GRIND

FASHION, INTERVIEW, MONTHLY 2020.6.24

GAME CHANGER

Interview with Ito Soichiro

取り返しのつかない事態を
受け容れて進む

『覆水盆に返らず』とは一度起きてしまったことは元に戻らない、という意味を指すことわざ。英語で同様の意味を示す表現、"It is no use crying over spilt milk"(こぼれたミルクを嘆いても無駄)をタイトルに冠した企画展、"NO USE CRYING OVER SPILT MILK"が6月18日より渋谷パルコのギャラリースペース、GATEにて開催されている。デザイナーやクリエイターがTシャツを通してメッセージを発信する当企画。主催者である中目黒のショップM.I.U.のディレクター、伊藤壮一郎氏の話から見えてくる企画の舞台裏。そしてファッションに見る、この先の可能性。

Photo_Ryo Sato

タイトルに秘められた
余白の重要性

タカヒロミヤシタザソロイスト.、ジョン ローレンス サリバン、フレッシュサービス、ヴィジョンズ アンド パラドックスなどGRINDとも接点のある数多くのブランドやクリエイターが賛同したこちらの企画。それぞれが現状へのメッセージをプリントしたTシャツを販売し、収益はM.I.U.が構える中目黒の街の活性化や文化維持のために寄付されるという。「3月末くらい、緊急事態宣言が出るという話が出始めた頃、M.I.U.がある中目黒の国道沿いの雰囲気がすごく暗くて、みんなマスクをして下を向いて歩いていたんです。桜が咲き始めた頃だったけどそんなムードもなくて。最初はうちのショップのウインドウが大きいので、通る人達の顔を上に向かせるメッセージレターを描けないかなって宮下さん(タカヒロミヤシタザソロイスト.のデザイナー、宮下貴裕氏)にご相談させてもらいました。数週間後に本当に緊急事態宣言が出て、期間中もメッセージでやりとりさせて頂いてたのですが、4月中頃だったか例の件どうしようかとなって。それで中目黒といえばサリバンの荒士くん(ジョン ローレンス サリバンのデザイナー、柳川荒士氏)ですから、3人で密会みたいな。話していくうちに、僕らもよくお世話になっているお酒を飲みにいくような場所も大変そうだから、そういうところを応援できるような仕組みでやらせてもらいたいということになって、賛同していただいた方が快く集まってくださった感じですね」。不透明な状況を憂いている人も多いだろう。そこに対して無責任にポジティブをばら撒くのではなく、賛同する人々の意志を反映させながら、今回の企画が完成した。「"We think different"というタイトルを最初に思いついたんです。話してみると、今の世の中の状況で、自分はこうだと提示してしまうこと自体避けた方がいいという意見をいただいて、その話にすごくヒントがありました。wouldとかmaybeみたいな、~かもしれないとか~だったらとかそういう話だったのですが、自分の中でこういう時はなにかしら強いメッセージが必要だと思っていたこともあり、ほんと目から鱗みたいな感じで、“余白”がみんなを救うというテーマに行き着いて、結局起きちゃったことは元に戻らないし、嘆いてもしょうがないっていうのが1番腑に落ちたし、しっくりきたんです」。何かを押し付けるのではなく、受け取る側も共に。誰も正解が分からないからこそ、発信の場にあえて不確定な余白を設ける。作り手同士の密な関係性は、多くの人の思考や解釈を受け入れていく受け皿となった。

今回の企画の参加したブランド等はTシャツの背面にプリントされている。「最初はA to Zで表記しようと思っていたんですけど、並び方ひとつにしても手を組んだような配列にできないかなって話しが出て、とにかく少しでも冷たくなる要素は排除して、進めていきました。宮下さんと荒士くんとは人と会えない時もずっとコミュニケーションしていて、この企画は成立しています」。コンセプトを噛み砕いていくと、その裏にある人とのつながりや関係性が見えてくる。

制限もまたファッション

今回のプロジェクトへの賛同者がそれぞれ示したメッセージ。Tシャツという小さなキャンバスは、大きな役割を果たしている。「考えや行動に正解はなくて、昔の人達が作ってきた仕組みの中で疑うことなくやってきて、そこに対する憧れもまだあるんですよ。最近は洋服の生産のスケジュールと売り場での展開を気候に合わせるべきで、暑ければTシャツを着るし寒くなればウールのコートを着るわけですからそれが1番ムダがない。これからはそんな大きな流れになっていく。それでもどこかでそんな当たり前が破綻してる考え方とか強烈なコンセプトとか、ファッションからそういう部分がなくなってしまうのは少し寂しい気もします。あまり世の中に寄り添いすぎない方がいいんじゃないかなと、個人的には思う部分もあるんです」。改めてファッション自体の価値や在り方が問われている。作り手の主張と時代のニーズなどあらゆる要素を調和させて、さらなる魅力を引き出していかなくてはいけない。「今回はみんなが馴染みのあるHelvetica(フォントの一種)で縛ったのが1番面白かったとおもっています。Helveticaの中で何ができるかというお題だったので、すごく個性が出たんじゃないかと。やれることが限られてるから、その分メッセージがストレートに伝わってくる」。自由を奪うような制約や制限は、創造性を引き立てるためには欠かせない。ファッションにおいて、洋服など限られたアイテムで世界観を表現するのと同様に、このフォント指定のTシャツは賛同者のメッセージを明確に際立たせた。今までできていたことが当たり前ではなくなる、ファッションやカルチャーのこれから。そんな時代にこそ、新たなクリエイションが芽生え新たな時代を作りはじめる。既存の枠組みだけでなく、柔軟にそして身近な人との関係性を深めながら、創造につなげていく。今回の展示は、チャリティーや支援というだけでなく、この先のファッションの可能性すら感じさせてくれていた。

それぞれのデザイナーやクリエイターがメッセージを落とし込んだ。率直にシンプルに伝える文言や、パロディー調のユーモアを感じるものなど個性が存分に落とし込まれた。自分な好きなブランドだけでなく、気になる1枚からそれを手がけている人について深掘りしてみるのも良いだろう。すべて¥4500

Information

M.I.U.

渋谷パルコのギャラリースペース、GATEでの展示は24日までだが、
TシャツはM.I.U.の店舗およびオンラインストアにて6月末日まで引き続き販売される。

東京都目黒区青葉台3丁目18−10 カーサ青葉台1F
営業時間:12:00〜15:00
TEL_03-5457-2011
https://miu-tokyo.jp

オンライン特設サイト
https://nucosm.stores.jp/

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