CULTURE, FASHION, INTERVIEW 2024.6.7
YOUTH BY NERO
Interview with NERO
好きなことを情熱的に
ニューヨークを拠点とするヘアスタイリスト、NERO。彼は〈Supreme〉や〈Helmut Lang〉など、ニューヨークを代表とするブランドの撮影を手がけるヘアスタイリストだ。自ら髪を切った友人たちを撮影した、自身初の写真集『YOUTH BY NERO』を2024年6月1日発売。「自分には才能なんてないんですよ」と言うNERO。謙遜ではなく、自身を客観視できるその強さが、ニューヨークという大都市で日本人が成功するためのヒントを提示している。
Photo_Yudai Emmei
Edit&Text_Yuki Suzuka
YOUTHに秘めた
譲れない想い
フォトエキシビションオープン前日の金曜日。オープニングパーティーの会場前に到着すると、道に溢れる人だかり。会場に入ると、そこにはゲストひとりひとりに笑顔で接客するNEROの姿が。「当日はよろしくお願いします」とNERO。あまり話す時間はなかったものの、謙虚で人柄の良さが滲み出ていたのが印象的だった。
インタビュー当日を迎え、再び会場を訪れると大雨にも関わらず、たくさんの人がNEROと写真を撮るために待っていた。この人を引き寄せる彼の魅力とは一体なんなのだろうか。貴重な時間を割いてくれた彼はまず写真集を制作した経緯について話してくれた。「UNDER Rさんから声をかけていただきました。もともとは自分でウィッグを被って200種類のヘアスタイルをつくるっていうセルフポートレートを今展示している写真と同じカメラを使って撮っていたんです。で、これをスタジオに来てくれた人たちにヘアカットやスタイリング後に撮ったらおもしろいなと。写真集にすることは考えてはいなかったのですが、次第に撮っている写真が蓄積されていって、今回展示をやるとなったときにこれを本にしたらおもしろいなと思いました」。当初TシャツとZINEをつくる予定だったが、次第に熱を帯びていき結果的にハードカバーの写真集を出版することに。その過程は楽なものではなかった。「〈ヴァイナル アーカイブ〉のルックも僕がヘアを担当させていただいてるという繋がりもあって、〈ソルト アンド ペッパー〉として出版も手がけている幸平さんに声をかけました。ZINEだったら協力するよと言ってもらったのですが、どうせやるならやっぱり本が良いなと思って、お願いしたんですよ。ハードカバーにしたいとか、紙にこだわりたいとか、僕のわがままばかりで、最初は1万円くらいの価格になるよと。でも僕は6000円までじゃないと絶対に嫌ですと伝えたんです。幸平さんからもそれは無理だよっていう話だったのですが、そしたら僕もやりたくないと、何回も無理を言って調整してもらいました」。なぜそこまで価格にこだわったのかと尋ねると、そこにはNEROが写真集に秘めた想いがあった。「僕はヘアスタイリストとして、美容学生とか、あとは一般の方、ファッションがなんとなく好きっていう人とか、そういう人に届けたいという気持ちを込めてこの本を出版したいと思ってきました。でもアシスタントさんとか学生さんだと1万円ってなかなか手が出しづらいですよね。僕はただの一般家庭で育ったなんでもない人なんです。才能なんかないです。そんな人でも情熱をもって好きなことをやり続けていれば、それが何かの形になるというのを多くの人にみせたかったんです。いろんな希望になるんじゃないかなと思っています」。
ニューヨークを拠点としたタレント渡辺直美とも親交が深いNERO。office magazineで彼女の表紙を撮影した彼はその一部を展示している。
光と影の街で培った
芯をもつ大切さ
