかの違いだけで、〈032c〉の本質は変わらないのだ。「以前のファッションシーンはとても閉ざされたものだった。でもHELMUT LANGやRAF SIMONSなどのブランドがファッションの概念を変えたんだ。彼らは建築や音楽、社会情勢など、多様な角度からファッションを映し出し、広いカルチャーに開放されていたから、僕自身とも関連づけることができた。その変化は僕のクリエイションにも多かれ少なかれ影響を与えている。〈032c〉がファッションレーベルを展開する理由でもあるけれど、現在のアパレルブランドはメディアのひとつの形態だと思うんだ。背景をもった純粋なプロダクトとして、多彩な切り口から人々に結びつけていき、強いステートメントを伝える。そのような本質と価値をともなった品質の高いブランドを、ベルリンから世界に向けて発信していきたい」。時代の色を織り交ぜながら、可能性を切り開くヒントや残すべき価値を、形あるものにのせる。人々を自由な創造性を宿したスタイルへと導くマニュアルとして、その姿勢に賛同する者たちのユニフォームとして、〈032c〉は流動的なレガシーを世界に残していく。

Joerg & Maria Koch
Photo Lukas Wassmann

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