Taka Ishii Gallery ×
SEIYA NAKAMURA 2.24 from vol.101
隣接した関係性に見る
過去と現在、その先へ
多角的な視点や価値観が必要不可欠なこの時代。ファッションブランドのデベロッパーとして、国内だけに留まらず、パリや上海、ベルリンにも拠点をもち、クリエイティブな“ビジネス”を築き上げるSEIYA NAKAMURA 2.24の代表を務める中村聖哉氏。同氏に本章のテーマについて、取材のオファーをしたのが今回の鼎談企画のきっかけとなる。またゲストとして、中村氏と交友関係があるという、Taka Ishii Galleryの代表を務める石井孝之氏にも参加してもらい、ファッション × アートの関係性をメディアのフィルターを通し客観的な視点から、包括的な像を映し出していく。
Photo Riku Ikeya
Edit Hiromu Sasaki
変化してくサイクル
川田(以下川):まず最初にお二人の関係性や知り合った経緯をお伺いできますか?
中村(以下中):もともと最初はお客さんだったんです。僕がタカさんのところから、細江英公さんっていう写真家の『Human Body』という作品を購入させていただいたのが最初です。
石井(以下石):そうですね。主に60年代に活動してた方でね。1番有名で代表的な写真集は『薔薇刑』というもので、三島由紀夫さんの家で撮ってるんです。確か1963年に初版が出てますね。
中:そこからですよね。そもそも共通の友人がいたんですよ。僕がアートに興味があるって話をしていたら、じゃあ、ちょっとタカさん紹介しますよ、って話が進んで。
石:そうそう。その共通の友人はうちのお客さんでもありますからね。
川:そこからどのくらいのお付き合いになるんですか?
石:5年くらいですかね。
中:いやもっといくんじゃないんですか。多分6年くらい前な気が。その時はまだ会社にする前で、僕はギリギリ個人事業主だったんです。6〜7年前くらいかな。まだタカさんのギャラリーが北参道にあった時でしたよね?
石:そうだね。あそこには1年半くらいいた気がしますね。
中:そこから今ではプライベートでもご飯とかを一緒に行かせていただける仲になって。
石:公私ともにね。家にも何回か来てもらったり。
川:そうなんですね。話が少し変わるのですが、最近アートとファッションの関係性が近しくなってきたと語られることが多くなっていると感じます。お二人はそれぞれの現場にいらっしゃるので、そこから見た過去との違いだったり、今どういう理由で2つが近くなってきているのかなど、そこにいるからこそ感じることがあれば教えていただきたいです。
石:実はファッションとアートって昔から関係性は近かったんですね。最初は50〜60年代くらいかな。Mondrian とYVES SAINTLAURENTのコレクションとかは割とその辺りな気がします。その後だとLichtensteinとかAndy Warholみたいに結構あったんですね。ただ何が違うって昔はもう少しお互いに行き来があったと思うんです。いろんな人が出入りしていた。一緒に飲んでいたりとか、一緒に活動していたりとか。今って結構別々で、クリアに分かれてるじゃないですか。それであまり行き来がない。結局中を繋ぐ人がいないと…みたいな。
中:お互いに遊んでいたっていう感じですよね。
石:本当に遊びの延長みたいでしたね。飲みながら話しながら仕事が進んでいったって感じでしょうか。
川:今関係性が近くなっているというよりも、昔と比べるとビジネスライクといいますか。
石:そうですね。実際とても大きなビジネスになっているじゃないですか。何兆円規模の産業に。やはり昔とは感覚が違いますよね。
中:そもそも当時日本においてアートってすごい敷居が高かったと思うんですよね。ただ今って敷居はもちろん高いんですけど、もっとファッション的な広がり方をしているなと思ってて。若い世代含めていろいろな人がすごい興味をもっている。当然ファッションが好きな人はアートにも興味がある人が多いと思いますし。要するに今まで興味がなかった人たちも、アートに注目している。それに比べて僕が買い出した時って、今ほどブームではなかったと思ってて。
石:確かにブームではなかったよね。でも実はサイクルって意外と回っているんです。1回目は絵画ブームって言われてる40年代かな。その後にはバブルの時にもきたじゃないですか。でも今回のは昔と比べてちょっと違うなとは思ってて。今って現代美術なんですよね。今生きてる作家たちが評価されていて、同世代がサポートしていくみたいな。それから情報が一気に広がりやすいということも違いのひとつですよね。昔は時差がありましたから。
中:コレクターとしての意見なんですけど、情報が広がりやすくなっているのもあって、余計人気があるアーティストに多くの人が惹きつけられちゃう集中型になっているなと感じていて。
石:みんなが良いと思って欲しいものが欲しいんですよね。SNSとかもあってそれに集中しちゃう。
中:そうですよね。アートの場合数が限られているのに。
石:アートって工業製品ではなくて、ほとんど手作りのものじゃないですか? そうすると需要と供給のギャップが強くなりすぎちゃう。
中:そういう状況下だと尚更ウェイティングの付け方だったり、作品を渡す人もかなり考えますよね?
