Stefan Marx
Stefan Marx Exhibition『KEEP IT LIKE A SECRET』
at SALT & PEPPER
アートブックショップ及びギャラリーの〈ソルト & ペッパー〉にて、ベルリンを拠点に活動を行う世界的なアーティスト、ステファン・マルクスの個展『KEEP IT LIKE A SECRET』が開催されている。11月23日、エキシビションのオープンに際して来日していたステファンに、エキシビションについて、アーティストとしての姿勢について、彼のスタイルが確立されるまでの話など、根掘り葉掘り聞いてみた。
Photo_Haruki Matsui
Translation_Risa Nakazawa
Edit&Text_Shuhei Kawada
パーソナルな関係性の
延長にあるアート
ステファンはとても穏やかで、気さくで、優しさに満ちていた。彼の作品を目にしたことがある人は多いだろうし、世界的なアーティストであることに疑いはないが、そんなことを忘れてしまうくらいに、我々取材をする人間に対してだけでなく、スタッフはもちろん、当日訪れた多くのお客さんに対しても同じスタンスで、分け隔てなく接していた姿がとても印象的だった。ご存知の方もいるかもしれないが、今回展示を開催している〈ソルト & ペッパー〉のロゴを手がけているのもステファンで、兼ねてから〈ソルト & ペッパー〉のオーナーであり、〈ヴァイナル アーカイヴ〉のデザイナーでもある大北幸平と親交があったことから、この展示につながっている。「トラベルバッグに入るサイズの作品で、とてもパーソナルな展示にすることによって、この場所がもつ暖かな空気を表現できると考えてこのような形式にしています。コロナの時期に、本に近いくらいの小さいサイズの作品をつくるようになりました。ずっとつくってきた大きいサイズのものより、オブジェっぽくも見えてとても気に入っていて、それをはじめて日本で見せるという感じですね。作品に描く言葉も、以前より短いものが増えてきて、今は削ぎ落とされた時に見えてくるものにすごく興味があるんです」。単語や短いセンテンスで描かれる言葉の数々は、彼の人柄同様、見るものの懐にスッと入ってくるような柔らかさと、確固たるスタイルの共存を感じさせる。また白黒で描かれることが多かったが、今回はカラーの作品がメインで、色味ひとつでも異なるニュアンスを味わえるというのは、新鮮で奥深さがあった。
彼の作品を目にしたことがある人は多くいると思うが、現在のアーティストとしてのスタイルを確立する背景にはどんなカルチャーや道のりがあったのだろうか。「とても田舎で生まれ育ちましたが、小さい頃からスケートカルチャーや、レコードカバーを見るのがとても好きだったんです。ジャンルで言えばヘヴィーメタルが好きだったんだけど、そうしたレコードのジャケットを見ているうちに、どんな人がつくっているんだろうと調べるようになっていったんです。その後15歳くらいの頃、Lousy Livin’というスケートをベースにしたブランドをはじめました。当時はスケートブランドの洋服も自分たちにとっては高いし、グラフィックにある言葉も、スケーターにしかわからないものが多くて。自分でやるならもう少し多くの人にわかるものにしたいと思って、最初は手づくりからスタートして、だんだんとショップなどでも取り扱われるようになっていきました。その後ハンブルクでアートの勉強をしていくうちに、当時自分がいたスケートシーンと、ファインアートの世界の対比について理解を深め、その2つは近いものだけど遠いということに気づくようになりました。常にいろいろと描き続けてきて、だんだんとギャラリーでの展示を行うようになったり、作品集を出版したり、レコードのジャケットにアートワークを提供するようになっていきました」。創作をはじめた当初から彼の中にある、多くの人に届くものをつくりたいという感覚。そしてアートを専門的に学ぶことで見えてきた、自らが身を置いていたシーンとアートとの距離感。だからこそ彼の作品はさまざまな世界にアクセスできて、それぞれのシーンに身を置く人々と作品を通じたコミュニケーションを図れるのかもしれない。アートとしての魅力に止まらず、これまでファッション、音楽、建築などを含めたカルチャーとしてより身近に寄り添う作品を生み出しつづけている。そしてキャリアのはじまりに紐づく部分には、スケートカルチャーなどの要素はたしかに存在しているが、現在の彼の作品づくりのインスピレーションや刺激は、より身近な部分にあると言う。「たしかにもともとはスケートカルチャーや音楽の影響がありましたが、そこに固執することはなく、今ではどちらかというとより日常で、自分の身の回りで起こることがとても重要になってきています」。この日は生憎の雨だったが、取材のために設営中の会場を訪れると、ステファンはコンビニで購入したというビニール傘に、今回の展示作品にもある『LISTEN TO THE RAIN』というワードを楽しそうに描いている最中だった。特定のカルチャーやシーンではなく、より自分にとって身近なリアルから、なにげない刺激を受け取り、それが作品への道筋をつくっていく。カテゴリーやジャンルではなく、日々の人生そのものがクリエイションになるという偽りない姿勢こそがストリートそのものだと感じさせられた。
「自分もいまだに、いろいろと模索しているし、簡単なことではないよ。もしアーティストとなにか一緒に動く機会がある人は、アーティストを信用して、任せることでうまくいくと思います。またアーティストとして、もしくはクリエイティブなことをしていく人であれば、とにかくひとつひとつ小さなステップを踏んでいくことが重要です。たとえば最初は友達だけを集めた展示をやって、次はもう少し大きくしてみるとか。とにかく自分でまずはやってみる。95%失敗しても、5%成功することがあるはずだから別に間違ってもいいじゃないですか。失敗して学ぶことが大切で、あとはとにかくなにごとにも興味をもって、いろいろな国に行ったり、なにかを見たり自分の中に蓄積していくのは大事です」。最後にステファンに、モノづくりに関わって生きていくことや、そのスタンスについて尋ねるとこう返してくれた。彼のようなキャリアをもってしてもなお、いまだに模索しながら活動しているというのだから、どういう形であれ、地道にコツコツ続けるしかないのだと、肝に銘じておくことにしよう。
Information
Stefan Marx Exhibition『KEEP IT LIKE A SECRET』
at 〈SALT AND PEPPER〉
SALT AND PEPPER 3F
渋谷区恵比寿西2-5-2 今村ビル 3F
12:00〜19:00(平日)、11:00〜18:00(土・祝日)
定休日:日・月
2022年12月14日から17日まで展示休み。
20日から12月24日まで年内営業。
新年1月6日から1月14日まで。