GRIND

INTERVIEW, MAGAZINE 2020.5.18

the Force

HENDER SCHEME

エンダースキーマという選択肢

一目見たら、その出で立ちでどことなくエンダースキーマのアイテムだと感じさせる。目立つロゴが入っているわけでもないし、わかりやすい装飾が施されているわけではない。革のアイテムはこの世に溢れているのに、どこか何かが違う。立ち上げから今年で9年目を経過するエンダースキーマのデザイナー、柏崎亮さんが浅草に根を下ろし、歩みを刻みながら生み出すのは、確かな答えのないファッションを嗜むための選択肢。※こちらはGRIND vol.95に掲載された記事です。

革で表現する
相反する要素

 ー躍その名を知らしめることになったmipシリーズをはじめ、独特の空気感を漂わせるアイテムの数々。靴作りからスタートし、今では革小物やバッグなどシーズンを追うごとに表現する領域も広がりを見せている。「靴のメーカーで慟きはじめたのが、そもそも靴や革に携わるようになったきっかけです。工場でラストを削ったり、靴のサンプルのソールを作成したりしながら、リペアを何年かやって、自分のブランドを立ち上げました」。作り手として関わるようになった靴や革。一番得意なことを表現の手段として用いることは必然的なことだった。「革の魅力はやはり馴染んでいくという点もありますが、生き物からできているとても有機的な素材なので、素材として長持ちするということだけでなく、考え方においても長持ちさせたいと自然に思わせてくれます。とても有機的で温かい印象があるのですが、もう少し無機質に見えるようにしたり、プロダクトにする過程でバランスを意識しながら制作しています」。革の持つ生き物から生成される素材だからこその丸みを帯びた雰囲気を、ありのまま伝えるのではなく、柏崎さんのバランス感を革に馴染ませていく。革や手作業というワ—ドには、ほっこりとしたイメージが付きまとうが、エンダースキーマを現在の立ち位置に推し進めるには、ある意味プラスの影響を与えたのかもしれない。「世間ー般的に見るとクラフトってすごく手の温もりみたいな感覚があると思うのですが、個人的にはもう少しシャープな方が好きなので、自分の癖が染み込んで自ずとネームを見なくてもエンダースキーマのものというのがわかるようになればいいなと思います」。モノづくりだけでなく、既存のアイテムや概念に異なる角度からのアプローチを行いながら、白でも黒でもない世界を切り拓き、選ぶ側、使う側の選択肢を増やしていく。

(上)ヌメ革で作られたレザージャケット。馴染みのある形に、異なる視点でアプローチするという姿勢にエンダースキーマらしさを感じられる。(下)AW19シーズンは、少しミリタリーを思わせるフォルムのブーツに、素材を切り替えていたり、大胆なクレープソールが特徴的なものなど、新たな側面が垣間見えるアイテムが揃う。

(左)タブレット端末を使用し、どのように刻印するかを決めていく。こうした体験も単なる消費者と作り手という関係性以上の価値を与えてくれる。(右上)お店の外灯に記されるスキマの文字。(右下)店舗の外観。デザイナーの柏崎さんのイメージを忠実に、オレンジのビニール素材が仕切りとして使用されている。

