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CULTURE, INTERVIEW 2020.8.19

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Haruka Hirata talks about Ikebana
@Big Love Records

自らの手で
切り開く表現

国内外から絶対的な信頼を得る原宿のレコード屋〈Big Love Records〉のファウンダー兼クリエイティブディレクター、平田春果氏。セレクトショップ〈GR8〉のPRも務め、カルチャーの枠組みの中で自由にネットワークを広げながら、日本と海外を繋ぐハブとして活躍する。そんな彼女が多忙な日々の中でも時間を作りながら取り組んでいるのが、日本の伝統芸術、いけばな。稽古を始めて4年目、師範の資格も取得した平田氏がいけばなに魅せられた理由とともに、花と対峙することで見えてきた自己表現の重要性について彼女の言葉と作品から紐解く。

Photo_Ryo Sato

誇るべき
日本のアート

書道、茶道、香道などとともに、“道”という字が添えられた歴史ある伝統芸術のひとつである華道(いけばな)。3大流派と呼ばれる代表的な流派の中で、最も新しい草月流に入門した平田氏。初代勅使河原 蒼風氏は、花だけに特化することなく、流木や果物をいける自由な手法を用いた。伝統芸術として古来の手法を受け継ぐことが美しいとされていた時代に、いけばなの概念を根本から覆したいわゆる異端児。「もともとあった伝統を打ち壊してしまったので、当時はバッシングもたくさん受けたみたいです。しかし自分が表現したいことを貫き、自らの手とハサミだけでここまでの歴史をつくりあげた蒼風先生の作品は本当に素晴らしく、日本を代表する芸術家です」。

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    勅使河原蒼風氏の息子、宏氏は『砂の女』や『他人の顔』といった作品を手掛けた映画監督であり、彼のファンであった平田氏が、ふとその出生が気になりインターネットで調べて辿り着いたのが草月流。もともと花が好きだったこともあり、何かに導かれるようにしていけばなをはじめたという。

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    戦時中などの背景もあり、今のように簡単に国境を超えることも難しかった時代。イサム・ノグチやアンディ・ウォーホルを筆頭に世界各国の名だたる芸術家が草月流の芸術に惹かれ、蒼風氏と交流をもったという。

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    花をいける時には、自然の音の中で作業をする。「音楽を聴いて挑戦してみたこともあったのですが、リズムが崩れてしまい、全然納得できる作品が作れなかったんです。やはり、ハサミの音を聞きながらいけるのが心地いいですね」。

平田氏の動きを見ていると、茎や枝を切るハサミに迷いはまったく感じられず、気持ちが良いほど潔い。今まで草花と向き合ってきた経験値はもちろん、彼女の中で表現したいことが明確に見えているからだろう。「音楽もファッションもアートも大好きなのですが、人より知識があるだけで、自分の表現ではなかったんです。でも、自分の中に言葉にできない不思議な形や色がありました。その表現方法をずっと模索していた時に、ようやく出会えたのがいけばなだったんです」。自身の内側にある見せたいけれど見せられなかった感情が、花や花器を用いることで形作られていく。「花屋に行って、好きな花を2本買って好きなように挿すだけでもいいんです。今日実際にいけた作品も、花材は2〜3点のみ。いつもとほんの少し花を入れる角度を変えてみるだけで、自分だけの表現になります。美術館やギャラリーに行ったりネットでアートを見てる人はたくさんいますが、こんなに素晴らしいアートが身近にあるのに、気づかず素通りしてしまっている人が多い。本当に勿体ないことだから、私は私なりのやり方で蒼風先生が築き上げてきた草月流のいけばなを、誇るべき日本のアートとして少しでも多くの人に伝えていきたいと思っています」。

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    平田氏の活動を通じて、いけばなは日本独自の芸術形態として新たな道を切り開いている。〈ジバンシィ〉のクリエイティブディレクターに就任したことでも知られる、マシュー・M・ウィリアムズが手掛ける〈アリークス〉の展示会でいけばなを4シーズンに渡り展示し、その過程を追うフォトブックも出版された。 「マシューとは、音楽を通して出会いました。交流を続けるうちに、いけばなにも興味を持ってくれたんです。そのような機会を見つけては意識的にいけばなを普及しようとしています」。

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    上記の作品の花器に使用したのは、平田氏の友人でもある竹村良訓氏の作品。独特のフォルムと色彩が、草花と相まって作品の鮮やかな世界観を築き上げる。

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    上記の作品の花器に使用したのは、平田氏の友人でもある竹村良訓氏の作品。独特のフォルムと色彩が、草花と相まって作品の鮮やかな世界観を築き上げる。

能動的な姿勢が
本当の価値をうみだす

平田氏にとっての自己表現であるいけばな。花や草木と向き合う時間は、自分自身と向き合う時間でもある。「自分の体を使って創作することは、本当に大事です。創作することで想像力が鍛えられて、結果的に人に優しく接することにつながると思います。たとえば、表情から人が何を必要としているか読み取り、対応してあげたり。だから自己表現は誰もがするべきだと思います」。誰かにとっては、文章を書くことかもしれないし、絵を描くこと、詩を綴ることかもしれない。だが、表現方法は人それぞれであっても、SNSに載せるためだけの簡易な写真ではなく、自分としっかり向き合い、悩みながら時間をかけて形にする過程に意味がある。次から次へと面前を通り過ぎる情報をただ受け入れるだけでは、何も生まれない。そこから何を考え、自分の中に落とし込み、世の中に向けて表現していくか。その自己中心的で能動的な表現こそ、自分自身の可能性とより広い世界を切り開く手段なのかもしれない。

プロフィール欄に記載された「DON’T TAG SHIRTS, DON’T DM」のメッセージが印象的な〈Big Love Records〉のインスタグラム。「DMもほとんど読みません。SNSですぐに人と繋がることができる時代だけど、あまりに簡単すぎるのってとても危険なこと。人と人の関係性ってそんなに安易に作られるものではないと思うんです。使い方によって素晴らしいツールになるのは事実だけれど、会いたい人がいるなら足を運んで会いに行くべきだし、見たいものがあるなら画面越しではなく、実際に見に行けばいい。そこから本当の関係性や価値がうまれるものだと考えています。現在の世界の状況ではとても難しいことですが、だからこそ心地よいコミュニケーションを疎かにしてはいけないと思います」。ひとつひとつの関係に対して真摯に向き合う平田氏だからこそ、彼女の周りには自然と本当のつながりができあがるのであろう。

いけばなのインスピレーション源はその時それぞれ。上記の作品は、撮影時に平田氏が着用していた、彼女の友人でもあるソフィア・プランテラが手掛けるイギリスのブランド〈アリーズ〉のスウェットに着想を得たという。

PROFILE

Haruka Hirata

東京都出身。原宿のレコード店〈Big Love Records〉の創設者兼クリエイティブディレクター、セレクトショップ〈GR8〉のPRなど、幼少期をギリシャで過ごした経験やカルチャーを通じて出会った世界各国のさまざまな文化やつながりを糧に、カルチャーシーンで幅広い活躍をみせる。

Instagram:@haruka_biglove

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