GRIND

CULTURE, INTERVIEW, MAGAZINE 2020.5.13

Gosha Rubchinskiy

DOUBT/ESSENCE

モスクワのコミュニティを世界へ

ロシア・モスクワのユースカルチャーに、世界へ渡るための羽を授けたゴーシャ・ラブチンスキー 。自身の名を冠したブランドからはじまり、ブランドの休止、スケートコミュニティの形成、新プロジェクトの始動など、彼のクリエイティビティに点在するあらゆるストーリーは、それぞれ明確な理由とともに存在している。※こちらはGRIND Vol.100に掲載した記事です。

GR-UNIFORMA:ゴーシャ・ラブチンスキーが現在手掛ける新プロジェクト。音楽、写真やビデオ、そしてファッションなどさまざまなアプローチから表現の可能性を探求している。

音楽との接点を
表現の先へ

 ロシア人デザイナー、ゴーシャ・ラブチンスキーが自身の名を冠したブランドの休止を発表したことは、今もなお記憶に新しい。アナウンスがあったその翌年の2019年にGR-UNIFORMAという名のもと、新たなブランドを始動させ話題を集めた。だがブランドというカテゴリーで一括りにすることに、疑問を持たせるような動きを彼は常に見せてきた。音楽媒体を介したファーストリリース。音楽をコンセプトテーマにした他ブランドとのコラボレーション。そしてバンドでのライブパフォーマンス。彼が何をやろうとしているのか。確かなことは、ゴーシャの取り組みから滲み出ているように、それぞれに“音楽”が関連しているという事実だ。「何となく分かるとは思うんだけど、GR-UNIFORMAはいくつかの分野が混ざり合ったプロジェクトなんだ。もともと音楽、写真、ビデオ、そしてファッションが好きなことだったから、それらを混ぜ合わせた世界を探求したかった。それにこのプロジェクトは他の何かに左右されたり、追ったりすることはしない。例えばシーズン毎にコレクションを発表しなきゃみたいな、責任感的なものも存在しないんだ。それに今まで僕がやってきた中ではよりアートに近しいプロジェクトで、特にユースの音楽カルチャーに重きを置いている」。2018年に休止した自らのブランド、ゴーシャ・ラブチンスキーを手がけていた頃も、デザイナーとしての動きに加え、フォトグラファーや映像作家など、マルチクリエーターとして表現をしてきたゴーシャ。しかし突然の活動休止を経て、なぜこのタイミングで沈黙を破る動きを見せたのか、彼が答えてくれた理由はシンプルだ。「そもそもゴーシャ・ラブチンスキーを立ち上げた当初は、あんなに大きな規模になるって予想していなくて、そんなに慎重にもなっていなかった。だけどすごい勢いで成長して、あっという間に年月がたっていったんだ。そんな中ふと、もうこのブランドとしてやるべきことは、すべてやり終わったんじゃないか?って感じて。一度終わりにする時がきたなって思ったんだ。もしかしたらいつの日かまた再開するのかもしれないけど、今は誰もそのことについては分からないよ(笑)。だから僕たちは新しいプロジェクトをはじめたんだ。挑戦だね」。

GRUPPA:ゴーシャ・ラブチンスキーの新プロジェクトとして発足された音楽バンド。GR-UNIFORMAの軸にもなっている“音楽”を、リアルな形で表現されている。

“ユニフォーム”が意味する
デザイン性とメッセージ

 今までゴーシャ・ラブチンスキーがやってきたこととして、ロシアの歴史的背景やカルチャー、彼自身が感じたことをクリエイションに落とし込み、次の世代へと伝えようとする姿勢が見受けられる。現在手がけているGR-UNIFORMAもコンセプトのキーワードとして、ユニフォーム、コミュニティ、建築といった要素の存在を明言しており、そこにも彼からのメッセージを感じることができる。「さっきも言ったけどGR-UNIFORMAはアートに寄り添っているんだ。僕はこの“アート”というアイディアが建築にもあると考えている。例えばギリシャの古い建築物とかを見ると、すべての要素があるべくしてあるようなデザインで。これは僕が考えていて表現したいことと同じなんだ。GR-UNIFORMAはプロジェクトの中心にある音楽を軸として、すべての要素をあるべき形に落とし込んでいる。最初にレコードやミュージックビデオ、フォトブックを制作したのも、ひとつのスタイルの枠の中でつながっているからなんだ。だからひとつのスタイルに収めること=ユニフォームで、それは建築と同じ意味。直接的な“洋服”という意味合いでのユニフォームではなくて、自分のアイディアやメッセージをまとめるってことさ」。いかにして自分のビジョンに関係性があるものをまとめ上げていくか。アイディアやメッセージを、どう構築すれば人々に伝わるのか。「デザインを通じて自分のビジョンを表現すれば、他人により理解される可能性が生まれると思うんだ。そうすることで結果としてコミュニティも活性化できる。要するに洋服や家具、音楽の“デザイン”から世界に向けて何か影響を与えれるってことなんじゃないかな。でもあくまでもデザインは僕にとって手段でしかない。僕の中にはアートやビジョン、アイディアがあり、その先にデザインという手段が存在しているんだ。だから“デザイン”って言葉自体は僕にとっては空っぽさ」。

