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VAINL ARCHIVE from vol.102 VAINL ARCHIVE from vol.102

FASHION, INTERVIEW, MAGAZINE 2021.5.14

VAINL ARCHIVE from vol.102

Kouhei Okita

俯瞰で見渡す心地よい“間”

自身のブランド、〈ヴァイナル アーカイブ〉のデザイナー、2018年にオープンしたアートブックやZINEを中心に扱う、ショップ兼ギャラリー〈ソルト アンド ペッパー〉の店主、そして20SSシーズンにローンチされたリーボックのファッションラインである〈リーボック エイティーワン〉のディレクターと多彩な顔を持つ大北幸平氏。自身が傾倒してきたアートやファッションをベースに、広い視野でアウトプットへと繋げていく。オリジナルの表現を続ける根底にあるのは、点ではなく全体を見渡すような一歩引いた視点。

Photo Asuka Ito 
Edit&Text Shuhei Kawada

インタビューにて言及のある、大北氏の趣向をまとめた自作のアルバムのような1冊。ほとんど誰にも見せたことがなかったというほどパーソナルなものだが、〈ヴァイナル アーカイブ〉の世界観と通ずる部分も随所に見られる。(写真右)21SSシーズンより使用される、新たなブランドロゴのタグと、立ち上げ当時のロゴの写真。どちらもアーティストである、Noritake氏が手がけたもの。大きな刷新ではないが、若干のニュアンスの違いが躍動感を感じさせる。

好きなものとクリエイション
その距離感

 自身のブランド〈ヴァイナル アーカイブ〉だけではなく、今では〈ソルトアンド ペッパー〉の運営、〈リーボック エイティーワン〉のディレクションと多様なクリエイションで支持を集める大北幸平氏。まずは〈ヴァイナル アーカイブ〉の原点から振り返る。「基本的にはやはり〈ヴァイナル アーカイブ〉が主軸です。当初はカルチャーも洋服もアートも一緒くたに表現したいと思っていました。ブランドをはじめた当初は自分が通ってきた裏原文化的なネームの見せ方やアイコニックな見せ方ではなく、あえてネームを表面に見せずに自分はそこで勝負しないって天邪鬼な感じで。当時のストリートブランドというと景気が良く、OEM会社も多く実売に繋がりやすい状況でブランドをはじめやすかったこともあり、同じような生地や手法が乱立し、雰囲気が似ているブランドも多かったのも事実。その分DCやメゾンなどが好きな方達からストリートカジュアルという単純な括りで少し軽視されるように感じたこともありました。そこに対して、素材やパターンといったもうひとつ奥にあるものを強めたいと思ってこのブランドをはじめました」。アートとファッションを混ぜ合わせた表現を模索して立ち上げた〈ヴァイナル アーカイブ〉。今のようなスタイルに辿り着くには時間がかかった。「最初の1年は世の中にちょっと負けたんですよね。ちゃんとやろう、失敗できないって変なプレッシャーを感じて、逆に一番やりたくないようなことをやっちゃったりして。もともと2人ではじめたこともあって、最初はどうしても整えて置きにいってたんです。当時は自信なさすぎて何もつくれなくなってたね。でもひとりで再スタートする時に自分は何が本当に好きか、1冊のアルバムに写真を切り貼りしたりしてまとめてみたんです」。飲まれないように、流されないようにという自らの想いを結果として裏切る形になってしまった立ち上げ当時の苦い記憶。それゆえに改めて自分を見つめる機会が生まれた。かといってその後はトントン拍子というわけではなく、苦悩は続いた。「あるとき奥さんに“辛い、辞めたい”など泣き言を言っていたら“辞めたら?”って言われたんですよね。それまで自分のことしか考えてなくて、勝手に追い込まれていて。洋服ってなんていうか俯瞰的な要素が強いと思うんです。でも自分はアーティストみたいに、もっとストレートに表現できる人になりたかったんだと思う。そのあたりがぐちゃぐちゃになっていました」。ファッションとアート双方への愛やリスペクトがあるからこそストイックに向き合っていたが、近すぎる距離感では見えないものもあるのだろう。つくり手としての一歩引いた目線。現在の〈ヴァイナル アーカイブ〉の洋服に見られる、ストリートの文脈を拾いつつも、素材やシルエットなどに浮かぶ品のある表情。強すぎないが記憶に残るような絶妙な色使い。吸収してきたものをベースとしながらも、直接的ではなく、全体の空気感を含め、程よい距離を取りながら丁寧に落とし込んでいく。

