GRIND

INTERVIEW, MAGAZINE 2020.4.29

the Force

OLDMAN'S TAILOR

1本の糸選びから

「自分たちらしいものづくり」。「自分たちなりのものづくり」。取材中、しむらさんはよくそう口にした。インディヴィジュアルであること。それがOLDMAN'S TAILORの根幹にある。歴史ある繊維産業の街で生まれたDNAと、古いもの、伝統あるものを愛する精神が、独自の道を選ばせるに違いない。糸を選び、生地を織り、その生地で洋服を作る。東京ではない場所で独自の方法論を持って発信されるクリエイション。唯一無二のブランドが生み出すファッションの力を。
※こちらはGRIND Vol.87に掲載した記事です。

Photo_RYO KUZUM

パンクな精神

 1本1本糸が交錯し、精密な柄が生まれていく。「空気を含むことで、風合いの良い生地になるんです」。コンセプトショップ、THE DEARGROUNDからほど近い場所にあるオールドマンズテーラーの工房、稼働するシャトル織機やジャガード織機は、元々あった機械を手放し、廃業した周りの知人から譲り受けたものだ。「こだわっていたわけではないですが、求めていた生地を作るうえで、織り機の存在は大きいものでした」。山梨県富土吉田市は1000年以上の歴史を誇る機織りの産地。ネクタイの生産量は日本一だ。世界的に高品質の機織ものを供給する技術が受け継がれてきた地域が、1990年代後半から大量生産するものは中国生産にすり替えられ、歴史にピリオドを打つ会社は後を絶たないという。
 「地元を盛り上げたいというのは前々からあったんです」。東京で音楽関係の仕事に就いた後、しむらさんは地元である富土吉田に戻り、パーティを開いたり、地元の仲間とバンド活動をしていた。そんなしむらさんが今の道に進んだのは織り機との再会にある。「ファッションには昔から興味があったけど、地場産業になんて興味はなかったんです。ただ今の奥さんの実家が機織りをしていて、織り機を見たとき、カルチャーショックを受けたんです。幼少のときになんとなく見たことはあったけど、大パンクな精神人になって、物理的にどう生地が出来上がるのか、脳で理解できるようになってから、その工程を見て、圧倒されたんです。何時間でも見ていられた。働くことになったはいいけど、当時彼女のお父さんが社長で、教わるのではなく、目で見て覚えるしかない。でも彼女の手前、だらしないところは見せられないでしょ。そういう時ってパンクな気持ちになる。負けられないと思って。それから徹底的にネクタイのことを勉強しました。当時はクラシコイタリアが再注目されていた時代だったから、本場のネクタイを買ってきては全部解いて、どういう仕組みなのか研究を重ねて。セッテピエゲとかクワトロピエゲとか、さまざまな縫い方を研究しました。ネクタイって布面積が狭い限られた世界。業界的に言えばブランドカでしか売れないんです。新参者としてはアイディアで勝負するしかない。セレクトショップに持ち込んで見てもらったりしたけど、当時はインポート全盛でもあって、いいものと認めてはくれても、買ってはくれない。それはバックグラウンドがなかったからでもあって。でもそれでまた反骨精神が芽生えた。僕はイギリスのカルチャーが好きだからだけど、イギリス、それにフランスにしてもそうで、彼らは自国産業を大切にする。作り手もプライドを持っている。伝統産業だからってとどまらないし、伝統は守るけど時代に合わせてものづくりをしている。それがかっこいい。だから僕も富士吉田で特別なネクタイを作ろうと心に決めたんですよ」。

