CULTURE, FASHION, INTERVIEW 2020.7.4
GRIND FEATURE TOPIC『GAME CHANGER』
Interview with Jamie Reid
ビジュアルが映す
スタイルと真価
雑誌、広告、映像。我々は日常の中で、視覚を通してたくさんの情報をキャッチする。ただ通り過ぎるものもあれば、心に残り続けるものもある。ストーリーやメッセージが込められているビジュアルこそが、時間に流されず影響を与え続けてくれる。SNSの発達、アウトプットの多様化により、誰もが発信者になった今、ビジュアルの価値が改めて問われている。自分の感性に素直に従い、可能性を広げていくアートディレクター、ジェイミー・リードは世に溢れる視覚的情報に埋もれることなく光を放つ作品を数多く手がける。それらに込められた思考を紐解いていくと、作り手だけではなく、受け取る側が持つべき視点にも気づかされる。
表現の幅を広げる
柔軟なマインド
ロンドンをベースに、Dazed Magazineをはじめ、さまざまなメディアを通して表現を行うアートディレクター、ジェイミー・リード。学生時代からいくつかのスタジオでインターンを経験し、アートやデザインの世界へと歩みを進めた。名だたるブランドや媒体のアートディレクションを手掛けるこの人物は、一体何者なのか。いろいろと説明するより、まずは彼がディレクションした作品を見て欲しい。媒体、多種多様な人々、国境を越えて実現するクリエイションには、彼自身の自由で境界を設けない姿勢や表現の幅が見て取れる。ジェイミーの視点を介して展開されるビジュアルは、視覚的情報からそこに込められるストーリーや好奇心へと連なっていくのだ。
Dazed Magazine
Dazed 2017 Winter / 2015 Autumn
ジェイミーは現在、独自の視点と創設以来から貫かれるインディペンデントなマインドでファッション・カルチャーシーンを盛り上げるDazed Magazineのクリエイティブディレクターを務めている。リアーナやヤング・サグなど、世界的なアーティストを多数起用した象徴的な表紙は時代を反映するだけでなく、世の中に多大な影響と刺激を与え続ける。「フリーランスのデザイナーやアートディレクターとしてさまざまな雑誌に関わる過程で創設者であるジェファソン・ハックと出会い、そこでクリエイティブディレクターとして働き始めた。もう5年前のことだよ! WOW!」
Dazed 2018 Summer
ハンナ・ムーンが撮影した、ヴィヴィアン・ウエストウッドとのコラボレーション。アクティビストや学生、アーティストなどにヴィヴィアンが囲まれたカバーは、現代におけるユースの多様性を象徴するようなショットとなった。「これは僕にとっても思い入れがある作品だ。若者と話したり、彼らの姿を記録したり、コンセプトやストーリーを構築したり……クレイジーで、僕が愛するテーマとエネルギーの完璧なキャプチャーだったと言えるね」。
Kiko Kostadinov / campaign visual
従来の手法や制約に束縛されない気鋭ブランド、キコ・コスタディノフのビジュアルを数回に渡って手掛ける。ウィメンズサイズのシューズを着用したフォトグラファーのユルゲン・テラーをモデルに起用した奇抜で目を引くアシックスとのキャンペーンビジュアルなど、自身も精力的に異なる分野とコラボレーションを行う同ブランドのデザイナーとは、長い付き合いだという。「キコは本当に素晴らしくて、彼が卒業してからすぐに一緒に働けたのはラッキーだよ。僕たちは彼のブランドが成長していくのを見てきたし、彼はビジュアルの重要性にとても理解があって、いつも僕たちの取り組みに対して協力的なんだ」。築き上げてきた関係性が信頼とリスペクトをうみ、互いに影響を与えながらクリエイションに落とし込まれる。
Grace Wales Bonner / A Time for New Dreams
ウェールズ・ボナーのデザイナー、ウェールズ・グレース・ボナーと作成したZINEでは、デザイナー自身のルーツであるブラックカルチャーをあらゆる視点から解釈した。「グレースは本当にインスパイアリングなマインドの持ち主で、彼女との仕事はとてもスペシャルな経験だったよ」。ジェイミーの自由なマインドは、領域に縛られることなく、異なる表現分野を結びつけることを可能にする。