石:やっぱりアートってみんなに売っちゃって良いものではない気がしてて。お金を持っていれば誰にでも売りますとは出来ないんですよ。すぐ転売されちゃったりしたら悲しいし、できたら美術館に置いてもらいたいです。だから言い方はあれかもしれないんですが、ギャラリーが選んだお客さんに売ります。生身の人間が作っているものだし、ギャラリーは作家を守る責任があると思うんです。
“残っていくのではなく
何を残していくか”
川:前のお話に戻るんですけど今の時代的にSNSみたいに、簡単に情報を拡散させることができるわけじゃないですか?先程言っていた作家を守ることや極端に大衆化させすぎないことに関して、その線引きって以前より難しくなっているのでしょうか?
石:情報が必要以上に流れてしまうのは、しょうがないと思っているんです。それを止めるのって難しいことで。やっぱ見に来てくれた時に、お客さんは作品を撮ったりするじゃないですか。なので何処で線引きをしたら良いのかは難しいところではありますよね。極端な話それで偽物が作られちゃって売らたりはしないので。でもたまにそういうイメージがインプリントされて、知らないところでグッズにされてたりするんですよ。
中:人形になったりとかですよね(笑)。
石:そうそう。それがすごい問題になっていて。有名なアーティストさんの2人展が、中国の何処かで開催されたんですけど、その作品
が全部偽物だったなんてこともありましたからね。
中:ファッションでいうと時計とかアクセサリーとか、普通の人じゃ判別できないレベルのコピー商品ってわりと出回っているんですよね。その中でもやっぱり本物って絶対残ると思うんですよ。アートもファッションもメディアにおいても、それが“本物”ってどう感じさせるか、そういう価値をどう伝えていくのかということがすごい重要な気がするんですよね。
川:そこは共通する部分ですよね。どこに価値を見出して、どう価値をつけていくのか。
中 & 石:うん、一緒ですね。
川:その”本物”に関してですが、僕たちはメディアとして時代を超えて残るモノを、ストイックに伝えていきたいという想いは強いです。なのでファッションやアートに共通する部分の中で、お二人は何を基準にされているのかなとすごい気になっているのですがどういう視点がありますか?
石:”残っていく”というよりかは、特に私たちはですが、”残していく”ということだと思います。アートの場合だと作家はアップダウンがどうしてもあります。売れる時期も売れない時期もある。それをまあ、辞めずにずっと付き合っていくんです。己を信じて、アーティストを信じて。そうするとかなり長い期間お付き合いするのですが、もちろん売れない時期もあるんですよ。でもまあそれはしょうがないし、充電期間として捉えています。見捨てないで、夫婦のように寄り添っていくしかない(笑)。で、また良いなと思う新しい作家を見つけたら、ちょっとピックアップして、でまたやっていって、長い付き合いを歩んでいく。そのパターンの繰り返しです。
中:そうですよね。最近のファッションだとそのサイクルが異常に早いんです。メゾンと呼ばれるブランドですら、中のデザイナーをすぐ変えて、また新たに違うブランドのように謳っていく。冠としては変わらないんですが、また新しい価値観を中でつくってそれを提案していくといいますか。それが最近増えてきていて、その回転も早い。そのようなことが2000年代に入ってから加速した気がしますね。
石:ブランド・デベロッパーとしては、ブランドや企業とどういった付き合い方をしていますか?
中:僕は、基本的に長期的な計画を立ててお付き合いをすることが多いですが、プロジェクトによっては短期的な結果を目標としているケースもあるので、その都度付き合い方は変わります。どちらが良い悪いってことではなくて、どちらもあるのがファッション・ビジネスだと思うんですよね。コミュニケーションに関しては、国内だけじゃなく海外にもオフィスやショールームを構えて、その都市の性格や機能に寄り添った形でやっていくことを心がけています。そういう”フィジカル”な在り方が結構大事だなって最近の状況下で強く感じていますね。
石:確かにそうですね。僕も日本のコレクターがいて、海外にもコレクターがいる。それでお互い情報交換しながら回していく流れになってますね。自分が出て行って売っていくよりも、向こうのローカルの人とコミュニケーションをとりながらやっていくことも大事になっています。
中:そこを考えるとやっぱりデジタルだけで一方的にやっていくのは厳しいと思いますよね。
石:そうですね。一方だけだと難しいかもしれないですね。
中:そう考えると、無限の可能性を秘めたデジタルは魅力的なコミュニケーションのプラットフォームだと思うのですが、だからこそよりフィジカルでのコミュニケーションの強さが際立っていく時代に突入すると思います。僕はそんな世の中を楽しみにしています。
PROFILE
中村聖哉
1983年東京生まれ。2006年に渡英。2014 年にSeiya Nakamura 2.24設立。現在は東京・パリ・上海・ベルリンへ拠点を広げ、グローバル規模でブランドや企業のクリエイティブ・ビジネス両面のデベロップメントを行う。
石井孝之
1963年東京生まれ。1982年に渡米。ロサンゼルスで絵画を学ぶ傍ら、美術作品のディーラーとしての活動をはじめる。帰国後の1994 年、東京・大塚にタカ・イシイギャラリーを開廊(現在は六本木に移転)。日本を代表する作家や国際的評価の高い海外作家など幅広く扱う。