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CULTURE, FASHION, INTERVIEW 2023.1.16

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Interview with Rory McGrath

多角的に捉える
デザインの視野

オリバー・ナイトとローリー・マクグラスの2人によって設立された、ロンドンを拠点に活動するデザインスタジオ〈オーケー アールエム〉。出版、空間、ビジュアルディレクションなど、そのデザイン領域は多岐に渡り、ファッションを中心に多くのブランドのクリエイションを支えてきた彼らは、クリエイターやアーティストとパートナーシップを組む形で仕事を進める。日本国内に〈オーケー アールエム〉の名をより一層広げるきっかけとなった〈ゴールドウイン 0〉の話題を中心に、来日したローリーに話を聞くことで見えてきたのは、境界を超え、ジャンルとジャンル、人と人など、あらゆる物事をつなぐものとしてデザインを捉える姿勢。

Translation_Natsuko Koike
Edit&Text_Yuki Akiyama

つなげることで示す道筋

 〈1017 アリクス 9SM〉や〈JW アンダーソン〉などのビッグネームから、〈タイガ タカハシ〉などの日本の新進気鋭ブランドまで、多くのブランドが厚い信頼を寄せる〈オーケー アールエム〉。彼らは〈イン アザー ワーズ〉というパブリッシングカンパニーを運営するなど、出版をはじめ、ビジュアルディレクションや空間デザインと、デザインに対して広い視野で多角的なアプローチを取る。ローリーとは以前から連絡を取り合っていたが、彼らがクリエイティブディレクションを手がける〈ゴールドウイン 0〉のプロジェクトに際して来日すると連絡をもらい、晴れて初めて顔を合わせることができた。〈ゴールドウイン〉が培ってきた技術力をベースに、新たなフィールドからファッションを捉えた実験的なプロジェクト〈ゴールドウイン 0〉。“Enquiry(探求/問いかけ)”と題し、#1、#2、#3と立て続けに発表された映像作品は、解釈を受け手に委ねるような余白が残されており、その斬新かつ抽象的な表現が公開される度に話題となった。これらの映像作品はプロジェクトの中でどのような役割を担っているのか、まずはその全貌に迫る。

Goldwin 0, Enquiry #1, Finding Form, Choreography Part I
Photography by Daniel Shea

 「#1は『Finding Form』と題し、ここではリサーチをする、探求をするということを行いました。建築、ポエトリー、コレオグラフィー、サイエンスなど、さまざまな角度からリサーチを重ね、〈ゴールドウイン 0〉の軸となるストラクチャーを探求しています。#2『Interrelations』は、モデル1人1人がダンスをしていて、その動きに合わせて音がなる映像になっているんですが、これは#1でリサーチしたことの結果を表現しています。リサーチによって生まれた素材、材料といった感じです。#3『Melodic Harmony』ではより感情的な部分を表現していて、#2で使われた振り付けや音を組み合わせ、1つの音楽やダンスを構成しています。#1で探求したことが、#2で素材となり、それらがお皿の上に乗って、#3で1つの料理になる、そういった関係をもっています。“Enquiry(探求/問いかけ)”という行為自体が、〈ゴールドウイン 0〉の手法を表しているんです」。

〈ゴールドウイン 0〉2022AWコレクションの発売を記念し、原宿の屋外ギャラリーStandByにて、プロジェクトの世界観を表現したインスタレーションが行われた。そこには〈オーケー アールエム〉が手がけたEnquiryシリーズの軌跡をまとめた書籍『ENQUIRY #1, #2, #3 by Goldwin 0』も並べられていた。「今の時代はフィジカルな感覚や体験が失われてきていて、だからこそ、実際に手に取れるものをつくることが大事だと思っています」とローリーが語るように、彼らは〈イン アザー ワーズ〉というパブリッシングカンパニーを設立し、出版事業にも熱を注ぐ。〈ゴールドウイン 0〉は、Enquiry #4として今シーズンも継続されていくようなので、これからの動きにも引き続き注目していきたい。