〈ヴァイナル アーカイブ〉の服づくりにおいて、当初から大きく変わっていない点のひとつが色使い。少しくすんだような、何色とも形容しがたい絶妙な色味がとても心地よい。色選びに対する姿勢にもデザイナーの内面が映し出されているように思える。

〈ソルト アンド ペッパー〉の内観。店舗のロゴはステファン・マルクスが手がけている。店内にはストリートやファッションを中心にした書籍だけでなく、幅広い作家の作品が並ぶ。その数は2019年のオープンから増え続け今では2000冊ほどになるという。洋服やカバンなどのマーチャンダイズも豊富に揃い、その懐の深さで楽しませてくれる場所。

アートとファッション
その捉え方

 「今の事務所に引っ越してきて、なにか物販をやるってなった時に、〈ヴァイナル アーカイブ〉の洋服を置くというのはあまり想像がつかなくて。じゃあなんか自分の好きなものとか偏愛的なものでいいからやってみようと思ってはじまったのが〈ソルト アンド ペッパー〉。当初は今みたいなアートショップという感じにする予定でもなかったんだけど。このお店をはじめたことで、アートとファッションをそんなに難しく捉えなくてもいいかなって思うようになりましたね。合うものは合うし合わないものは合わないから。また自腹を切ってでもアーティストの方々の考え方とか過ごし方、表現の仕方に共感できるというのが一番大きいです。そしてそれを知った上で表現に落とし込むのと、何も知らないでこの人の作品やったら売れるでしょって落とし込むのでは違うから」。当初は物販のスペースのみだったが、昨年その上階にギャラリースペースもオープンさせた。国内外問わず並ぶ、幅広い年代をまたぐアーティストの作品。写真集やZINEを中心に、フォトTやアート作品までが揃う。表現のジャンルは異なれど、そこにはなんとなく感覚が刺激されるという漠然とした共通点がある。ここに集まるアイテムは、興味から興味へと派生し、循環させるような入り口でもあるのだろう。「自分はいわゆる一般的な、アートに興味があまりない人と、アートがものすごく好きな人の間くらいにいるんじゃないかな」と大北氏は言う。自身の偏愛を反映させつつ、押し付けるのではなく、広がりを見せていく〈ソルト アンド ペッパー〉。この場所ができたことで、ファッションという視点で捉えるアートに対しても、程よく間合いを取ることができるようになったのだろう。「面白いことに〈ヴァイナル アーカイブ〉が好きでここに来てくれる人は〈ソルト アンド ペッパー〉に興味がなかったり、〈ソルト アンド ペッパー〉が好きな人が〈ヴァイナル アーカイブ〉知らないってこともあるんだよね。でもそこを無理に焦って繋げるというよりかは、勝手に繋がる時は繋がるから。ここも面白いお店になってきました」。当初描いていたファッションとアートを融合させるという理想に、ブランドと店舗という形態で近づき出している。決して無理に混ぜ合わせるのではなく、別々の道で歩みを進めながら時にお互いを補い合う。その程よい関係性を〈ソルト アンド ペッパー〉が可能にしたと同時に、受け取る側である我々にとっても、別々の入り口から派生する楽しさを与えてくれている。

  • スライド

    2018 年に〈ヴァイナル アーカイブ〉とリーボックのコラボで誕生したシュ ーズ。『CLUB C』や『DAYTONA DMX』といったリーボックの名作モデルに、 マテリアルなどディテールへの変化を加え、独自の表現を追求した。今の〈リ ーボック エイティーワン〉での取り組みのきっかけでもある。

