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Hebru Brantley Hebru Brantley

CULTURE, INTERVIEW 2023.12.26

Hebru Brantley

アートという名の感情表現

ゴーグルをつけた少年が空を飛ぶ、まさにSFのような壮大なアートを描くシカゴ出身のHebru Brantley。既に国内外問わず支持を集めている彼が、今回特別にNANZUKA UNDERGROUNDにて個展を開催すると聞きつけ、早速取材に。展示タイトルは「Traveling Without Moving」。直訳すると“動かずに旅をする”というテーマは、日々移りゆく感情を表現する手段であると彼は話すが、その奥底には、自身のアイデンティティと向き合うため、幼少期から描き続けてきた彼の生き様が隠されていた。

Text Mahina Takizawa
Photo Ryoma Kawakami

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自分とその周りで起こる
日常風景がテーマに

シカゴで生まれ育ち、15歳の時に地元の友達とグラフィティを描きはじめたHebru。幼い頃からアニメが好きだったこともあり、ワイルドスタイルの強い文字ではなく、キャラクターを描く方向に転換していくなかで、早くも彼の真骨頂とも言えるキャラクターが誕生する。一度は目にしたことがある人も多いかもしれない、Hebruの代名詞とも言えるキャラクターFLYBOY。時には一人で寂しそうな少年が、そして時には友達と楽しそうに空を飛ぶ少年が描かれている。彼の作品のアイディアは、一体どこから来ているのだろうか。

「FLY BOYというキャラクターは自分のこれまでの経験や感情をもとに描いているんです。Charles Schultzがその時々の感情や身の回りで起こっていることをキャラクターに投影していたように、自分自身のその時々のムードは作品に強く現れているし、それは自分の経験だけでなく、この数年世界で起こっている間接的なことや、自分が黒人としてアメリカに暮らしている意識、アイデンティティにも影響されています」。

自分が実際に見た景色や感じたことをストレートに表現しているからこそ、ひとつとして同じ作品はなく、キャラクターも年齢を重ねるごとに少しずつ変化しているのだそう。そして、時に社会的なメッセージが作品に反映されている点には、愛する家族の影響も。

「息子や娘が誕生したことは、自分にとってとても大きなインスピレーションになったことに間違いはないでしょう。彼らが成長していく姿を直接キャラクターに重ねることも多くて、以前よりポジティブな思想にもなってきたと思います。空中を飛んでいる作品には自由や前向きになるというポジティブな意味が込められていて、それは自分の子供や現代社会へのメッセージでもあるのです 」。

立体的なフィルターで覗く

「毎回作品を制作する時に意識していることは、どんなシチュエーションでも自分の視点を落とし込むことです。それは自分にとって昔から興味があった、映像的な視点だと思っています。昔は映像作品に挑戦することを恐れていて、自信もありませんでしたが、今となっては自分のアートに欠かせない要素になっていると思います。ペインティングの作品ひとつを切り取っても、映画のスナップショットやシネマの雰囲気を落とし込むことが多い。今回の個展においても言えることで、新たに立体作品や動画に挑戦するきっかけにもなったのです」。

映像的な視点を取り入れたHebruのアートは、ストーリー性が高く、より立体的に感じさせてくれることが多い。書き割り(舞台の背景に使われるパネル上のもの)のように、自然と情景描写が浮かんでくるのも、映像のような切り取り方が理由なのかもしれない。


「自分が子供の頃には、映画館に行った後に毎回バッドマンのカードを買ってコレクションしていました。そのカードにはいつも映画の中で印象的だったシーンが1枚のカードとなっていて、自分の作品にもまるで映画のワンシーンを切り取ったような、そんな雰囲気を落とし込むように試みています。思い浮かんだストーリーのベストシーンを切り取るようにしているんです」。

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    黒人としてのアイデンティティを、男女の関係を通して表現した一枚。男性が手に持っているのは戦い で手にした称号であり、女性は金棒を握りしめている。『Under the Watchful Eye of The Sungod』

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    アメリカの南部で見かけることの多い、レトロな看板。今回展示した作品の中でも、Hebruのグラフィティマインドが強く体現されたピース。『Sunflower Seeds By The Pound (Sunshower) 』

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    近くで見るとアクリルだけでなく、ラメやスプレー、マーカーなど多くのツールを多用していることが分かる。『Theory of Flight as Discussed by a Millenial』

自分自身とアート
アートと世界を繋ぐ

「とにかく自分は、キャンバスが真っ白になっていることが最も恐怖を感じる瞬間なので、どんなに些細でも、まずはキャンバスを埋めていくところから制作がはじまります。最初は何かを書くためにはじめたものに対して、書き割りのように、だんだん背景の要素が蓄積されていって、何層にもわたるレイヤーになっていくのです」。

鉛筆だけで書き上げるピースもあるが、緻密に塗り重ねられた作品も多い。彼にとって作品の完成度を大きく左右するのは、作品と向き合うことにかけた時間ではなく、作品を描くタイミングとその時の自分の感情。そして、彼にとってアートを描くのはある種の日記を記すことにも似た行為であり、描き続けることで散らばっていた感情が少しずつ整理されていく。そしてアートが完成した瞬間、その複雑で入り組んだ感情は解放される。

「最初は白紙をなくすためにとりあえず描き続けているんですね。最終的にその上から何かを塗るということもありますが、自分にとってはよりスタートを重要視しています。その瞬間に自分が何を感じているかがとても重要で、それを表現するためにも制作道具は使い分けるようにしています。同時にいろんな作品を製作しているので、自分から働きかけるというよりかは、作品が自分自身に話しかけてきて、導かれるかのように何がその時に必要かを判断しています」。

PROFILE

Hebru Brantley

アメリカ、シカゴ出身のアーティスト。ブラックアートコミュニティであるAfriCOBRAに強く影響を受け、自身のスタイルを確立していく。元々はグラフィティからストリートアートの世界に足を踏み入れたものの、それ以外のアニメやカートゥーン、ファインアートから受けた影響も強く、それが多様な作品を作り上げている。彼がこれまで残した功績はここでは説明しきれないが、ADIDASのスニーカーデザインからNET FLIXの短編映画制作など、枠にとらわれずに活躍の場を広げている。

@hebrubrantley

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