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C.E<br>Toby Feltwell C.E<br>Toby Feltwell

FASHION, INTERVIEW 2022.1.28

C.E
Toby Feltwell

関わり合いと間合い

2011年の発足以来、東京のストリートウエアシーンを独自の在り方で牽引してきた〈C.E〉。3人のクリエイターがブランドのクリエイティブを支え、表現の多様性を生み出している。トビー・フェルトウェル氏はそのクリエーターのうちのひとりであり、ブランドディレクターとして深く携わってはいるが、あまり表舞台に出ることはない。ロンドンのレコードレーベル、裏原宿カルチャーをつくり上げたブランド、そして法律関係の仕事など、彼の掴み所のない雰囲気は、キャリアを遡ると更に濃くなっていく。まさに文字通り多種多様なキャリアに対する立ち位置と、そこから見えてくる物事の感じ方とは。

Photo Asuka Ito
Edit&Text Hiromu Sasaki

境を超え合う軌跡

 グラフィックデザイナーのスケートシング氏がトビー・フェルトウェル氏、菱山豊氏と共に立ち上げた〈C.E〉は、日本・東京を象徴するブランドのひとつとして、2011年の創立以来ストリートウエアカルチャーを牽引してきた。象徴的なグラフィックを筆頭に、彼らの目線から汲み取られたカルチャーがプロダクトに落とし込まれ、創造的かつ多層的な世界観に基づく表現を続けている。そんなブランドのディレクションを担っているトビー氏に焦点を当ててみると、彼のバックボーンと〈C.E〉のユニークなクリエイションは、強くリンクしていることに気付く。「13歳くらいからスケートをしていて、よくロンドンに滑りに行っていました。僕の地元はロンドンから少し離れていたのですが、簡単に行き来できる距離だったので、ロンドンに移り住む前から現地のスケーターや音楽シーンとはコネクションがあったんです。老舗スケートショップのSlamCitySkateとかが溜まり場でしたね。当時、ABATHINGAPE®のTシャツをイギリスで唯一取り扱っていたお店だったので、ブランド初期からBAPEは知っていました。大学を卒業して仕事をどうしようかと悩んでいた時に、友人のWillBankheadからイギリスのレコードレーベル、Mo’Waxで仕事があると誘いを受けたので、自然な流れで96年にMo’Waxで働きはじめました」。スケートやカルチャーのコミュニティから音楽シーンへと足を踏み入れたトビー氏。「Mo’Waxを通じて97年くらいにはNIGO®とはじめて会いましたね。レコードレーベルにいながら日本とコミュニケションを取るのが僕には面白かったんです」。同時期に法律の勉強もしていたという。しかし目標にしていた資格を取る際に生じるイギリスの制度と、当時働いていた音楽関係の仕事の間で悩むこととなる。「98年から02年まで夜間で法律を勉強していたのですが、イギリスだと全部の試験に受かってもその後2年間実務をしないと正式に弁護士になれないシステムでした。同じ時期にNIGO®から東京に来て一緒に働かないか、とオファーをもらっていて。だから当時は東京に住みたいかはまだ自分でも分かってなかったけど、たしか2003年くらいに半年だけお試しで東京に行ったんです」。自らの直感と興味が赴く方に身を委ねたトビー氏。そこから今につながる東京での活動の歯車が動き出していくことになる。「NIGO®とは“働く”というよりもハングアウトしているような感覚でした。そんな中ファレル・ウィリアムスと出会って、その翌日にはBILLIONAIREBOYSCLUB(以下BBC)をNIGO®が手伝うことになったり、予想はしていなかったけど少しずつ仕事らしくなって、より深く関わるようになっていきました。ちょうど同じようなタイミングで僕も法律関係の仕事が決まって、ロンドンに戻らなきゃいけなくなって。でもNIGO®とBBCの契約のことや、彼のアメリカでの会社設立、出店など、今度は僕が法律面で手伝ったりして関係は続いていきました」。自身の置かれた環境をクロスオーバーさせたことは、結果としてその先の可能性を保つことになった。そんな法律関係の制度の縛りが無くなる日を迎えたときに、難しい選択を迫られることになる。「2005年に法律関係の仕事のトレーニングが終わって、正式に弁護士になるか、NIGO®とのプロジェクトにフォーカスをするのか、決断をしなければならない時がきました。本当に悩みましたね。法律の仕事は面白かったのですが、どちらかというと安定していて刺激はありませんでした。僕にはリスキーな方が性に合っていたのかもしれませんね。半年だけ東京に住んだ時にやっぱりまた住みたいと思ったこともあり、結果的に東京へ行くことにしたんです。そうしてNIGO®と一緒に6年間くらい一緒に仕事をしました。その後色々な転機があり、別の何かをはじめるタイミングで、面白く仕事ができていたから、BBCで一緒に働いていたシンちゃん(スケートシング)、菱山さん(菱山豊)と別の形で続けようと〈C.E〉をはじめました」。

AselectionbyTobyFeltwell
製作に関わったMo’WaxのレコードやCD、BAPEのボディにBBCのロゴがのったブランド初期のTシャツ、BAPE×Jacob&Coの腕時計、〈C.E〉が開催してきたパーティのフライヤーなど、トビーのキャリアを体現するモノたち。

