PHILEO
Interview with Phileo Landowski
地道に、着実に
築きあげたスタイル
シューズデザイナー、フィレオ・ランドウスキーをご存じだろうか。2019年、弱冠18歳で自身のシューズブランド〈PHILEO〉を立ち上げ、翌年には〈SALOMON〉のスポーツ部門にてアーティスティックアドバイザーに就任。そんな〈PHILEO〉が、〈SALOMON〉と初のコラボレーションスニーカーをローンチ。勢いだけに頼るのではなく、地に足つけて着実に階段を登る彼のクリエイティブに対する考えとは。
Photo_Haruki Matsui
Translation_Yasuhiro Watanabe
Text&Edit_Fuka Yoshizawa
学びの場として機能する
2つのクリエイティブ
クリーンな佇まい、美しい曲線が描くシルエット。〈PHILEO〉のシューズはクラシックなレザーシューズの趣を残しつつ、前衛的なアプローチで個性を放つ。デザイナーのフィレオ・ランドウスキーは、若さゆえの勢いに頼るだけではなく、冷静に、着実にそして内側には情熱を宿してキャリアを築いてきた。彼は早々に学校をドロップアウト。専門学校などでファッションの教育を受けることなく、独学でキャリアをスタートした後に、トップメゾンでのインターンを経験し、〈PHILEO〉を立ち上げた。「僕はあまり学校が好きではなくて、16歳で中退しているんだ。でもその頃には自分がシューズのデザインをしたいということがはっきりとわかっていたから、迷いはなかったよ」。もともと車のデザインに興味があった彼は、車の建築的なフォルムや機能的な要素に、シューズデザインとの共通点を見出し、シューズデザイナーの道に進むことになる。「僕は免許を持っていないし車は高価だからね。免許がなくてもどこにでも行けるシューズは、僕にとっての車みたいなもの。学校に行っていなくてもやりたいことが明確にあったから、いろいろな人に連絡を取って、会って、話すことで、多くのことを学んだんだ」。自分の興味があること、好きなこと、そしてやるべきことや、やりたいことを取捨選択して、シューズの道に飛び込んだフィレオ。クオリティを上げるための努力を欠かさず、自分ひとりでは解決できないことも、人との出会いを経て形になっていくのだと、彼には早々にわかっていたのかもしれない。そうした行動を重ねていると、ある時友人をきっかけに、ドーバーストリートマーケット最高経営責任者であるエイドリアン・ジョフィを紹介される。「エイドリアンとは長い時間ミーティングをしたよ。人生のことも話したし、サンプルを見せながらシューズへの情熱を語った。最終的にドーバーストリートマーケットでのローンチが決まったんだ」。彼は当時のことを振り返り、本当にラッキーだったと謙遜するが、それは単なる偶然ではなく、自身のクリエイティブを磨き続け、同時に多くの人に伝える努力を怠らなかった結果とも言えるだろう。〈PHILEO〉設立の翌年には〈SALOMON〉のアーティスティックアドバイザーに就任するなど、彼を取り巻く環境は劇的に変わりつつある。「僕はあまり教育は受けてこなかったけど、ドーバーや〈SALOMON〉で働く周りの人たちはみんなクリエイティブなマインドを持っているから、そのなかで働いていると本当に刺激を受けるし日々多くのことを学ぶんだ。だから〈PHILEO〉は僕にとって学校のようなものだね」。彼はそんな状況でも驕ることなく学び続けて、より良いクリエイションのために前進している。
互いのビジョンを
さらに遠くへ