素材へのこだわり

 「取引先も増えていたし、ネクタイだけで続けていくつもりでいた」しむらさんが、その後リネンを軸とするR&D.M.Co-を立ち上げ、OLDMAN'S TAILORに至るのには“厄機感”と素材へのこだわり、そして“男らしさ”が関係している。「ネクタイは作っていて楽しかったけど、自分は普段、仕事中ネクタイをしていないなと、ふと思ったんです。だんだんそれが違和感に変わった。自分がそんな思いで産業として広げていけるのかと。何か違うことをはじめないといずれ食えなくなると思うようになった。イギリスのネクタイにアトキンソンとか、老舗のネクタイに使われているポプリンというシルクの生地があるんですが、アンティ—クの蚤の市に行ったとき、50cmくらいの幅でセルビッヂのものがあった。それを手に取って見たとときに、自然とこの『生地を作りたいlと思ったんですよね。富士吉田の古い織機なら作れるかもしれない。日本に帰ってすぐに企画しました。リネンの生地はこの企画をしたことからつながったもの。奥さんがアンティークのリネンを集めいていたこともあって、セレクトショップに色添えで置いてあるのが頭にあった。根拠はなかったけど“この生地を作れば売れる”と、ひらめいた。それがR&D.M.Co-のはじまり。結果としてそれは時代に合っていた。リネンの良さは、強く、肌触りは良いこと。速乾性に優れている。そして使えば使うほど風合いが増す。アンティークライクであって、アンティークではないので古着がNGな人からも喜ばれた。はじめた当時は雑貨と洋服、ユニセックスでトラディショナルなものづくりを心がけました。リネンってどうしても“ナチュラル系”とか“ほっこり系”にカテゴライズされやすい素材で、雑貨屋さんとかアンティーク屋さんへ行くと、やっぱり女の人たちの世界があって、男が入っていけない空気があった。男性のアイテムがあまり置いていないから仕方ないんだけど、店の外で待っている男性をよく見かけていたので、男性が持っていてもかっこいいと思える男のリネンアイテムを作ろうと考えた。キッチンクロスでもエプロンでも。それならアンティ—ク屋さんや雑貨屋さんにも置いてもらえるのではないか、男が入っていける空気も作れるんじゃないかと。R&D.M.Co-を立ち上げてから、少しずつ軌道に乗った。その間に大貫達正と知り合って、数年経ったのちに意気投合して、こだわったものづくりのメンズブランドを立ち上げようと。それがOLDMAN'S TAILOR」。

R&D.M.Co-とOLDMAN'S TAILORの商品が並ぶTHEDEARGROUNDの3階にディスプレイされている旧式のシャトル織り機と仮縫い段階のジャケット。ブランドの芯を見ることができる貴重なスペース。

UKカルチャーヘの傾倒

 アトリエ内にある家具やインテリア、雑貨類から資料までしむらさんの周りにはUKの匂いのするものが至る所に置かれている。THE DEARGROUNDにしても同様。什器、内装、ロゴのデザインしかり、店内にはロンドンの空気が流れる。「『アメリカングラフィティ』だったり『理由なき反抗』だったり『乱暴者(あばれもの)』だったり、ロックンロールが好きだったから、入りはアメリカのカルチャーなんですけどね。にわかだったけどムーブメントであり、ルーツを調べることに興味があって、ストレイキャッツが実はイギリス生まれとか、レゲエやスカに興味を持つうちに2トーンが好きになったり、音楽を掘り下げていくと、ルーツがイギリスにあるものが多くて、自然と意識がイギリスに向いていきました。高校を卒業してからモッズファッションにハマって友人とそんな店をしたりね」。自他共に認めるバイク好きであるしむらさんの愛車、ベスパは『さらば青春の光』仕様。つい最近になってトライアンフのサンダ—バ—ドも購入した。仕事場だけでなく趣味、ライフスタイルまでイギリスのものをこよなく愛す。「やっぱり長い歴史があるって大きいですよね。伝統といえばそれまでだけど、イギリスのものづくりは扱う人の生活が考えられている。逆を言えばそこまで作り手が考えている。長い時間を経る中で、それがスタンダ—ドになっていったんだと思います。だから欲しくなるんでしょうね。自分も歴史ある繊維産業の街でものづくりしている。そうなりたいと思うんです」。

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    ダブルデッカーバスの置物から、ベスパやトライアンフのバイク、ユニオンジャックやウェールズ国旗、しむらさんの周りにはそこかしこにイギリスがある。THE VINTAGE SHOWROOMの写真集は「バイブル」とも。

