GRIND

ALMOSTBLACK ALMOSTBLACK

CULTURE, FASHION, INTERVIEW 2021.6.24

ALMOSTBLACK

Interview with Shunta Nakajima

アートに宿る精神性を
ファッションに映す

ポスト・ジャポニズムを掲げ、美術と音楽、なかでも日本の美意識が息づく工芸品と服を融合させたクリエイションを実直に続ける〈オールモストブラック〉。カルチャーやファッション、そして時事的な要素の絡み合いは常にデザイナーである中嶋峻太氏を軸にして強まってきた。ブランドの独自性と姿勢はアートとファッションの関係とその先を示す。

Photo Kei Sakakura
Edit&Text Marin Kanda

アーティストと自身の
共通点を探る

 近年アートとファッションの距離はますます近づき、アーティストとのコラボレーションを謳った服が溢れる。ラグジュアリー、ストリートを問わず多くのブランドが毎シーズンアートにインスパイアされたアイテムを発表する中、協業という一言では語り尽くせない深さで2つの要素を繋ぐのが〈オールモストブラック〉。2シーズンかけて同じアーティストをテーマするなど、アートとファッションの融合を多角的なクリエイションで発揮してきた。「〈ラフ シモンズ〉でアートがファッションに落ちる瞬間を目の当たりにして衝撃を受けた」と語るデザイナーの中嶋峻太氏は川瀬正輝氏と出会ってからブランドを立ち上げ、1人でデザインを手がけるようになるといった分岐点を通ってきながらも、〈オールモストブラック〉は全くブレていないと言う。中嶋氏にその真意を聞くと自分との対話を重ねることで固めてきたブランド像が立ちあがる。「〈オールモストブラック〉で発表する服は、限られた時間の中で自分自身の経験を通してしっかり考え、消化することで見つけられる1つの答えなんです。自分の中にあるものから見つけて生み出さないと嘘になってしまうから、いつも回想と対話を繰り返してきました」。

2021AWと2022SSのコレクションテーマとなった白髪一雄氏にまつわる作品集。白髪氏はキャンバスに足を使って、大胆に絵の具を塗り広げていく作風が特徴だ。晩年、筆致が弱まっても足が絵の具の毒素で肥大しても制作を続けたという。

自己との向き合いはコラボレーションの対象となるアーティストやコレクションのテーマそのものとの繋がりに導かれていく。〈オールモストブラック〉の服が単なるコラボレーションにはないアートとの結びつきを感じさせるのは、アーティストの精神性や哲学が中嶋氏という軸を支点に行き渡っているからだろう。「常にコレクションテーマにしたアーティストと似ているところや近さを探ってきました。たとえば、2021AWで題材とした白髪一雄さん。妻の富士子さんに支えられて作品を制作していたという一雄さんと、妻がブランドのグラフィックを担当している僕に親和性があったので、白髪夫妻の関係性をコレクションにおける軸としました。また、2人から感じる”新しいことをしたい”というパンクスピリットにも共感するものがあって。僕も服をつくる中で、常に新しいものを生み出していたいという気持ちでここまで走ってきました。ずっと独自性や新しさについて思考してきたからこそ、精神性や哲学といった抽象的な要素をアーティストの軸に近づけながら〈オールモストブラック〉らしさに変換し、服とデザインに落とし込むことができるんです。アートの業界でもファッションの業界でも、勝ち残っていくにはオリジナリティがあるかないかって重要ですから」。カルチャーをフックにしたアートの模倣や作品のプリントTシャツもアートとファッションの融合がもつ一面といえる。しかし、中嶋氏はアーティストが何を考え、どんな人生を生きながらその作品を手がけたのかリサーチを重ねた上で、自分との近さを見い出してきた。その精神的な繋がりを〈オールモストブラック〉として提案していくことが中嶋氏ならではのアートの落とし込み方であり、人を魅了する服づくりとなっていく。

  • スライド

  • スライド

批評で高める
ファッションの価値

 「今シーズンのルックブックには美術批評家としてもご活躍されている、村上由鶴さんがコレクションの批評を寄稿してくださいました」。2021AWのコレクションでテーマとなった白髪夫婦や作品、〈オールモストブラック〉とのコラボレーションにまで触れた内容が載せられている。ブランドがステートメントとしてシーズンテーマや服のディテール解説、インスピレーション源を語るのは一般的だが、第三者による批評がブランドのルックブックで掲載されるのはそうある話ではない。なぜ美術批評の視点でコレクションの解説を掲載したのか。「アートは批評されて作品としての価値が上がっていく、という文脈が重要あることを最近知ったんです。日本は特にファッションジャーナリズムや批評によって、ブランドや服の価値が上がっていくことってないですよね。著名人が着ていたり、名のあるデザイナーが作ったものなら無作為にかっこいいと評価されている。だから、僕らは僕らなりのやり方でファッション業界を変えていけたらいいと思いました。単発的なバズや転売による価格高騰もある種のカルチャーといえるのかもしれない。ですが、本質を大切にしている人たちはたくさんいるので、雑誌などの媒体を通してもっと発信していけたら服づくりをしている僕としては嬉しいです」。批評を臆さずむしろ受け入れることは、〈オールモストブラック〉のクリエイションがどう受け入れられているのかを知覚し、新たな視点や糸口を見い出すことを可能にする。

毎シーズン発売されるプリントTシャツ。「ミュージアムショップで売っているTシャツにアートとファッションの繋がりを見い出した」と語る。作品がプリントされたアイテムのタグに記されている作品のクレジットは「この作品を知ってもらいたい」という中嶋氏の思い。

「アートとファッションの融合におけるビジネス的なコラボレーションは市場が大きくなり、止めることはできない。どこに真実があってどれがフェイクかなんてわからないですよね。その中でブランドの本質や姿勢、価値の深さを伝えるためにはアートが批評とともに作品集になるように、紙でルックブックをつくる必要があると感じるんです」。〈オールモストブラック〉はアートにある特有のカルチャーを持ち込み、ブランドのみならずファッション業界を次のステージへ押し上げようとしている。アートが専門的な視点で解体されることで信憑性を増し、価値が付与されるようにファッションにおいても批評が必要なのではないだろうか。中嶋氏のアートに対する深い洞察と〈オールモストブラック〉の挑戦的なクリエイションは、従来のファッションとアートの関係性において異なる側面を示している。

PROFILE

中嶋峻太

1982年、愛知県生まれ。エスモード パリを卒業後アントワープに移住し〈ラフ シモンズ〉のデザインアシスタントを務める。帰国後〈N.ハリウッド〉のデザインチームの一員として活動しながら、2015年に〈オールモストブラック〉を立ち上げデザインを手がける。

RECOMMEND