PARCO / 20SS campaign visual
境界を超えた“重なり”
Photo_Joshua Gordon
「たくさんのプロジェクトやメディアをまたいで仕事をする時が1番幸せ」と語るジェイミー・リード。当然ながら、コラボレーションするクライアントや媒体によって、考え方やアプローチは異なる。「例えば、完全に映像ベースのクリエイティブをすると同時に、ZINEを手がけたり、もっと商業的な広告ビジュアルに関わることもある。それは僕にとって魅力的なことだ。ずっとアクティブでいられるし、絶え間なく考えることができる。すべてのプロジェクトが、影響し合うんだ。そして、ファトグラファーやアーティスト、スタイリスト、デザイナーやエディターなど、その過程で関わる全ての人からインスパイアされる」。プロジェクトを行き来しながら、その重なりを楽しむことができる柔軟性が、垣根を超えたクリエイションを可能にするのだろう。そしてこの枠を超えて重ね合う姿勢は、彼のバックグラウウンドにあるカルチャーにも共通する。「僕は、ロンドンの郊外で生まれ育った。BMXをやっていて、多くの時間をスケートパークで過ごしたよ。それから、音楽に大きな影響をうけていて、パンク、ハードコアやラップなどを通して写真やアートワークに興味を持った。それらが持つDIYのマインドや審美眼が、僕のグラフィックや写真を作る上のインスピレーションになるんだ。そして僕が最も愛するのがその2つが重なりあうこと」。幅広い好奇心によって、連鎖的に次から次へと新しい扉を叩く。その姿勢が結果的に、媒体やメディアに固執せず、多くの人と関わり合いながらアウトプットを行うという独自のスタイルへと導いた。
ジェイミーが、インスピレーションを得たという5枚のアルバム。その他にも、海賊版のアートワークや無名のアーティストのミックステープなどからインスパイアされることも。ひとりっきりで熟考したり、ギャラリーを訪れたり、音楽を聞いているときにアイデアをひらめくことが多いと言うジェイミーは、日々探究心をもって新しいものを次々と取り入れ、吸収している。
自ら考え
切り開く
媒体を超えたプロジェクト、さまざまな人との関係性、幅広い興味。ジェイミーは垣根を自由に超えながら、多くの人と力を合わせ意味を持ったビジュアルを生み出していく。独自のスタイルで表現を貫く一方、シーンを観察し、その動向を鋭く捉える。「間違いなく、ビジュアルの役割は変わっていくし、その変化を僕らは目の当たりにすることになると思う。世界規模で、若く才能に溢れた世代がいろいろな境界を押し上げて、真新しい方法を用いてクリエイションをしている。ファッション業界でも、彼らに注意を払い、いち早くキャッチアップして、マインドセットする必要がある」。包括的に眺めながら、クリエイションの突破口と新たな方程式を導き出す。「自分の意見をもち、その上でディスカッションすることがとても大切さ。僕もクリエイションの過程で交わす、周りの人との会話からひらめきがうまれることが多い。そしてそれをつぎ込んだ作品はオーディエンスに明らかであるべきなんだ。ビジュアルを通してオーディエンスを引き込んだり、感情を刺激したい」。多くの人との関係性の中で、それぞれの意見や意図を汲みながら、自身の軸で判断する。この俯瞰と主観のバランスこそ彼の1番の強みなのかもしれない。なんとなく、それっぽく片手間に作られ、早いサイクルの中で忘れ去られていくビジュアルが多いことも事実。自分に刺さるビジュアルとは、何がかっこよくて何が響くか。自分の興味や好奇心と結びつくのは一体どのような要素か。受け手も消費的な流れに乗るのではなく、意味を探りながら、視覚的情報に止まらないストーリーを体感したい。ジェイミーがディレクションするビジュアルには、直感に訴えかける強さと、新たな興味につながるような奥深さの両方が備わっているのだ。
PROFILE
Jamie Reid
ロンドンをベースに、活躍するアートディレクター。
さまざまな人と関係性をつくりあげながら、型にはまることなく媒体や国境を超えて表現されるクリエイションは、異なる分野を結びつける。20SSから、1年を通してPARCOのビジュアルのアートディレクションを手掛けるなど、活動の幅を更に広げている。
Instagram:@reidjamie