 これらの映像作品は、単にブランドの世界観を表現するイメージ映像とは異なり、〈ゴールドウイン 0〉が掲げるファッションを通じた循環型社会を実現する上でのアプローチを可視化した、いわばステートメントとして位置付けられる。このように〈オーケー アールエム〉が手がけるデザインは、目の前の課題だけを解決するのではなく、軸となる道を示すかのように、ブランドのクリエイションの背景にあるプロセスや哲学を浮かび上がらせるのだ。「僕らは出版、ビジュアル、空間とさまざまなデザインを手がけていますが、そのすべてはつながっています。歴史をみると、デザインというものはクラフトベースで考えられてきたと思うんですけど、僕らがやりたいのはスケールベースのデザインなんです。僕たちはアート、サイエンス、ネイチャーをつなぐことをコンセプトにしていて、これまで同じようなビジョンをもったクリエイターやアーティストたちと一緒に仕事をしてきましたが、アートとサイエンスとネイチャーについて深く考えていくと、それ自体が人間の生活と深く結びつくものであって、根底の部分ではつながっているんだと思います」。多角的な視点で物事を捉え、表面的な部分ではなくその奥にある本質を見せてくれる〈オーケー アールエム〉。彼らは出版とビジュアルと空間、アートとサイエンスとネイチャーなど、ジャンルの間に引かれた境界線を超えたつながりを生み出す。こうした彼らのデザインは、新たな角度から物事と向き合う視点をもたらすと同時に、我々とブランドのクリエイションをつなぐ架け橋として、創造性を育むためのヒントを示してくれる。

〈オーケーアールエム〉が仕事をともにするクライアントの多くは、ファッション業界を牽引するビッグネームたちだ。表層の部分ではなく、クリエイションの裏側にあるストーリーと真摯に向き合う彼らの姿勢が、ここまで多くのブランドやデザイナーたちから支持を集めている要因だろう。
(上段)〈1017 アリクス 9SM〉からの依頼をきっかけにスタートした、〈オーケー アールエム〉と写真家ダニエル・シェアによる協働プロジェクト“EX NIHILO”。(中段)〈JW アンダーソン〉のコレクションの世界観を凝縮したスペシャルボックス“Show in a box”。(下段)2019年にシカゴ現代美術館で開催されたヴァージル・アブローの展覧会に伴い制作された“FIGURES OF SPEECH”。

 〈オーケー アールエム〉は一緒にモノづくりをするクリエイターやアーティストたちをパートナーと呼び、何度も仕事を積み重ねることでともに成長していく。これはクライアントとなるブランドとの関係においても同じで、単発で仕事を行うことは少なく、継続的な関係を築き上げている。そこで、プロジェクトを進める上でのコミュニケーションについてローリーに聞いてみると、デザインを通じてあらゆる物事をつなぎ合わせる彼らだが、人と人とのつながりまでもデザインする姿勢が浮かび上がってきた。「僕たちはシステムをつくり、自分たち以外のパートナーが参加するような形で仕事をしていて、他の人たちとコラボレーションし、刺激され、インスパイアされることで、一緒になってモノづくりをしていきます。プロジェクトを進める上では、クライアントだから、クリエイティブディレクターだからといったように、役割を決めることはしません。僕らはさまざまな物事の間にある境界線を取り除きたいと思っています。境界をつくらずに働いたり、アプローチすることが世界をより良くするんじゃないかと思います」。プロジェクトに関わる人々をつなぐハブとなり、肩書きにとらわれることなくフラットな関係を築き上げる〈オーケー アールエム〉。仕事を進めていく上で彼らが意識しているのは、単なるプロジェクトという枠を超え、互いをリスペクトし合い、皆で同じビジョンを共有しながら歩みを進める創造的なコレクティブを形成するということではないだろうか。生み出されるクリエイションだけでなく、そこに至るまでのモノづくりのプロセスにも気を配る。こうした彼らの眼差しを自分自身にも照らし合わせて考えてみてほしい。そうすれば、目の前にある課題や仕事のクオリティを上げるために重要なスタンスに気が付くことができるはずだ。

  • スライド

    (1枚目)デンマーク人アーティスト、キアスティーネ・レープストーフの作品集“THE ARCHIVE OF DARK”。(2枚目)チェコ人アーティストデュオ、ダニエラ&リンダ・ドスタールコヴァーの作品集“HYSTERIC GLAMOUR by Daniela & Linda Dostálková”。

  • スライド

    (1枚目)デンマーク人アーティスト、キアスティーネ・レープストーフの作品集“THE ARCHIVE OF DARK”。(2枚目)チェコ人アーティストデュオ、ダニエラ&リンダ・ドスタールコヴァーの作品集“HYSTERIC GLAMOUR by Daniela & Linda Dostálková”。

恵比寿にあるブックショップPOSTにて開催された展覧会『In Other Words』。本をオブジェクト(物体)として捉え、過去に手がけた作品を被写体に撮影された写真が展示されていた。〈オーケー アールエム〉は、出版という枠組みを越えた実験的なアプローチで、印刷物に対して新たな向き合い方を模索しつづける。

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