Fred Perry × Nicholas Daley
Interview with Nicholas Daley
音楽との関係性が生む
リスペクトと相互作用
2015年よりロンドンをベースに活動を行うブランド、〈ニコラス・デイリー〉。自身のルーツと紐づく要素やカルチャーとの結びつきを表現することで多くの支持を集め、シーズンを重ねるごとにクリエイションの質を高めている。そんな〈ニコラス・デイリー〉の背景に共鳴する同郷の雄〈フレッドペリー〉とのコラボレーションが、再びローンチされるタイミングでデザイナーのニコラス・デイリーにインタビューを行った。彼らのバックボーンに深く根差す“音楽”をベースに、偉大なアーティスト、ピーター・トッシュへの敬意を表したコレクションと、音楽シーンを草の根から支える取り組みは、暗い話題も多い世界に光を灯す。
Translation Shiori Nii
Edit&Text Shuhei Kawada
自身の名を冠したブランド〈ニコラス・デイリー〉を2015年よりスタートした、ニコラス・デイリー。ルーツや影響を受けてきた音楽の要素を散りばめながら、カルチャーを付随させた服づくりを行う。ショーにおいても親交のあるアーティストによるライブを行うなど、単なる洋服の枠組みにはまらないアプローチが注目を集める。〈フレッドペリー〉とのコラボレーションにおいても、その才能を存分に発揮。
スタイルで発信する
文化への見解
〈フレッドペリー〉と〈ニコラス・デイリー〉が手を組むのは、歴史の長さこそ違えどお互いの背景に目を向ければ、自然な流れだったと言えるだろう。前回の初コラボレーションは、ニコラスの父親であり、DJとしても活躍したアーティスト、SLYGOにインスパイアされたものであったが、今回はレゲエシーンのレジェンドであるピーター・トッシュへの敬意と愛情を存分に反映させている。「ピーター・トッシュは、自由、平等、抑圧との戦いについて、声を上げていた革命的な人物です。両親がピーター・トッシュのアルバムをかけていたので、小さい頃から彼の音楽に触れ、楽しんできました。私は常にこの強力なブラックアイコンに魅力を感じてきましたし、カルチャーに大きな影響を与えたミュージシャンとして讃えるとともに、尊敬しています」。自身の父がジャマイカ人で、DJとしても活躍していた経歴があり、母親も同様に音楽に深く関わっていた両親をもつニコラスは、幼い頃からある種の英才教育とも言える環境で音楽を吸収してきた。そのラインナップには、ボブ・マーリーやバニー・ウェイラーとともに当時のレゲエシーンを牽引したピーター・トッシュもいたというわけだろう。
「ピーター・トッシュのアルバムのアートワークやパフォーマンスをたくさん見て、彼のキャリアにおけるさまざまな時期のスタイルを探求しました。ピーターは空手の黒帯を取得していたこともあり、武芸の哲学や服装を自身の世界に取り入れていたので、今回のウエアのディテールに要素として反映させています。今シーズンのメインカラーはベージュ、カーキ、グリーンにマスタードイエローやバーガンディといったコントラストを組み合わせていますが、これらはすべてピーターのミリタリースタイルの美学を映し出したものです」。熱心なリサーチを通じ、自身の両親にも紐づくルーツの深くパーソナルな部分と、ひとりのアーティストへの純粋な敬意を、歴史の中で音楽などのカルチャーと密接に繋がってきた〈フレッドペリー〉との関係性に乗せて表現している。「ピーターは音楽や文化的な視点を伝えるひとつの手段として、洋服のスタイルを利用していたのだと思います。武術やミリタリーの服を着ることで、闘う者の精神を表現したかったのではないでしょうか。キャリアにおいて、視覚的にも音楽的にも豊かな一面をもっていたことこそが、私が彼に惹かれた理由であり、そんな彼に敬意を評したかったのです」。音楽的な才能に止まらず、腐敗した体制への批判など大きな力に屈することなくメッセージを発信し続けたひとりの男のスタイル。自身の思想、意志を伝えるために何かを着るという行為は、ファッションをより豊かにしてくれる重要な要素だと、〈フレッドペリー〉と〈ニコラス・デイリー〉のコラボが再び示唆している。
草の根を支える
共同プロジェクト
音楽への愛情、敬意をクリエイションに落とし込み発信していく。そしてその姿勢に共感するアーティストが洋服を身に着けて、さらに広がっていく影響。2つのブランドの洋服ひとつをとってもカルチャーとの関係性は磨かれていく一方で、シーンに対するより直接的な支援を実行していることも非常に興味深いポイントだ。「ここ数シーズンの〈フレッドペリー〉とのコラボレーションは単なる服づくりに止まらない素晴らしいものでした。ミュージックシーンを盛り上げる為に共同でライブイベントなどを企画していることが、私たちを一層強く結びつける力となっています。昨年には、イギリスのまだ無名のアーティストに対してスタジオやプロのサウンドエンジニアといった環境を提供するThe Fred Perry x Nicholas Daley Music Grantというプロジェクトをスタートしました。こうした困難な時期に、〈フレッドペリー〉のアーカイブと新たな〈ニコラス・デイリー〉のデザインの美学を織り交ぜたハイクオリティな洋服をつくり続けると同時に、イギリスの音楽シーンをサポートしたいと考えるようになったのです」。ファッションブランドとして洋服をつくり続けるだけでなく、身近な存在であるアーティストたちへの現実的な支援策をプロジェクトとして打ち出す。
インスピレーションやブランドを構成する要素として音楽を使用するだけでなく、互いを支え合いこの先の才能をともに生み出していく。「Covid-19の影響でイギリスの音楽業界は規制と支援不足により大きな打撃を受けています。英国では規制が徐々に解除されつつありますが、音楽業界が完全に復活するまでは多くの時間を要するでしょう。音楽だけなく、すべてのクリエイティブ産業に多大なダメージが与えられている状況です。少しずつ状況が改善されつつある今、〈ニコラス・デイリー〉と〈フレッドペリー〉が再び繋がり、未来に向けてインスパイアされていくことを願っています」。立ち上げ当初から話題をさらった〈フレッドペリー〉と〈ニコラス・デイリー〉のコレクションは、洋服としての魅力を放つだけではない、両者のアイデンティティの共鳴を感じさせる。グラスルーツを支援する両者の取り組みは、金銭や規模の大小では測れない、カルチャーを大切にしようという、かつてピーター・トッシュが自身の思想をスタイルで表現したような、ひとつの明確な意志表示なのだ。