  • スライド

    〈リーボッ ク エイティーワン〉としてこれまで手がけてきたシューズ。中段が21SSシーズ ンのもの。こうしてまとめてみると、それぞれの個性だけではない、全体に通 じる美学が見えてくる。

21SS〈リーボック エイティーワン〉のキャンペーンビジュアル。こちらを大北氏と手がけるのは、〈ヴァイナル アーカイブ〉でのビジュアルもともにつくっている、写真家の小浪次郎氏。

自分と世間
その間で

 〈ヴァイナル アーカイブ〉と〈ソルト アンド ペッパー〉。その2つに加え、今では20SSシーズンのローンチされたリーボックのアパレルを軸としたライン〈リーボック エイティーワン〉のディレクションとデザインも行っているのだが、この経験も彼にとって非常に大きな意味合いをもつ。「自分が満足いくクリエイションを広げていくのが自分のブランドだとしたら、そこだけでなく世の中にもっとしっかり見せていかなくてはいけないのが〈リーボック エイティーワン〉。〈ヴァイナル アーカイブ〉であれば、良くも悪くも独りよがりな部分があるので、“これが自分のスタイルだから”で通用するんです。でも〈リーボック エイティーワン〉にはとんでもない数の人が関わっていてそうもいかないんです。その中で自分の強みや色味はどこにあるんだろうってすごく考えるきっかけになりましたね。自分を丸裸にされたというか」。自身のブランドでは、思い描くクリエイションを追求した結果、そこに対して共鳴してくれる人々が集まる。しかし〈リーボック エイティーワン〉では、自分のクリエイションを追求することと並行して、より多くの人々に浸透するアプローチが求められる。「こうした状況下で取り組めたということは非常に大きかったですね。自分のクリエイションでも好きなことをやろうと思えたのは、〈リーボック エイティーワン〉での仕事が大きいかもしれません。実はすべて連動しているんだなと思いました。〈ヴァイナル アーカイブ〉はよくホームランを出さない、二塁打が多いブランドだって言われるんです。でも〈リーボック エイティーワン〉ではそれじゃあダメで、かといってホームランの出し方わからないから、すごく考えさせられました」。二塁打と本塁打、どちらが良いではなく、どちらにも良さがあり、その分難しさもある。自分が良いと思えるものをとことん追求していく姿勢。同時に、自分が良いと思えるものでありながら、より多くの人に届けるためにどうクリエイションを行うか。自身のブランドと向き合うだけでは掴めなかった確かな手応えを掴んだのだ。自分の知らない世界を突き放すのではなく、自らに取り入れることで見えてくるものもある。「ただ闇雲に歯向かうだけじゃなくて、疑問をもって動くことも抵抗だよね。自分がもっている勝手な価値観に対して、人の考えを聞くことで違う抵抗が生まれるのかな。俯瞰とちょっと繋がる部分もあるけど、自分に抵抗していかないとね。それに気づけた一番のきっかけは、〈リーボック エイティーワン〉での仕事かもしれない」。自分が良しとする感覚を世間に対してどう伝えるか。自分の得意とすることの純度やスタイルをクリエイションに応じて調整していく。「そんなに器用ではないし、頭の中はぐちゃぐちゃになっている」と口にするが、積み上げてきた経験やインプットしてきた情報と適度な間合いを取ることができるからこそのバランスを確かに感じさせる。数多くの苦悩を経験してきた先に辿り着いた、自分自身への抵抗。その先にあるのが過去の自分を超えた、世の中を驚かせるようなクリエイションなのかもしれない。

PROFILE

大北幸平

〈ヴァイナル アーカイブ〉のデザイナーとして、多くの支持を集める。2018 年にはアート書籍やZINEを中心に扱うショップ兼ギャラリー、〈ソルト アンド ペッパー〉をオープン。現在は〈リーボック エイティーワン〉のデザインとディレクションも務める。

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