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CULTURE, FASHION, MONTHLY 2020.12.11

GRIND FEATURE TOPIC『CHANGE』

OVERCOAT

改めて見つめる
積み上げてきたもの

ニューヨークを拠点として、パターンメイキングを中心に数多くのブランドをクライアントにもつ大丸製作所2。その代表である大丸隆平氏が手がけるブランド〈オーバーコート〉のポップアップストアが12月13日まで六本木のギャラリーANB Tokyoにて開催されている。大丸氏の話から、ファッションにおける価値観の変容や、改めて目を向けるべき、変わらない根底の部分が浮かびあがってくる。

Photo Asuka Ito
Edit Shuhei Kawada

オーダーメイドに近い
既製服を目指して

 2015年に大丸隆平氏が立ち上げたブランド、〈オーバーコート〉。シンプルで洗練された洋服に袖を通すと感動を覚える。身体と一体感を感じるシルエットや、腕周りの可動域の広さなど、ストレスを感じさせない計算されたプロダクトの数々が生み出されている。「クライアント向けの洋服をつくっているので、日々いろんな人の体型をメジャーしています。そもそもなんでそんなことをしているかって、全員体型が違うからなんです。すべて個体差があって、便宜上男と女に分けたりしているだけの話であって。本当はS,M,Lのサイズで分けることすら不可能なんですよ。ただブランドとしては不特定多数の方に着ていただくプレタポルテ(既製服)をつくっています。じゃあこの土俵でどれだけオートクチュール感、オーダーメイド感を味わっていただけるかがパタンナーとしての腕の見せ所だと考えてます。それをプロダクトとして表現しているのが〈オーバーコート〉です」。自身をデザイナーというよりはパタンナーだという大丸氏。平面から立体へと、頭の中を具現化していくパターンこそが彼の根底なのだ。そこから導き出されるプロダクトのデザインも、構造的な美しさを引き出すことが優先される。「構造線がデザインになったら良いなと考えているので、ディテールは基本的に必要最低限にしています。足し算ばかりだと何が本質かわからなくなるので、究極の引き算をして何が残るのかということが大事だと思っています」。大丸氏はパターンを熟知しているからこそ、クリエイションにおいて過度なデザインを必要としない。着用する人の個性や周辺の環境が作用して、各々にとってのプロダクトとして輝きを放つのだ。

自由の女神の頭部を再現したインスタレーション。実際の洋服づくりにおいても重要なキーとなるパターンの技術を応用し、ユーモアを交えて表現する。実際に見るとその迫力と構造の魅力に目を奪われる。

2次元から3次元に構築していく服づくりの逆とも言える、3次元のものを展開した大丸氏の脳内を映すようなオブジェも展示されている。

実際にポップアップに並ぶプロダクトの一部。

次世代を見据えた
“MADE BY JAPAN”

 既製服の土俵でオーダーメイドに近づけていくモノづくり。不特定多数の人に向けたオーダーメイド的なアプローチという果敢な挑戦は、裏付けとなる技術があるからこそ可能になっているわけだが、その背景には大丸氏が仕事をともにする腕利きの職人たちが存在している。「〈オーバーコート〉のプロダクトでは町工場のような規模の人たちと仕事をしています。そういう腕のいい方々が日本の技術を支えていたりするわけで、彼らがいなくなってしまうような世界にはしたくないんです。僕らは適正なルートで良いものをつくって規模を広げていきたい。急に拡大するのではなく、僕たちが正しくスケールして、職人にも潤沢に仕事が行き渡り、彼らがハッピーに生きていけるような土台をつくらなくてはいけません」。拠点こそニューヨークにあれど、ものづくりに注がれる技術や想いは日本から発信されている。「どの地に足をおいているか、MADE IN という言い方ではなく、最近はMADE BY JAPANと言っていて、ものづくりの精神性や方法を伝えていきたいです。ただ、技術を継承するだけでなく、教えてもらったことを次の形に変えて発展させていかなくてはいけません」。クリエイションを通して、ブランドの発展だけを望むのではなく、関わる人々とともに、健康的にステップアップしていく道筋を描く。技術を受け継ぎつつ、自分たちの解釈やフィルターを介して、次のクリエイションへと繋いでいく。関わる人々やファッションの構造をより豊かにしようという意志を、〈オーバーコート〉は発信している。

ポップアップではオーダーメイドのコートの受注会も行われた。数種類の生地のサンプルからお気に入りを選び、オーダーすることができる。

モノを超えて
派生する信頼

 3ヶ月間に渡ったニューヨークのロックダウン。その影響は大丸製作所2にも例外なく直撃した。しかし大丸氏は従業員の雇用を維持したまま、今では従来通りとはいかないまでも、徐々に以前の仕事量が戻ってきているという。〈オーバーコート〉でも、今回のポップアップのように新たな仕掛けを行いながら、立ち止まることなく進む。「21SSシーズンは、ロックダウンの影響もあり、ほとんど自分の経験値がもとになっています。16歳から洋服を作り始めて30年近くになるので、その経験から頭の中である程度想像してつくり上げていきました。ただ全体のバランスを俯瞰で見ることは難しく心配していましたが、結果的にすごく明るいコレクションになりました。こうした状況でもネガティブになってはいけないという反発する気持ちが表れたのだと思います」。まだ日を残しながら、すでに好評を博した前回以上の売り上げを記録する今回のポップアップ。当初ラックに数多く並んでいた洋服は、開催から数日経過した取材日の時点で半分ほどになっていた。決して手のつけやすい価格帯ではないが、プロダクトとしての裏付けや背景が、この時世においても多くの人を引きつけるという事実には勇気付けられる。「ブランドとして、ひとりひとりのお客様とのふれあいを大事にしています。誰がどういう思いでつくっているのかがプロダクトに表れるという点で差別化ができているように感じますし、デザイナーと顧客の距離が近い気がしてますね」。大丸製作所2でのクライアントワークを含め、年間2000着ほどの洋服を手がけているという大丸氏。幅広いジャンルに適応し、技術を磨き上げてきた背景や、ものづくりへのこだわりは〈オーバーコート〉でのクリエイションで存分に発揮されている。そのクオリティの高さやプロダクトへの強い意志が、人づてに伝わり、ゆっくりと浸透していく。「昔の呉服屋さんじゃないですけど、そういうようなコミュニティで売れているという感じはありますね。普段着てくださっている方が誰かに紹介して、また誰かにというようなことが多くあります」。惜しみなく常に発揮する大丸氏の熱量と技術がプロダクトに宿り、モノと人を結ぶ。そしてそのモノが人同士を結びつけ、また新たな広がりを見せていく。爆発的ではなくても、顔が見える距離感で、確かな信頼関係を築きながら発展していく〈オーバーコート〉の在り方。環境が大きく変化しようとも、自分が培ってきた経験や技術はクリエイションを支える拠り所となり、人々を惹きつけていく。

オーニング素材というカフェの軒先などに用いられる素材を使用して制作されたオーバーコートの原点ともいえるコートも展示されている。インスピレーションとなる素材を、ファッションとして表現したアートピースに近い逸品だ。

Information

OVERCOAT

POP UP STORE
東京都港区六本木5-2-4 ANB TOKYO 4F
12月13日(日)まで
13:00〜19:00

https://overcoatnyc.com/

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