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ADISH × FRED PERRY ADISH × FRED PERRY

FASHION, INTERVIEW 2022.8.10

ADISH × FRED PERRY

Interview with Amit Luzon, Eyal Eiyahu

ローカルの想いを
伝統的な手法で

7月中旬、イスラエル&パレスチナのブランドである〈アディッシュ〉のメンバー、アミット・ルソンとエヤル・エリヤフが来日した。ドーバーストリートマーケット ギンザでの、〈アディッシュ〉とフレッドペリーのコラボレーションのローンチに際して日本を訪れた彼らにインタビューを実施。ローカルのカルチャーを世界に向けて発信することで、ファッションの枠を超えたメッセージが見えてくる。

Edit Kokono Saito

〈アディッシュ〉のファウンダー、(左)エヤル・エリヤフと(右)アミット・ルソン。 Photo Yoko Tagawa

無関心が想起する関心

ブランドを立ち上げてから5年足らずで、ファッションシーンだけでなく、カルチャーとの深い結びつきを見せるビッグネーム、フレッドペリーとのコラボを発表した〈アディッシュ〉。ブランドについて深く知ると、このコラボは商業的なアプローチという側面では語りきれない、価値観のシンクロによって生まれたものだと感じさせられる。では彼らがブランドを通じて掲げるのはどのような姿勢なのだろうか。「〈アディッシュ〉は4人のパートナーによって運営されるブランドで、2人はイスラエル、もう2人はパレスチナの人間。僕たちは、現代のシルエットを反映させつつ、ローカルから影響を受けたクラフツマンシップをミックスしたクリエイションを行っているよ。クラフツマンシップを落とし込む過程で、多くのパレスチナ人と仕事をともにして、刺繍をつくったりしている」。パレスチナとイスラエルは長い歴史の中で、対立を続けているという背景がある。彼らはモノづくりを通して、その現状に対してのアクションを起こしている。「ブランドをはじめるにあたって、イスラエルとパレスチナの伝統工芸について研究をしていて、この刺繍についても知っていた。しかしパレスチナに行ったことはなかったし、刺繍職人へのコネクションもなかったんだ。運がいいことに、知人から3人の刺繍アーティストを紹介してもらって、その職人に会うためにはじめてパレスチナに行ったのは、とても最高の経験だったよ。そして現地の人々にクレイジーなストーリーを聞く中で、自分たちが正しいことをしなくてはいけないと思ったんだ。彼らとともにモノをつくるということは、ただ伝統工芸を使用するだけでなく、パレスチナの話もコレクションを通して発信しなくてはならないということ」。政治的なメッセージをグラフィックに乗せるというような方法であれば、目にすることもあるが、彼らのアプローチはより踏み込んだ視点を有している。国や地域という大きな枠組みでは、交わらない部分もあるが、モノづくりにおいてはその両者の特質や文化を共有し、確かに互いが共存しているのだ。そして直接的ではない表現が、一層メッセージ性を際立たせ、〈アディッシュ〉を通して社会的な問題に対して向き合うきっかけにもなるだろう。

  • スライド

    〈アディッシュ〉のクリエイションの核となる、パレスチナの伝統工芸である刺繍。使用する繊維の選定にも気を配り、各工程に時間をかけて手作業によって行う。どこか民族的な要素を思わせる模様も、村によってその特徴があり、それぞれ意味をもつという。こうした伝統的なアプローチをストリートウエアに落とし込むことこそ、〈アディッシュ〉が行う独自のアプローチと言えるだろう。

  • スライド

    〈アディッシュ〉のクリエイションの核となる、パレスチナの伝統工芸である刺繍。使用する繊維の選定にも気を配り、各工程に時間をかけて手作業によって行う。どこか民族的な要素を思わせる模様も、村によってその特徴があり、それぞれ意味をもつという。こうした伝統的なアプローチをストリートウエアに落とし込むことこそ、〈アディッシュ〉が行う独自のアプローチと言えるだろう。

パレスチナのベイトジャラと、イスラエル、ラキヤのベドウィン村。パレスチナとイスラエルにルーツをもつ人々が、ブランドを通して共存している〈アディッシュ〉。どちらが正しい、間違っているかということを投げかけるのではなく、悲惨なことが起きているという現状もあるという点に目を向けるきっかけを与えている。

「〈アディッシュ〉というのは、ヘブライ語で無関心という意味。イスラエルの人々は、パレスチナに対してほとんど無関心で気にしないという面もあるから、僕たちはこの言葉を皮肉的な意味合いも込めて使いたかった。自分たちのアプローチによって、世界中の人々の関心をキャッチして、パレスチナの現状や日々起きている悲惨なことに警鐘を鳴らすことが狙いだよ」。なにが正解とか不正解という話ではなく、現状に目を向けることと、それに対する選択肢を、綺麗事ではなく実践で提示する。こうした姿勢が〈アディッシュ〉の輪を広げ、今回のコラボレーションの実現にも影響を与えているはずだ。「規模は違えど、クラフツマンシップやディテールへの意識という点は共通していると感じた。撮影も一緒にして、数多くのプロフェッショナルに会うこともできたよ。自分たちはすごく小さなブランドだから、ビッグブランドがどのように機能しているかを目の当たりにして、すごく興味深い経験になった。今回のコラボレーションによって、刺繍という文化を、洋服を通して発信できたこと、そしてなによりパレスチナの現状を世界に伝えることができて非常によかった」。ローカルを大切に、身近なストリートからより広い世界へ。少し大げさかもしれないが、かつてフレッドペリーがそうであったように、〈アディッシュ〉もそんな可能性を秘めた存在だと言えるのではないだろうか。

コラボレーションに際して、フレッドペリーのロンドン本社にて、共同で撮影したコレクションルック。フレッドペリーの代表的なアイテムの数々に〈アディッシュ〉を象徴する刺繍が施され、クラシックな名品にアクセントを加える。互いのカルチャーに敬意を評したコレクションは、見た目だけではないファッションの奥深さに気づかせてくれる。

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