スケートコミュニティで
世界をつないでいく

 ゴーシャ・ラブチンスキーがまだコレクションを発表していた最中2016年に、並列して発足されたスケートラインにあたるラスベート。ゴーシャ本人が根強く持っているスケートカルチャーをダイレクトに反映させたプロジェクトは、カーハート WIPをはじめストリートカルチャーを牽引する不動のブランドとのコラボレーションなど、ゴーシャ・ラブチンスキーとはまた違ったアプローチで、ロシアのカルチャーを世界に認知させてきた。だが彼の今までのプロジェクトや現在の取り組みを覗いてみれば分かる通り、いわゆるただの“スケートブランド”でないことは、容易に想像できる。「このラスベートというプロジェクトは、ゴーシャ・ラブチンスキーのオリジナルのクライアントに向けたものなんだけど、より一層ストリートのキッズにも響くようにしていて、特にスケートボードというトピックは、ラスベートとは切っても切り離せないものだね。友人でもあるロシア人のスケーター、Tolia Titaeveと共同でやっているプロジェクトで、常にスケートコミュニティを念頭に置いているよ。でもスケートテイストの洋服を扱うことがメインゴールじゃないことは確かさ。僕たちがやりたいのは、世界中のスケーターをつなげて、ロシアのスケートシーンを世界に向けて発進していくこと。だから僕たちのスケートクルーのライダー陣を見ても分かる通り、フランス人からアメリカ人までいて、インターナショナルなコミュニティさ。国籍は関係なくてパッションで彼らはつながっているんだ」。

RASSVET:ロシアのスケーター、Tolia Titaevとともに、ゴーシャ・ラブチンスキーらが手がける、モスクワのスケートコミュニティにフォーカスしたプロジェクト。 GR-UNIFORMAと比べてよりユースカルチャーを大事にしている。

街に根ざす理由

 自身の生まれた地ロシアを世界に向けて発信していきたい。この想いは常々彼の口から発せられる言葉。今まで功績を振り返ると、充分すぎるくらい貢献してきたように感じるが、彼のこの願いには明確なビジョンが紐付いている。「僕のメインミッションはロシアのコミュニティを世界に示すことなんだ。自分のクリエイティビティだけじゃなくて、若い才能やミュージシャン、スケーター、アーティストたちを僕のプロジェクトを通じて伝えていきたい。幸運なことにそのチャンスは今まで巡ってきていて、そこでコンスタントに発信してきた。だから昔と比べたら、ロシアのコミュニティに対する世界の人たちの認知度も上がってきていると思うよ。これを継続していきたいね。僕たちのクリエイティブスタジオの拠点をモスクワに残しているのもそれが理由さ。僕は本当にこの街は住むのにも良い場所だと思っているし、ここに留まって世界中の人々にこの場所の素晴らしいエナジーを示し続けていけたら幸せ。だから僕がやっているそれぞれのプロジェクトは、ゴーシャという共同体とモスクワのコミュニティのほんの一部に過ぎない。僕にとって重要なことは、若い才能とコミュニティをありとあらゆる手段でサポートしていくことに尽きるよ」。

ゴーシャ・ラブチンスキーとともにラスベートを手がけているTolia Titaev。最初からゴーシャのコミュニティに近しい存在で、コレクションのショーのモデルとして参加するなど、若い時からゴーシャとの関わりがある。そんな中スケーターであるToliaがゴーシャに、ロシアのスケートコミュニティに対しての考えとアイディアを持ち込み、ラスベートを発足させるきっかけを作り出したと、ゴーシャは語る。今ではモスクワに『OKTYABR』というTolia自身のスケートショップをオープンさせたばかり。

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