GRIND

FASHION, INTERVIEW, MAGAZINE 2020.4.29

OUR STANDARDS

STEVE LACY

“今の感情や記憶、
自分自身を表現していく”

常識とは過去に誰かが作ったものである。しかしその常識も時代の移り変わりとともにその世代の価値観の変化によって崩されていく。弱冠21歳ですでに多くの大物アーティストをプロデュースするSTEVE LACYが崩した常識の先にあるものを探る。。※こちらはGRIND Vol.97に掲載した記事です。

Photo_ALANLEAR

今の感情を新鮮な状態で
音楽にしたいという衝動

STEVE LACYがシーンに登場したことによって音楽業界の常識が崩れはじめた。現在21歳という若さでThe Internetでギターを担当し、プロデューサとしてSolangeやDirtyProjectors、J.ColeにBlood Orange、Vampire Weekendを含む世界的なアーティストたちに楽曲を提供するなどめざましい活躍でシーンを駆け上がる。そして彼の名を世界的に有名にさせたのは、何よりあのHIP HOPスターKendrickLamarの名作『DAMN.』にプロデューサーとしてクレジットされたことだ。しかもiPhoneアプリのGarageBandで作ったビートで。スティーブ以前にもDTM系アプリを使って楽曲を制作するアーティストはたくさんいたが、そのどれもがメインの補完であったり、俺はこれでもできちゃうぜ的なパフォーマンスの領域を脱せていなかった。そういう意味では良い音楽は高品質な機材やソフトでしか生み出せないという常識が打ち崩れることは今まで無かったのだが、スティーブは別の視点からこの常識を打ち崩した。「良い音楽は決して高品質な音である必要はない。それよりも自分の持っている〝今〞の感情とか記憶をどうやったっらフレッシュな状態で形にすることができるのか。俺の場合はギターとiPhoneさえあれば作りたい音楽を作ることができるし、アイディアが思い浮かべばいつでもそれをアウトプットできるんだ。何よりこれだけしかいらないっていうのはいろいろな面で便利だからね」。 良い音楽とは一体何なのか。このスティーブの言葉に象徴されるように、青春時代をどっぷりスマホで過ごした若手世代にとって以前の常識はほとんど無意味である。良い音楽は高い機材で高品質なサウンドを買って……どうのこうのみたいなことはするだけ時間とお金の無駄だし、なによりこの感情を新鮮な状態で音楽にしたいという強い衝動が過去の常識を無効化しているように感じる。

表裏一体でとらえる
ファッションと音楽

このように音楽シーンにおいて5年前に正解とされていたことがまったく違った視点で結果的に否定されるという価値観の変化が、スティーブの登場によって起こった。そして今回の撮影のテーマもスティーブらしいアイディアからスタートした。「撮影のテーマは俺のカジュアルスタイルの模索からスタートしたんだ。昔からファッションは好きで、最近はファッションの人たちやブランドとも仲がいい。でもその反面少し新鮮味がなくなってきた気もする。いかにも高そうな洋服を着て誰も見たことがないようなシチュエーションで撮る。最近のファッションフォトを見ているとそういったビジュアルばっかりになっている気がしたんだ。だからこそGRINDで俺が挑戦したかったのはシンプルなスタイルでシンプルに撮ること。今回はそれができて満足しているよ。もちろんアーティスティックなビジュアルも大好きだし、ファッションはそのくらい自由であるべきだけど、最近はリアリティみたいなことも同じくらい重要だと思っていて、セルフスタイリングでやれるなら革新的なシンプルスタイルを表現したかったんだ。ファッションと音楽は俺にとって表裏一体で自らを表現する方法としてどちらも同じくらい大切だね」。