自然と都市がぶつかり対話しているというイメージのもとつくられた今回の〈PHILEO〉×〈SALOMON〉のコラボレーションスニーカー。シューズデザイナー、フィレオ・ランドウスキーではなく、〈PHILEO〉のデザイナーとして実現したこともあり、普段の〈SALOMON〉でのデザインとは少し異なる視点で考えられている。「〈SALOMON〉は、アウトドアというものが前提にあるから、デザインするうえでは多くの規範があるんだ。でも今回は、せっかくだから普段はできないことをやりたいと思って、〈SALOMON〉では使わないテクスチャーをリクエストしたんだ。そして遠くから見た時と近寄った時の印象を変えたかったから、素材のなかでも立体的でふわっとしたものを採用したよ。テクスチャーが変化している部分は、自然が都市に侵食されているような、そしてアウトドアの何が起こるかわからない怖さを破っていくようなイメージ。きっとオンラインで画像だけを見て購入したら、届いた時に素材感に驚くだろうね。そのギャップも楽しいと思うけど、実際にこの素材を触ってテーマを感じてもらえたら嬉しいな」。異なるベクトルを持つ2つのブランドのなかで、「常に両ブランドの良さをクロスさせる感覚を持っている」と言う彼が与えられた自由なフィールド。〈PHILEO〉でのクリエイションでも、本来クラシックな要素が多いレザーシューズをベースに、自らのデザインでアップデートしていくというスタイルは、コラボレーションにおいても、保守的にならずに挑戦することを可能にしているのかもしれない。
自然から都市、都市から自然といった相反する2つの要素を融合したコラボレーションスニーカー「XT-SP1 FOR PHILEO」。〈SALOMON〉の特徴的なソールに、立体的かつ柔らかなニット素材を用いたアッパーという、ファッション性の高い1足。
〈SALOMON〉だけでなく、これまでもさまざまなブランドとコラボレーションを行ってきた〈PHILEO〉。コラボレーションに対する彼の考えも、常に前向きに捉え学ぼうとする姿勢が感じられる。「お互いのクリエイティブを掛け合わせて、いろいろなアイディアを出し合い深掘りしていく取り組みだから、毎回ユニークなものが誕生します。ネオンカラーの靴なんて、普段なら絶対につくらないけど、コラボレーションだから冒険できるんだ。僕のブランドでは基本的にモノトーンが多いからね(笑)。先日のドーバーストリートマーケットギンザで行われたオープンハウスのイベントのように、クリエイティブなブランドがひとつの場所に集まり刺激を与え合うことで、新しいものが生まれる。コラボレーションは、お互いがより遠くへ行くための架け橋としての役割も担っていると思う。だからこれからも積極的に行っていくつもり。実はまだ発表していないコラボがたくさんあるんだ。楽しみにしていてね」。常にデザインやクオリティを進化させようという向上心や探究心は、自らに向けられていると同時に、他者との関わりの中でも多くを吸収して糧へと変えていく。だからこそ彼にとってコラボレーションはクリエイティブにおける進化と、自分以外の他者とのコミュニケーションという彼にとって欠かせない要素が詰まっている。クラシックなアイテムにモダンなアプローチを試みたり、勢いだけでなく内に冷静さを宿していたり、彼はコラボレーションだけでなくクリエイティブにおいて、常に対に位置するものを内包し、その両方を取り入れる。どちらかに偏るのではなく行き来することで、ものごとは新鮮な視点で捉えられ、進むべき道筋が見えてくる。
DOVER STREET MARKET GINZAで行われていたインスタレーションでは、スニーカーとともにヘッドフォンが置いてあり、実際にそのシューズで芝生や砂利、階段といったさまざまな場所を歩く足音を楽しめるというユニークな試みを行っていた。
フィレオ・ランドウスキー
パリを拠点とするシューズブランド〈PHILEO〉のデザイナー。アーティストである両親の影響で幼い頃から養っていた創造性を生かし、2017年にフィービー・ファイロ率いる〈CELINE〉のインターンを経験。その後2019年に自身の名を冠した〈PHILEO〉を立ち上げる。2020年7月に〈SALOMON〉のアーティスティックアドバイザーに就任し、2021年にはDOVER STREET MARKETの傘下に入るなど、気鋭ブランドとして急成長を遂げている。