間に見つけた自身の立ち位置

BBCを経て自身らによるブランド〈C.E〉のディレクターとして次なるキャリアを歩みはじめ、“自由度”という観点から考えれば今までのキャリアの中では、より一層自分のクリエイティビティと向き合うことができるように思えるが、一方でトビー氏が感じたことはまた別の興味深い捉え方だった。「言ってしまえば〈C.E〉はクライアントがいない本当の意味での自分たちのブランドです。ただ、それは言い換えればブランドを通じて何かを発信することは、自分たちがつくりたいことをダイレクトに受け手側へと伝えることになります。だからこそ責任はこれまでの中で一番重く感じました。〈C.E〉をはじめて、責任が生じることによって遊びの要素を入れることが難しく感じましたね。ボスはいたけどBBCの方が自由にやることができていたと思います。基本的に僕は表に立つ人間ではなかったから、何かを手伝ったり間に入る方が得意だなと再認識しました。弁護士もそういうスタンスの仕事ですしね」。人やモノの間に立ちながらクリエイティブを積み上げていく。そのスタンスは3人のバランスで成り立っている〈C.E〉にとって、ポジティブな化学反応を生み出し作用していく。「僕ひとりで最終的につくりたいものがはっきり見えているケースは最初からほとんどなくて、3人の間の不思議な絶妙なコミュニケーションでブランドは成り立っています。そのプロセスこそが面白いんです。すべて自分で完結できることにはそもそも興味がなくて、みんながいてできるものに興味があります」。互いのコミュニケーションからつくり上げていくブランドの在り方は、自分の思考の外側にあるアイディアを発見することにつながり、そこにもまた面白さを見出していると語るトビー氏。「僕は、頭の中にある理想を具現化することは無理だと思っています。完璧に頭の中のイメージ通りのモノを表現できるということは正直理解できないし、自分のできることと頭の中にある理想的なイメージとのギャップが面白いんじゃないでしょうか。それが世界が見ている現実の自分なわけですし。複数人で何かをつくって、出来上がったモノに対して、これだ!と共感したりする瞬間が一番気持ち良いですね。だから100%自分でコントロールしたプロセスよりはだいぶ面白いですよ」。

Favorite music selected by Toby Feltwell

人との関わり合いで〈C.E〉のディレクションを支えてきたトビー氏だが、もちろん自身の感性には明確な軸がある。「先ほども言いましたが〈C.E〉はクライアントなしで自分たちがつくりたいものを発信しているので、自分が何を好きなのか、今何をやっているのか、考えた時に、結局〈C.E〉をはじめる前から仲良くしていた友達とコミュニケーションをとることによって思い出したり再認識したりします。彼らと何か新しい音楽やファッションについて喋ることは、とても意味があることだと僕は思います」。旧友との間にある共通言語でもあり、トビー氏のベース部分に位置するスケートボードや音楽などのカルチャーは、今も脈々と影響を与え、思考に、哲学に、強く反映されている。「僕にはこれはアリ、これはナシっていう、判断基準的な自分のルールブックがあるんです。若い時の経験によって固まったもので、自分の判断をブレさせない大切なものです。新しいことは常に頭の中に入れながらも、ベースをもちチューニングしていく感じ。昔スケーターだった僕にとっては、オーセンティックかどうか、リアルかそうじゃないかということがとても大事でした。固執しすぎることは良くないと思いますが、ストリートカルチャーにとって基本的なことだと思います。ファッションだけで考えると、とりあえず自由に“ただクリエイティブにする”だけではあまり意味がないと思っています。自分のルールの中でつくり上げること。完璧に自由だったら逆に意味がない、と僕は思います」。カルチャーから学んだひとつの価値観。そのフィルターを通じて発信されるクリエイションは、トビー氏にとっての目的に向けた道をつくり上げてきた。「僕が自分たちの活動の先に期待していて、かつ面白いと感じることは、街にどれだけ影響を与えられるかどうかなんです。単純に街を歩く人たちが着ている洋服やスタイルが、僕らの起こした小さななにかがきっかけに違う方向へと変わっていく。あとは店をつくれたりとかですね。街に対して具体的な影響を与えられるのはやっぱり楽しいですね。それに街に身を置くということは人から見られるということで、僕らも影響を受けます。すべてが自分の思い通りにならない、リアルでフィジカルな場所が僕にとっては面白いと感じます」。今までのさまざまなキャリア、関わってきた人々、多種多様な立ち位置で向かい合ってきた物事に対するものさしの蓄積は、自ずと価値観を形成していく。そしてそれは彼の道を示し、街に、ストリートに新しい風を吹き込んでいく。

PROFILE

Toby Feltwell

英国生まれ。96年よりMo’WaxRecordsにてA&Rを担当。03年よりNIGO®の相談役としてABathingApe®やBillionaireBoysClub/IceCreamに携わる。05年に英国事務弁護士の資格を取得後、東京へ移住。11年、スケートシング、菱山豊ともに〈C.E〉を立ち上げる。

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