NEROがはじめて渡米したのは18歳の学生時代。世界一といわれる都市を自分の目で確かめたい一心で向かったが、街のエネルギーに圧巻されたのだという。そしていつか戻ってくると決心し、2014年からニューヨークに拠点を移した。現在は経済の状況も大きく変化して、物価上昇の影響もあってか人の移り変わりが一層早まっている。この街では普通に暮らしていくことすら簡単なことではないのだ。「どんどん物価が高くなっているので、それにあわせて人も変わっていくんですよね。ニューヨークという街は光と影がものすごく現れる街だと思っていて、月に300万円する家賃のマンションの隣にホームレスがいます。東京では考えられない光景です。病んでしまう人も多いし、弱っていると影に飲み込まれてしまいます。逆に情熱をもって好きなことやり続けている人たちは光に集まります。ニューヨークは本当に強い街だと思っているので、情熱がある人は輝けると思います」。そんなNEROのまわりには周囲を気にせず好きなことをやっている人ばかりだというが、なかには彼の活動を快く思っていない人もいると話す。「僕はヘアスタイリストという肩書きなので、写真を撮ってそれを本にしてエキシビションをやってとなると、それをよく思わない人もいます。でも別に媚を売る必要もないと思っています。他人に良く思われたいからやるのではなくて、自分が今やっていることが、結果的に誰かにいいと思ってもらえるようになりたいです」。人に流されず自分の好きなことに正直になること。彼のこの姿勢がポートレートを撮る瞬間にも映し出される。「本にある写真も展示している写真も全て、1枚しか撮っていないんです。その1枚に宿るエネルギーっていうのは、2枚に比べて2倍にあるんですよ。写真を撮れば撮るほど、その分エネルギーが分散されると僕は思っているので、その瞬間をいかに大事に撮るかっていう部分にこだわっています。そのときに変な顔したらそれはそれでいいんですよ。かっこいいものを撮りたいわけではなくて、その人を撮りたいんです。仮に目をつぶっていてもそれは失敗ではないですし、失敗なんてそもそも存在しないと思っているので。そういう気持ちですかね」。
周囲の力があってこそ
ヘアスタイリストという肩書きに自分をはめるのではなく、好きなことの延長線上で情熱をもってその活動の幅を広げていくことで、自らの居場所をニューヨークという街で築き上げてきた。言い方は悪いがニューヨークには彼ほどの技術や才能をもった人はおそらくいっぱいいるだろう。しかし彼がこれほどまでにたくさんの人を魅了するのには理由がある。「自分がニューヨークに行ったばかりの頃とか、自分が何でもなかった時代から仲良くしてくれた人の気持ちとかは絶対忘れないようにしてますね。最近だと新しく知り合う人とか、僕がこういう仕事をしていることでファンシーだと思ってくれる人も多いです。それこそ〈Supreme〉やっててとか、渡辺直美さんとも交流があってとか。僕自身もそれを知らなかったら、有名な人なのかなと思ってしまいます。でもそういうことをやる前から僕と仲良くしてくれていた人とか、お世話してくれた人は損得ではなく付き合ってくれていたわけじゃないですか。そういう人たちのことを常に大切にしていきたいなと思っています。自分ひとりじゃ何もできないと、今までの人生で痛感してきているので。自分ができる範疇で周りの人に還元できれば良いですよね」。感謝の気持ちを忘れない。シンプルでありふれたこのフレーズは、それを実践してきたNEROが発すると重みをもつ。彼がニューヨークで経験してきたこと、見てきたものはおそらく壮絶なものもあったに違いない。だからこそ周りのサポートの重要性を実感しているのだろう。自分自身の力だけで成り上がるのには限界があるとNEROも言うように人との関わりを大切にし、周囲を巻き込んだ先に結果としてステップアップがついてくるということだろう。
NERO
1986年東京都生まれ。日本美容専門学校卒業後、4年間ヘアサロンに勤務したのち'14年に渡米。世界的なヘアスタイリストBob Recineなどのヘアアシスタントを経て'19年に独立。NYを拠点にヘアスタイリストとしてi-DやVogueなどのエディトリアルを手がける。自身が撮影、ヘアスタイリング、キャスティングを担当した『Nero's World』は、'23年のoffice magazineの表紙を飾るなど、写真家としての活動も精力的に行う。
Information
『YOUTH BY NERO』 PHOTO EXHIBITION
at 〈UNDER R〉
渋谷区千駄ヶ谷2-6-3
6月8日(土)9日(日)13:00 - 17:00
SALT AND PEPPER
渋谷区恵比寿西2-5-2 今村ビル 2F
12:00 - 19:00(平日) 11:00 - 18:00(土・祝日) 定休日:日・月
*『YOUTH BY NERO』写真集購入希望の方は下記リンクよりお求めください。
sandp.tokyo.com