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PHOTO EXHIBITION 『ALL.』 PHOTO EXHIBITION 『ALL.』

CULTURE, INTERVIEW 2022.6.10

PHOTO EXHIBITION 『ALL.』

展示から見える
ストーリーの地層

2021年4月に、〈ラディアル〉から発売された写真集『ALL.』。約4年間に及ぶ〈ラディアル〉のカタログ撮影をともにした、俳優の渋川清彦氏を被写体にした、名越啓介による写真の数々が収められている。ブランドの世界観を象徴するような写真集の発売から1年以上を経て、この度6月10日より『RADIALL HEADSHOP』にて、本作をベースにした写真展が開催される。しかし、単に写真集に掲載されている写真を展示する、もしくはそれに伴う未公開の写真を展示するのではなく、新たな角度からこの作品の背景が浮かび上がる工夫が施されている。本展について、また写真集『ALL.』について、さらには作品づくりやクリエイションにおける考え方に至るまで、写真家名越啓介と『ALL.』のアートディレクションを務めたブックデザイナー、町口景との対談で紐解いていく。

Photo Haruki Matsui
Edit&Text Shuhei Kawada

表出する信頼関係

2021年4月写真集『ALL.』が世に放たれた頃、緊急事態宣言などの影響もあり、出版イベントを大々的に行うことへのハードルは今以上に高かった。満を持して開催する運びとなった今回の展示と、それに伴う作品には興味深いストーリーがある。

今回の展示のベースとなった、印刷所での試し刷りの実物。この中からいくつかピックし、名越が撮影したものが展示される。ランダムに写真同士が重なり、新鮮な印象を与える。全体像の面白さと、重なり合うそれぞれの写真の要素という両面から楽しむことができる。

町口(以下M)「印刷をする際にインクが定着するまで白い紙ではなく、すでになにかを擦った紙を印刷機に入れて、何重にも擦っていくという工程があるんです。どのような印刷物をつくるにおいても生じる工程で、基本的には廃棄されるものですが、『ALL.』の印刷の時に、名越くんの写真に対してそうなっているのを見て、“これ、良くね”ってなったんです。人が考えてできないこと、ほぼ事故みたいに、狙ってできないもので」。

名越(以下N)「昨年の6月に『ALL.』に関連する写真を使用して写真展をやりましたが、その時と同じ方法でやっても仕方ないし、最初は写真集に使っていない写真を使おうかなんて話もしていたんですけど、なんか違うなと。今回のようなものであれば、偶然の産物だし、自分自身だけではこういう展示もしないだろうって」。

M「一度はこのプリントしたもの自体を展示しようという話にもなりましたが、やっぱり名越くんは写真家だからレンズを通して、正面からだけじゃなく角度をつけたりしながら、彼のアングルで撮ってもらいました。ちょうどキーさんの写真でもなく、ブランドの写真集というだけでもなく、〈ラディアル〉と名越くんとキーさん(※俳優の渋川清彦氏の愛称)という3つのバランスがなんか面白いと思って、今回はそういう展示にしようという話になりました」。

N「考え方としてはすごくいいと思って、3者のものというか、そういう部分がうまく表現できてるんじゃないかなと思ってます」。

M「名越くんの写真展ではあるんだけど、作品自体は〈ラディアル〉とキーさんの3者でひとつだというときに、偶然出てきたこういうものはもってこいじゃん。なにも考えないで生まれてきたものだから、グラフィック表現としてこれをやろうと思っても、考えすぎてできないし」。

N「意図的にやろうとしているんだったら興味ないなと思ってたんですけど、〈ラディアル〉が大切にしている、人との繋がりとかがある上で、誰かが突出しているわけではなく自分がいてキーさんがいる。自分はたくさんのブランドとなにかをつくっているわけではないですが、高山さん(※〈ラディアル〉のディレクターであり代表の高山洋一氏)みたいに現場と一緒になってものをつくっていくトップの人って珍しいじゃないですか。例えばアメリカに一緒に行った時には、自分と野宿をして過ごしてくれたりとか、ものづくりとは直接的に関係しない部分まで、共有してくれるんです。国内外問わずいろいろなところにともに撮影に行って感じた、高山さんの人柄や、一緒に何かをつくることへの考え方といった部分に感銘を受けたし、だからこそ彼を慕う人が多いのだと感じました。そういった高山さんだからこその、簡単にはブレないような周りの人たちとの関係性の強さとかも、引き出せたらなと考えていました。一見コラージュとか意図的なものに見えるけど、それはそれでどういう反応があるか楽しみだし、説明もちゃんとできるし」。