隙間に宿る
示したい態度

 実際の製作における方法や考え方のみではなく、根幹を成す信念や態度がブランドの魅力を引き立てている。当初に比べ手がけるアイテムの数など、規模が大きくなっている現状だからこそ見失ってはいけない部分を基盤にする。「作る量は増えていますが、周りの評判みたいなものは浅草までは聞こえてこないので、あまり気にならないというか、気にしてもしょうがないので。自分たちは自分たちのペースで淡々と営んでいくことが大切だというのは、ここ2、3年でさらに思う部分です。シーズンを通して何を作るかというのはとても重要ですが、どういう態度で営んでいくかという点も、ものすごく重要です。ファッションレーベルの通例と違って、シーズンごとに具体的なテーマがあるわけではないし、シーズンごとに分断してガラッと違うものを作る必要はないので、基本的には地続きでつながるように更新していきます」。昨年6月にオ—プンした恵比寿に続き2店舗目となる、スキマ合羽橋では、ブランドのアイテムを手に入れることはもちろん、ブランドの生産背景に紐づく革を裁断する機械が店頭に置かれていたり、刻印のサービスが体験できる。売る側と買う側、作る側と使う側という関係性の隙間を埋めるように、単純にプロダクトを売るだけの存在以上の価値を果たしている。製作するアイテムに落とし込まれる、有機と無機のバランス感にも似た、何かの間で表現をする感覚は、コンセプト、お店の在り方、作り手との関係性などいたるところに宿り、私たちの感性をくすぐるのだ。

(上)革を裁断する際に使用する機械。包装に使用する革バーツなどを、店内で製作している。重厚な仲まいで存在感を発揮する。(下)刻印機の動作の様子。

自社に備えられた、工房の様子。生産は基本的には信頼する工場に委託しているものの、小物類や工程の一部を自社で行うことができる。こうした仕組みを可能にしているのは、柏崎さんをはじめ生産に携わる社内の人々が、職人上がりであるからこそ。生産者の気持ちを理解して物作りを行うことが可能になっている。

(左)原料となる革のサンプル。革と一言に言ってもその原料となる動物や加工方法は多岐に渡り、莫大な種類を取り揃えている。(右)靴の製作に欠かせない足型の一部。

イエスとノーの間にある
無数の層

 エンダースキーマは、社会的な性差にとらわれず、自由なモノづくりをしたいという想い、そして生産の過程をデザインするという2つのコンセプトを掲げているが、そうしたコンセプトと並行して示していく態度がある。「僕たちは何かを変えたいということではなくて、いろいろな選択肢の幅をただ置いていきたくて、二元化するのではなくて、イエスとノーの間にある無数の層に、選択肢の幅を見せたいんです。こうあるべきだという思想を押し付けるのではなくて、受け手がそれぞれに感じ取れるような、はいとかいいえではないすごくもやっとした部分」。こうした姿勢の表明は、ブランドの名を広げることになったmipシリーズにも表れている。「僕らの生産過程を伝えるための方法として、マスプロダクトを手工業で形にすることで、それぞれを比較できる道を作って、お互いの良さや違いを伝えることができるのでは、と考えたのがきっかけでした。決して手工業が素晴らしいというのではなく、お互いにその良さがあるという点を見せたかったんです」。自分たちの示したいこと、変えてはいけない根底の部分を伝える手段として革がありプロダクトがある。そして価値観や考えを押し付けるのではなく、どこかの誰かの選択肢のひとつとなっていく。有機的であり無機的、クラフトでありモード、イエスでありノー。どちらでもないし、どちらでもある。一概に判断できないこの感覚こそ、バランスが成し得ることなのかもしれない。掴み所がないようにも思えるが、自分が持つ基準を通して見ることで、“イエスとノーの間にある無数の層”という言葉が持つ意味合いを体感することになる。

生産を委託する工場の作業風景。生産者としての視点を持つブランドだからこそ、工場で働く人々とも密な関係性を作り上げ、同じ方向を向いてモノづくりをすることができている。エンダースキーマを成立させる上で最も重要とも言えるポイント。Photo_Hender Scheme

