CULTURE, INTERVIEW, MUSIC 2023.2.9
Tornado Wallace
隔たりを繋いでいく
研ぎ澄まされた感性
オーストラリアはメルボルン出身の、DJ、アーティストのトルネード・ウォレス。エレクトロ・ミュージックをベースにした楽曲制作を行うアーティストとして、ジャンレルレスな音でフロアを沸かせるDJとして、クラブカルチャーにおいても独自の立ち位置を築く彼が、11月上旬に来日し、表参道のVENTで行われたイベント「TOGENKYO」や江ノ島の名箱「OPPA-LA」、札幌の聖地「PRECIOUS HALL」に出演した。現在はベルリンを拠点に活動するが、メルボルンというクラブカルチャーやファッションシーンにおいてもあまり馴染みのない都市から、世界へと飛び出して行ったトルネードの歩みに見る、飢餓感と掘り下げることの重要性。そして、自分の中にインプットされたあらゆる物事は、スタイルとなって隔たりを越えていく。
Photo_Haruki Matsui (Portrait)
“距離”が導いた
スタイルの原型
クラブカルチャーやアンダーグラウンドなダンスミュージックシーンは、常に現場を大切に、リアルな感性を反映してきた。パンデミックの影響によって加速した部分もあるが、YouTubeなどをチェックすれば、世界中のシーンを賑わすDJのプレイを目の当たりできるように、その環境が変化してきてはいるが、改めて現場の熱量が少しずつ戻りはじめていることには少なからず安堵を覚える人も多いだろう。今回GRINDでは、トルネード・ウォレスというメルボルン出身で現在はベルリンを拠点に活動を行うDJ、アーティストの来日に際してインタビューを実施したが、彼自身をこのカルチャーへと導いたのは、実際の現場の熱量ではなく、むしろそことの隔たりによるものだった。「幼少期にクラブミュージックが奏でる、不思議な音色のサウンドに出会った途端、その異色で不思議な音に途端に引き込まれたし、ワクワクしてインスピレーションも感じた。僕がずっと愛しつづけているクラブミュージックは、自分にとっては遠い異国のものだった。アメリカ、ヨーロッパ、日本にしても、常に自分がいたメルボルンとは距離があったんだ。でもその距離があったからこそ、そのシーンにどっぷり浸かることなく、自分がエンジョイできる音や、心から好きと思える音楽を選べたという自由が、かえってユニークな見方や姿勢を与えてくれたんじゃないかな。周りや世の中でなにが人気で、流行りがどんなものかは、僕には全く気にならないことだったんだ。なにが好きで、なにに惹かれるのかということに対して、信念や自信をもって探求して行ったよ」。リアルなシーンの熱気に触れることなく出会ったクラブミュージックに、純粋な好奇心が刺激され、どんどんのめり込んでいくこととなったトルネード。楽曲を手がけるようになるまでもそう時間はかからなかった。「15歳の時、PCを手に入れたのと同時期に、『Computer Sound』と『Future Music』という雑誌をたまたま見かけて、そのタイトルにピンときて購読しはじめた。毎号付録にCDやソフトウェアがついてきて、本誌の中ではサウンドのつくり方が説明されていて、“僕がやりたいのは、これだよ!”ってね。ちょうど2000年の話で、当時は今みたいにYouTubeで学べることもそんなになかったし。同時に『Chat Room』という名称の、趣味をシェアできるコミュニティのようなプラットフォームがはじまった頃で、そこに入り浸ってたくさんのことを共有していたね」。シーンの中心地との隔たりが、図らずも自分のスタイルを醸成するための時間となった。そしてそこで育まれたスタイルが、趣向をともにするコミュニティと、自身を繋いでいく。こうした隔たりが繋いでいくのは、物理的な距離だけでなく、彼のDJとしてのスタンスにも表れていると言えるかもしれない。彼がプレイする曲の数々にはさまざまなジャンルが詰め込まれているが、異なるタイプのサウンドであっても、そこには自然なフローが確かにあるのだ。「自分の好きな曲や、影響を受けてきた曲を反映させてプレイしていると、次にかけるべき曲が浮かんでくるという、特別な瞬間に恵まれることがあるんだ。もちろん毎回ではないけれど、ふわりと流れるようにね。共通した音階のこともあれば、全く異なるタイプのサウンドだったり、自然にアイディアが湧いてくるんだよ」。膨大な楽曲を自身の中にインプットしてきたことによって、ジャンルを超えた繋がりが、音ではなくストーリーとなってフロアに響く。
Youtubeでは、こうしたトルネードのDJの様子を数多く見ることができる。細かいビートで重ねたハイなテンションの曲が流れたと思えば、一気にスローな曲へと入れ替わる。異なるジャンルを紡ぎひとつの作品として楽しめるのがトルネードの魅力だ。
さらにプレイヤーとして世界を飛び回るトルネードは、クラブシーンのカルチャーとの距離感についても近しい感覚を覚えている。「僕自身はカルチャーの狭間にいる立場ではないけれど、カルチャーがクロスオーバーして混ざっていくことはいつの時代でも可能だと信じているし、すべての人にとってメリットが大きいと思うよ。今までにもあったような、突出したカルチャーシーンというのが、音楽にファッション、そしてアートがすべて美しく交わって、みんなでエンジョイしていたようにね」。もちろんそれぞれのシーンを楽しんでいる人も多いが、よりさまざまなジャンルの人たちの熱量が絡まれば、トレンドではないリアルに入り混じったカルチャーが生まれる瞬間を味わえるかもしれない。隔たりや距離をポジティブに捉え、自分にはないなにかをつなぐためのきっかけとして考えてみてはいかがだろうか。