TOMOCHIKA KOMORIYA /
VISIONS AND PARADOX from vol.101
演出の視点に見る
客観と主観
ファッションショーを軸に、ブランドのパーティーなどにおける空間演出を手がけるディレクション会社〈ヴィジョンズ アンド パラドックス〉の代表、籠谷友近氏。フィジカルな現場での活動が難しくなった今、この先の在り方と現状を切り抜けていくヒントを、彼が見据えるビジョンから探る。
Photo Naoto Usami [sasaki office]
Edit Hiromu Sasaki
本質に立ち返る
ファッションと空間の親和性は高い。ファッションショーをはじめ、ブランドが手がけるインスタレーションやパーティはその世界観の立体的な表現を可能にし、訪れる人々に特別な体験を提供する。しかし世界的なパンデミックで、あらゆる事柄が少なからず影響を受ける中、そうした場所を提供する作り手は大きな局面と対峙している。「ブランドの表現にはコレクションやパーティが大きな手段としてあり、彼らにとって重要度は高かったんです。それが一切なくなった。当たり前ですがこういう状況下だと、そもそもやろうというマインドにするのは難しい」。グローバル規模で評価を得ている空間ディレクション会社〈ヴィジョンズ アンド パラドックス〉の代表を務める籠谷友近氏は、現状についてこう切り出した。「ショーとかパーティーは人のマインドが大きく左右するから、無理やり来てもらうくらいだったらやらないほうがいいと思うんです。我々プロデュース側も、ただ人を呼ぶことが目的ではなくて、来てもらった人のマインドを動かしたいという想いでやっています。だからそれが刺さる土台がそもそもないと、意味がないんです」。人々の意識はリアルな場所からデジタルへと速度を上げてシフトしたが、ファッション界でも同様に、デジタルファッションウィークが催されるなど、その動きは顕著だった。「人が会わずに発信できるものって何だろうと考えたときに、短絡的ですがオンラインがメイントピックスとして思い浮かびました。ただもともとオンライン自体は我々の業種では却下されやすいツールだし、フィジカルでやることに価値を見出してやってきたので。もちろんメリットはあるし、良いところはピックするべきだと思います。それによって新しい表現や体験に繫がるのなら、積極的に導入するべきです」。対極の良さを受け入れフラットに状況を観察する。フィジカルとデジタルの間で模索していた時、あるひとつのショーが籠谷氏の心を揺さぶった。「デジタルのコレクションは全部チェックしました。またそれを会社でも会議にかけて、いろいろな角度の意見を聞き、向き合いましたが、全然ピンとこなかったんです。そんな時に目にした、ヨーロッパで行われた、あるブランドのコロナ以後に行われた初めてのフィジカルショーがすごく印象的で。庭でショーをやってドローンを飛ばすという普遍的な形式だったのですが、そこにお客さんが映っていて。それを見たときにグッときたんです。今まで当然と思っていた観客が、その場にいるだけでこれだけ違うものかと。こうした状況の最中、デジタルでどう表現できるかで頭がいっぱいだったので、自分たちの仕事を再認識しましたね。また別のブランドですが、美しいシチュエーションに、洋服を纏ったモデル、細かい編集などしっかりと作り込まれた映像を見たんですよ。そういったものはいくらでもこの世の中にあるけど、映像の最後の部分でハッとさせられて。ラストパートで屋上部分にモデルが全員登場するのですが、その場にデザイナー以下のアトリエの人たちが全員そこで見ていて、スタンディングオベーションでフィナーレを迎えるシーンが一瞬映るんです。この映像にはお客さんではなく作り手が映っていて、その想いが画面越しから滲み出ていたんです。要するに映像でもフィジカルでも、そこにお客さんや作り手の人の心が宿っていることが重要なんです」。
主観を囲う客観性
「新しいことにトライするのは意味があります。ただやっぱり僕は、人の心に付随することをやりたいから、そのコアをベースにどうフィジカルとデジタルを抽出していくかってことが大事なんです」。籠谷氏が重きを置くのは、あくまでも人の内側。「ショーって人の心を揺さぶる、究極に計算されたものだと思うんですよね。1ミリ、1秒みたいなところから考えられて表現されている。そこではじめて人の心に刺さると思うんです。感覚だったり表現そのものが、アートに近いものだと思っています」。場所作りに対する考え方やこだわりは、包括的に要素を汲み取りながらオリジナルの表現へとリンクしているが、ベースを支えるもうひとつの価値観として〝主観と客観〞が紐付いている。「職業的にも自分のスタイル的にも『客観』が周りにあって、真ん中のコアに『主観』があるイメージなんです。仕事柄基本的にはクリエイターと仕事をしていくわけだから、誰がきてもまずは一回マッチできるようなフラットな状態にしていて。そうすれば自ずと客観的に自分が見えてくるし、結果として主観もソリッドになっていくと思うんです」。物事に迎合せず自分の中に筋を立てながら平等に模索していく。その姿勢が先の道、ビジョンを照らしてくれる。
PROFILE
籠谷友近
主にファッションショーなどの空間ディレクションを手がける〈ヴィジョンズ アンド パラドックス〉の代表を務める籠谷友近氏。細部までこだわり抜かれたディレクションは、つくりあげられる場所の雰囲気や質を別の次元へと誘う。