生産者との関係性

 基盤である姿勢や態度、コンセプトといった諸要素は発展を続けていってもないがしろにされず、むしろより強固に研ぎ澄まされていく。「僕らはここに拠点があって、周りには職人さんがいて、僕らがデザインすることで、職人さんに仕事を持ち帰るという形で役割分担をしていて、相互にフラットな関係で持続できるいい関係を作るというのは最初から強く意識していました。ブランドの生産チームも全員職人あがりなので、時には手伝ったり、何より一番は作り手の気持ちをみんなが理解していることです。生産者の人たちと密にやり取りしながら一緒に作り上げています」。コンセプトがあっても、示したい態度があっても、形にできなくては意味を成さない。いずれも欠かせないものであるからこそ、何が適しているかを見極め、互いに補い合いながら、プロダクトを世に送り出していく。「当初から、セールスもPRもすべて自分たちで完結できているので、周りの影響を受けにくいですし、独自性を保っために、今後も自分たちで決めていきたいです」。当初から変わらずに更新していき、2015年からパリで展示会を行うなど海外でもその評価を確かなものにしている。「海外だからこその評価軸みたいなものは特に感じません。自分たちもパリを意識して作るものを変えるということもないので、日本と大きく変わらないと思います。ただ、色々な人が来るので改めて世界の広さとか、多様であるということを感じました」。国内、海外での評価、またはアディダスとのコラボなど時間と比例するように、その名を浸透させているようにも見えるが、エンダースキーマとしての営みが、周囲を巻き込みながら、選択肢を生み出したというだけのことに過ぎないのかもしれない。

問題点の中で

 何かを生み出すプロセスの中で、目を背けることはできない、廃棄やロスといった問題点に対しても、正面から向き合いより良い方法を模索する。素材の特性上免れない、中途半端な大きさにカットされた部分など、靴やカバンなどには使用できないサイズの革は、小物に活用しながらそのロスを極力少なくしていく。そして最近では保管していたサンプルを「ハイキではなくハイフ』することで注目を集めた。「革は1枚1枚動物の形をしているので、目視でしか裁断できないんです。生地なら重ねて裁断できるのですが、革は傷や伸びる向きなども違うためそうはいきません。そのためロスが多いので無駄を出さないように小物で活かしたりすることを心がけています。サンプルの配布に関しても、態度表明のひとつだと考えています。単純に捨てるって残酷だし、作ったものを捨ててしまうというのは、作り手からすれば誰しもが避けたいことだと思います。このプロジェクトではWebサイトを立ち上げて、箱に刻印を施したり、かなりの費用と労力がかかったのですが、精神的に健康でいるためにも、自分たちなりの解決方法を見つけていきたいんです」。近年ファッションの世界において取り上げられている、ロスや廃棄といった問題点にも通ずる解を自分たちの在り方のひとつとして提示することで健康的な循環が生まれ、生産をする上での利点としても作用した。「今回は生産者の方たちにも配布したのですが、普段手がけているものを使用してもらう機会があまりなかったので、実際に使ってもらうと、作り手としても気づける部分があります。さらに使用して気づいた部分を次の生産に活かすこともできます」。すべての取り組みが、ブランドの営みとして、互いにポジティブに影響を与え合う。さらにはそうした営みは、声高らかに謳い文句として用いられるのではなく、プロダクトに集約されているからこそ美しい。ファッションにおいて明確な正解は存在しないが、だからこそ私たちにあらゆる選択肢や、問題点について考える機会を与えてくれるエンダ—スキーマが、無数の楽しみ方の中のひとつとして、浮かび上がってくる。

『ハイキよりハイフ』というコンセプトのもと行われた、「SAMPLE REVIVE PROJECT」。関係者や生産者への配布ではあったが、態度表明のひとつとして私たちのファッションに対する見方に、新たな視点をもたらしてくれる。Photo_Hender Scheme

余った部分の革を活用した小物類。店内にも豊官に並び、アイテムとしての魅力もさることながら、アイディアに驚かされる。無駄を出さないために作るのではなく、生活を豊かにするために生み出すアイテムが結果としてロスを削減しているかのようにも思える。

Shop Information

スキマ合羽橋

住所:東京都台東区 元浅草4-2-10 高橋ピル1F
営業時間: 12:00〜19:00
定休日:月曜日(祝日は営業)
TEL_03-6231-7579

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