日常にアンテナを張り
クリエイティブに生きる

 現在21歳でシーンの最前線を牽引するスティーブ。今年の5月にはソロデビューアルバム『ApolloXXI』が発表され、それのリリースツアーを行うなど精力的に活動を続けている。若手世代を代表する音楽とスタイル、そして価値観を持ったスティーブはどのようにして音楽と出会い、デビューアルバムへとつながっていったのか。「子供のころから音楽は大好きで常に周りにあふれていたな。だから遊びの延長線上で自然とギターを弾いていたんだ。それから自分のキャリアを本格的にスタートさせたのは高校生になってからで、当時Kintaro akaJameelがいたから、そこから何もかもが動き出したよ。音楽をどうやって作り上げるか、そしてそういったアイディアをどのように具現化していくか。Kintaroから受けた影響は計り知れないと思う(笑)」。Thundercatの実弟でThe Internetの元メンバーであるKintaro aka JameelBrunerとの出会いはスティーブの人生にとって今後を左右する大きな出来事であった。ジャミールはThe Internetへの加入を勧め、後に共同プロデュースした『Ego Death』がグラミー賞のベスト・アーバン・コンテンポラリー・アルバム部門にノミネートされる。才能ある者同士が引き寄せ合い仲間となる感じは今の若手世代の特長で、スティーブも例外ではなかった。そして話は音楽制作に対する姿勢へと移る。「音楽のインスピレーションは人生のいたる所に散りばめられていて、このことは俺がiPhoneをメインで使っていた理由のひとつでもあるんだ。ランニングで街に出かけたり、不意にビーチでチルったり、友達と遊んだり、いつもの日常に思いがけないアイディアが転がっているからそれをすぐにキャッチしたかったんだろうね。こうやって新しいアイディアを考えている時間が音楽制作のなかでは最も重要だと思っていて、その結果として自分が聴いてアガる音楽を作れた瞬間は最高の気分になれるよ。そういった感情を曲に詰め込んで俺自身を俺が作る音楽で伝えるようにしているかな。『Apollo XXI』のテーマに自分を定義するみたいな部分もあって、聴いてもらえれば分かると思うけど、このデビューアルバムではよりリアルな自分が表現できたと思うね」。地球上の誰にでもあるような日常にアイディアのアンテナを張り、クリエイティブに生きるスタイルはどこか自由で楽しげだ。大物アーティストの仲間入りを果たしプレッシャーのかかる瞬間を何度も経験してきはずだが、スティーブのレイドバックした雰囲気は彼の音楽同様に今も健在している。

ベストチューンに共通する
感情に訴えかけるグルーヴ

自分の人生を音楽やファッションなどでありのままに伝え、その方法は形式的に高品質でなくとも質の高いものを生み出せるし、あのケンドリックだってそう評価したから『PRIDE.』という曲が完成したのだろう。そんな新しい価値観やスタイルを持った若手世代の代表格のスティーブだからこそ聞きたいことがあった。彼にとって人生のベストチューンとは。「人生のベストチューンは今後もどんどん更新されていくだろうけど今の俺でいうとThundercatの『Walkin‘』は外せないよ。どんなに疲れていても自然と踊りたくなるでしょ(笑)。Princeの『Sexy Dancer』も楽しくて最高だ。あとはリラックスしたい時とかにMac DeMarcoの『My Kind of Woman』を聴いてるね。メロディの綺麗さとリリックの素晴らしさで言ったらJACKSON5の『All I Do Is Think Of You』も絶対に外せないよ。共通点は聴いてる側の感情に訴えかけてくるってところかな。自分で作る曲も誰かにとってそうあってほしいと思うし、そういったグルーヴみたいなのをいつも探しているんだよね」。スティーブの選曲は正直意表を突かれた。どれも比較的知られている曲で天才ゆえの意外なあの曲みたいなトガリは一切感じられない。むしろL.A.を拠点にする彼のイメージ通りの4曲だ。各方面で最も注目を浴びるSTEVELACYともなれば玄人向けの曲を出すだろうという〝誰かが作った常識〞を最後に崩していった。

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