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RYOHEI KAWANISHI from vol.101 RYOHEI KAWANISHI from vol.101

CULTURE, INTERVIEW 2020.11.30

RYOHEI KAWANISHI from vol.101

作り手の視点に見る
新たな時代の解釈

ニューヨークのブランド、ランドロードでデザイナーとして活躍した川西遼平氏。今後は日本に拠点を移し新たな動きを見せていく予定だという。川西氏がロンドン、ニューヨークでの経験で培った感覚や、見てきた景色は彼の今後のクリエイションや、閉塞感のあるファッションシーンにおける新たな可能性、選択肢を示唆する。

Photo Yoshimi Ikemoto
Edit Shuhei Kawada

大都市からローカルへ

 ニューヨークでランドロードというブランドを率いていた川西遼平氏。ロンドンの名門セントラル・セント・マーチンズからニューヨークではパーソンズの大学院に進学。その後のランドロードでの活躍は彼の名を世界へと広げた。そんな川西氏は6月より日本へと活動の拠点を移した。「トランプ政権に変わり、労働ビザの問題など私生活での支障が多くなって、コロナが追い討ちをかけたという感じです。東京ではなく実家のある鳥取に帰ってきました」。地元鳥取への帰還の背景には、広い世界を見てきたからこその葛藤が。「今までは大都市に人が集まり、そこから新たなカルチャーやブランドが生まれてきました。ランドロードでも、メディアを使ったマーケティングで広げていく大都市中心のものでした。ファッションショーはその最たる例で、多くの業界人の評価が大衆に落とされていくというのが今なお一般的ですが、SNSの発達などでその手法も難しくなってきました。こうしたトップダウン方式はセレブリティや有名人が着たものをみんなが買うことにも通じます。ランドロードではジャスティン・ビーバー、エイサップ・ロッキーなどが着てくれましたが、直接的にビジネスに繋がるかというと意外とそうでもなかったり。今までは大都市が文化の中心でしたが、今後はこの時代における文化の作り方って何だという課題が出てくるでしょう。結局僕は見えない人たちとコミュニケーションとってビジネスするより、顔が見えるお客さんと対話し、自分がつくったものに共感して着てくれるほうが性に合っているなと思っています」。地元を飛び出し、ロンドンそしてニューヨークへ。華やかに見えたステップアップは、クリエイションへの想いとの間にギャップを生み出していた。「高校生までは鳥取にいて、ロンドンで7年半、ニューヨークで7年半、また鳥取に戻って。飢餓感から外に出て行きましたが、いろいろなものを見た結果この時代ならどこでもできるよね、みたいな。加えて情報量の多さにも疲れていたのかもしれません。10〜20代で影響されて吸収してきた情報を、自分の中に残るもの残らないものと取捨選択できるような歳になってきたかな」。ファッションに限った話ではないが、都市や規模に依存する状態は変化していくだろう。人が集まることの難しさや、発信がたやすくなった現状を踏まえて川西氏が目を向けたのは、かねてから模索していたというローカルでの活動。自分の手が届く範囲で、直接コミュニケーションを図れる人々へ、クリエイションで想いを伝えていく。

  • スライド

    鳥取にて同郷の写真家、故・植田正治のアシスタントを長く務めた池本喜巳氏が撮影。池本氏自身も鳥取市にて池本喜巳写真事務所を経営し、2016年には池本喜巳小さな写真美術館を開館。10月末に川西氏がオープンする予定の店舗は、山奥にある明治時代の蔵を改修し、設計中だという。住所:鳥取県八頭郡若桜町若桜268(若桜民工芸館奥)

  • スライド

    鳥取にて同郷の写真家、故・植田正治のアシスタントを長く務めた池本喜巳氏が撮影。池本氏自身も鳥取市にて池本喜巳写真事務所を経営し、2016年には池本喜巳小さな写真美術館を開館。10月末に川西氏がオープンする予定の店舗は、山奥にある明治時代の蔵を改修し、設計中だという。住所:鳥取県八頭郡若桜町若桜268(若桜民工芸館奥)

“軽い”時代に
“重さ”がもつ意義

 「実は帰ってきてすぐ、新しいプロジェクトとして、古布を集めて今着られる服に作り変えるということをやって、神戸のMuktaというお店でポップアップを実施しました。サスティナビリティは僕らの世代ではしっかり向き合わなくてはいけないので、自分でも試したくてはじめたプロジェクトですね。一点物みたいなモノづくりで生産量は上がらないし、ビジネスとして成立させるのは難しいので、続けていける方法は考えないといけませんが」。ニューヨークから鳥取という移動同様、モノづくりに対しても、大量生産のアプローチから一点物のリメイク的な手法で手応えを探った。「安牌は取らず、リスク背負ってやるほうが楽しいから。やっぱりエネルギーがある”重い”ものに興味があるし面白くて好きです。最近よく思うのはおそらく僕らが今考えている価値観って、少し難しい表現をするとポストモダン的な価値観を引きずっているというか。コンセプトや哲学をどう服にのせたとか、デザインにのせたか。服を着るだけじゃなくて思想も一緒に、みたいな。多分これがポストモダンのファッションにおける価値観だったと思うのですが、今の時代はもっと端的になっていて、そういうことをすると重くなったり、“必要ある?”という疑問が出てきた。そんな状況でさらに一歩先の時代が来てしまったという感じですよね」。種々の問題が噴出する新たな10年のスタート。ファッション界もさらにスピードを上げて次のフェーズへと移ってしまった。「現状を踏まえると、大きい規模の会社やブランドはどんどん数字を求める時代になるでしょうし、僕らみたいな人たちがエネルギーあるクリエイションをしていけばいいかなとは思います。僕がどう頑張っても大手のような規模感は出せないから、じゃあどう付加価値をつけるかっていったら、ポストモダン的な価値の付け方、あるいはもう一歩先の表現方法になるでしょう」。”軽さ”を否定するのではなく、受け入れながら、自分の興味や趣向を踏まえて、見えてきた方向性。時代が変わってもファッションが人々をひきつけるのは”軽さ”と”重さ”の両面があるからこそ。あっという間に日常が変わってしまう様を見せつけられている今だからこそ、本当に残していきたい”重さ”を、自分の中に宿してみてはいかがだろうか。

PROFILE

川西遼平

2015年から2020年の5月までニューヨークを拠点にするブランド、ランドロードのデザイナーとして活躍。6月以降は地元である鳥取に戻り、新たなクリエイションの糸口を模索する。デザイナーとしての動きはもちろんのこと、鳥取に店舗を構える予定があるなど、今後のプロジェクトから目が離せない。

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