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    ダブルデッカーバスの置物から、ベスパやトライアンフのバイク、ユニオンジャックやウェールズ国旗、しむらさんの周りにはそこかしこにイギリスがある。THE VINTAGE SHOWROOMの写真集は「バイブル」とも。

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    ダブルデッカーバスの置物から、ベスパやトライアンフのバイク、ユニオンジャックやウェールズ国旗、しむらさんの周りにはそこかしこにイギリスがある。THE VINTAGE SHOWROOMの写真集は「バイブル」とも。

本物を愛し、本物を作る

 自分たちなりにどこにも染まらずに自分たちのスタンスでものづくりする」。OLDMAN'S TAILORはシーズンテーマを設けていない。展示会の時期をごシーズンこに合わせることもなければ、ショー形式で発表することもない。こだわるのは、外的なことよりも、自分たちの内側にある良いものの基準のみ。糸の選択、生地の製造、企画デザイン、仕立てまで自分の目で見て、自分たちで手がける。糸に至っては国内にとどまらず海外から取り寄せることも少なくない。「自分たちが納得する形を探し出す」。THE DEARGROUNDにしても最終的には業者に任せた部分はあれど、自身がハンマーを手に取り、先陣を切ってリノベーションしたという。バイクのカスタムしかり。徹底的。「手間暇かけることがすべてではないけど、自分がうれしさを覚えるものは、見つけて、ふれて、感動するもの。素材であり、形の細部にこだわって作られたものです。自分が作る洋服も手に取る人とってアンティークとの一期一会のようであってほしい。作ったものに対して『素材が全然違う』と言ってもらえるのが一番うれしいこと。古薦だったりアンティ—クは人の手を通して変化する。経年変化もする。経過によって味が生まれる。長く付き合っていきたいと思える服。自分にも少なからずそういう洋服がある。時間が経って見たときに「これいいな」と思ってもらえるような、イギリスのように、ものを大事にする文化を作れるような、そう思ってもらえるものを作りたい」。
 いいものを作る。その一点にしむらさんの意識は終着する。その原動力となるものは何か?その答えも少年のようにピュアなものだった。「男っていくつになってもモテたかったり、カッコつけていたい。その意識を持ち続けさせてくれるのがファッション。例えば高校を選ぶときに『あの制服着たい』って思ったこと、『あの人みたいになりたい』とか、心を動かす力がある。洋服で人生観は変わるし、いいものを着ていると運を引き寄せる。映画『ファブリックと花を愛する男』でドリスヴァンノッテンは『新しいコレクションは過去の焼き直し』『メンズは特にゼロからのデザインは皆無だ』と言ってるんですけど、でもそう言いながらも、その時代の空気に合った素材で、細部にこだわって、新しいと感じるものを生み出している。自分はその姿勢にとても共感します。僕も身につけるものだけということではなく、姿勢からかっこよくありたいんですよ」。

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    アトリエの本棚に並ぶ本。写真集よりもイギリスやフランスの歴史資料となる本が多い。「カテ ゴライズはせずランダムにおいています。どこにあ るか探しているうちにいろんな考えが浮かんでくる」。

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    譲り受けた織り機は40年ほど前に作られた 年代物。「織り機を受け継ぐのも僕らの大切な仕事」。

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    本類とともにしむらさんの創作の大きな資料となるアンティークやヴィンテージの洋服。

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    ハンドメイドで作られた、OLDMAN'S TAILORのルーツとも言えるネクタイ。素材を突き詰める精神はここからはじまった。

PROFILE

OLDMAN'S TAILOR

山梨県富士吉田市生まれのしむら祐次さんが、奥さんのとくさんの実家の家業であるネクタイ生地作りを手伝いはじめたのをきっかけに創作活動を開始。2001年に『オールドマンズテーラー』設立。2004年にリネンを軸としたオリジナルブランド『R&D.M.Co-』を立ち上げる。2014年にコンセプトストア『THE DEARGROUND』のオープンと時を同じくして、フリーランスデザイナー・大貫達正さんとともに『OLDMAN'S TAILOR』をスタート。

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