M「偶然の産物だっていう面白味もあるかな」。

(左)名越啓介と(右)町口景。今回の対談は浅草にある町口のオフィスにて行われた。本棚には彼が手がけてきたものを含め、大量の写真集や書籍が並ぶ。

彼らの言葉を借りれば“偶然の産物”。写真集という作品をともにつくり上げてきたからこそ、偶然が彼らの関係性を際立たせることになった。作品自体は意図せぬものから生まれたとしても、そこまでの道のりがあるから、偶然がプラスに作用したようにも思える。本展に関して言えば、ブランド、被写体、写真家という3者とそれに関わる人々との信頼関係が浮かび上がり、見えない部分がもつ重要性に気づかせてくれている。しかしこの考え方は本展に限った話だけではなく、モノづくりやクリエイションにおいて欠かせない視点だとも言えるのではないか。名越啓介と町口景の両者は、以前から写真集をともにつくってきた同志であり、互いのモノづくりへの強い想いを共有している。

M「僕らの場合は最初に『SMOKEY MOUNTAIN』という写真集を一緒につくったんですよ。できあがるまでに2~3年かかりました、毎日写真を見ながら話して、写真を見てまた話して」。

N「マケット(※写真集をつくる際、構想段階で用いる実物に近い形で作成した模型のようなもの) をつくって、実際に撮影した現場で見たり、景さんがパリフォトに出展しているからそこに持っていって、セーヌ川で見たり、温泉で見たりもしました」。

M「この写真集で撮影している家族にも見てもらったし、スモーキーマウンテンのてっぺんで2人で見たりもしたよね。例えばここの事務所で見てるのと、晴天の日に隅田川で見るだけでも全然印象が変わるじゃないですか。そういう意味では読者のことを考えていると言えるかもしれません」。

両者がはじめてタッグを組んだ写真集の『SMOKEY MOUNTAIN』。フィリピンのマニラ近郊のスラム街で、ゴミが堆積した山が自然発火し、煙が立ち上ることからその名称が付けられている。ともに現地に足を運び、写真の枠からはみ出した現場を体感しながらともに1冊をつくり上げていった。名越とのモノづくりについて「写真をすべて見せてくれるし、隠すものが無い状態からスタートしているから、不信感はゼロ」と町口は口にする。

N「編集は、今は亡くなってしまった林さん(※故林文浩氏。ファッション・カルチャー誌『DUNE』の立ち上げや、数多くの写真集なども手がけた編集者)にお願いしていたのですが、林さんにもマケット持っていって見てもらったりしながら、アドバイスをもらって。なにかをつくっていく上での関わり合いというのは面白いです」。

M「自分と名越くんと林さんとでつくっていく時も、みんな違う意見をもっているからバランスが良くなっていく。一番怖いのは一緒に仕事をしていて反応しないやつかな」。

N「後からこうしておけばよかったってなると最悪なことになるので、悔いも残らないくらい、もしくはなにかあっても“まあ、ええわ”って思えるくらい出し切れる関係性がいいですよね」。

なにかをつくりあげる上で、関わる各人が意志をもって向き合うこと。馴れ合いや妥協ではなく、しっかりと納得できるレベルまでやり遂げることが、作品の強度へと繋がる。言葉にすれば少々安っぽいが、信念や想いからはそれっぽいものとは一線を画すなにかが宿るはずだ。そして彼らは、自分達が時間と労力をかけて生み出したものを、しっかりと伝えようという努力も怠らない。

M「俺と名越くんは、本が出てからかなり頑張るタイプだと、本ができてからが勝負だと思ってます。できてから動くんだよ、できて終わりって意識は全くない。だからこそすごくいい意見も、悪い意見も聞けるし全てを参考にしている。世の中に出して“わかってもらえない”っていうのはただのエゴだと思うから、わかってもらえるまで伝える。でも“見りゃわかるだろ”っていうのはあまりにも乱暴だから、伝えるためには言葉を用意する必要があるんだけど、多分つくっている過程でそういう言葉を自然と用意しているんだと思います」。

全力でつくること。そしてその過程まで含めて伝えていくこと。もちろん展示や作品を通して、受け取る側にとっての余白が残されているが、その背景にまで想像を膨らませることでより豊かな体験になると身をもって感じることができるのではないだろうか。



INFORMATION

PHOTO EXHIBITION 『ALL.』
at RADIAL HEADSHOP


東京都渋谷区神宮前3-30-6 B1F
6/10~26 12:00~19:00
※6/10 18:00~ OPENING EVENT
www.radiall.net


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東京都目黒区青葉台1-5-2
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