the Force (1/2)
Goldwin
ブランドの根底にある哲学
1951年に富山県西部の小矢部市に、前身である株式会社津澤莫大小(メリヤス)製造所を設立し、以来スポーツウエア専業メーカーの道を歩んできたゴールドウイン社。現在は様々なスポーツやアウトドアウエアブランドを抱えるなど日本を代表する企業である。そして自社の名を冠したブランド、Goldwin(ゴールドウイン)は2014 年のリブランディング以降新たな局面を迎えており、それを中心で担う事業部長の新井元氏へインタビューを行なった。
Photo Yoko Tagawa
Text Atsutaro Ito
Edit Shuhei Kawada
既存のイメージを踏襲するよりも
新たなステージを自分たちでつくる
ザ・ノース・フェイスやヘリーハンセン、ウールリッチなど、近年のハイスペックアウトドアウエアのトレンドを国内において牽引してきたのがゴールドウイン社である。独自の開発技術で他に無いアイテムをそれぞれのブランドで提案し、スポーツやアウトドアシーンはもちろんファッションシーンにおいても一目置かれる存在だ。同社の歴史の中で『Goldwin』のスキーウエアは80年代を席巻し、当時はゲレンデにいた若者たちにも高い評価を得ていた。それから、時代とともにスキー人口が減り、自ずとウエアの需要も減少していくなかで、2014年に新しい価値を提案するべく『Goldwin』のリブランディングがスタートした。「以前からスキーウエアをベースに長らくブランドをやってきたのですが、このままの路線を走り続けても、これ以上の広がりや機会点を生み出していくのは難しいと感じていて、それがリブランディングをするきっかけでした。世の中に存在するブランドイメージを踏襲するよりも、違ったステージを自分たちでつくったほうがいいのでは、という思いから、長年スキーやアウトドアで培ってきた経験=アイデンティティをもとに、合理性を追求したフォルムや機能性、快適性・利便性と、シンプルで飽きのこないデザインを融合させた、新しい価値をもつウエアの開発を目指しました。」。
1_1951年創業当時の集合写真。ここからゴールドウインは世界へと羽ばたいていく。2_スキーウエアから始まり、今もなおそのアイデンティティが変わることはないそう。3_店内でインタビューを受ける新井氏
今後の未来を見据えた開発を行うテックラボ。
そう語るのは、長きにわたり同社でザ・ノース・フェイスの商品開発企画に携わり、現在は『Goldwin』ブランドの事業部長を務める新井元氏。ものづくりに対する職人的なこだわりでアウトドアウエア業界の進展に貢献してきた人物である。「ゴールドウインという会社自体は設立から70年近く経っていて、富山県西部の小矢部市でメリヤス、いわゆるニットの工場としてスタートしました。それから1964年の東京オリンピックをきっかけにスポーツウエアのマーケットを開拓し、そういった意志のもとで会社が拡張されていきました。だから、私たちはファッションではなく、アイデンティティとしてはスポーツが根底にあり機能性や実用性は欠かせない要素なんです。そのなかでモノマネではなくオリジナルを追求することが『Goldwin』として大事だと思っています」。近年のリブランディングによりファッションシーンでの注目度は以前に増して高まるのだが、あくまでもスポーツカルチャーを根底に持ったブランドであり、素材や縫製など技術的な探求は現在も続いてると言う。「商品企画を行うのは、基本的には私と固定のメンバーで形成されたチームなので、新しいものを開発するにしてもスピード感が通常よりはるかに速いですね。そういうプロセスをもっているのは当社独自の強みじゃないでしょうか。また、ルーツである富山県にはテックラボという開発拠点があって、そこではパターンメイキングや縫製などより基礎的な、将来を見据えた開発などを行っています。そこで培われたノウハウが製品に生かされることも多くあります」。
(右)コットンライクな風合いの防水透湿性素材 と保温性に優れたダウンを組み合わせたダウンモッズコート。着丈は長めのややゆったりとしたAラインシルエットで、ミリタリーテイストを演 出。¥71500 (左)GORE-TEX PRODUCTSの2層構造シェルと光電子 ® ダウンを組み合わせた、防水性と保温性の高いダウンコート。特徴的な デザインとして新雪に描かれるシュプールをイメ ージした曲線の切り替えを採用し、ブランドのアイデンティティを表現している。¥121000
ファッションと
スポーツの融合
2016年AWシーズンからは『LIFESTYLE』コレクションを展開する『Goldwin』。“都会に暮らしながら、週末は自然の中へー。”このブランドコンセプトを掲げて発表されたコレクションは、機能的で洗練されたアイテムが話題になり、ファッションシーンをいい意味で騒つかせるものだった。「ファッションとスポーツはマーケット的に昔から判然としない区分けになっていて、その時代で着る人がどのように自らのスタイリングに取り入れるか、大きく言えばそれがファッションとスポーツの融合だと思っています。先ほども言ったように私たちはあくまでもスポーツが背景にあるのですが、実際にアイテムを購入して着てくださる人のスタイルに入り込んでいくということでファッションとしての側面も持ち合わせています。そういった意味では、丹精込めて作った機能的なアイテムが、すごくかっこいいものとして認められることが理想ですね。例えばお客様に対して、いつものスタイリングにゴールドウインのジャケットを羽織りたいと思ってもらえたら、それこそがファッションとスポーツの融合ではないでしょうか。物づくりの哲学や考え方は製品に色濃く出ているので、厳しい目で見極めてもらいたいです。その上で『Goldwin』を選んでもらえるようなお客様とのお付き合いや機会が広がっていければいいと思い、新たなコレクションの発表やロゴの刷新を行ってきました」。2018年にブランドロゴを一新し、翌年には高機能アンダーウエア『C3fit』がコレクションに加わった。それと同時に『ATHLETIC』と『OUTDOOR』の2つのコレクションもスタート。これらに共通するのは、それぞれのアイテムが合理性と快適性を追求した無駄のないフォルムや素材、機能性をもち、都市でも着られる洗練されたデザインになっていることだ。まさに、”都会に暮らしながら、週末は自然の中へー。”のブランドコンセプトが文字通り表現されたコレクションに仕上がっている。
(右上)環境に配慮した革新的な素材であるプリマロフト®Bio™を使用したボアフリースパーカとクルーネックは、適度なボリューム感で現代的なシルエットとなっている。¥33000、¥26400(右下)曲線美を取り入れたデザインと軽量性・保温性が特徴で、ビジネスシーンや日常、旅先などあらゆるシーンで着こなすことができるハイロフトのダウンジャケット。¥79200(左下) ストレッチ機能を備えたツイル生地を使用したパンツは、ワンタックを入れた幅広の美しいシルエットとヴィンテージライクな質感が◎。¥24200(左上)GORE-TEX PRODUCTSの3層素材を使用。シーンを選ばず着用でき、利便性の高いポケット使いも特徴のバルカラーコート。¥107800
スキーやアウトドアを
カジュアルに落とし込む
ゴールドウインのアイテムはどれもシンプルで、一見するとその機能性を疑ってしまいそうになる。しかし、新井氏がインタビュー内でも触れていたように、そういったことは起こりえず、むしろ製品として最も主張されているのは機能性で、ブランドしても必要不可欠な要素だが、それを見た目で感じさせない物づくりを実現している。「例えば「OUTDOOR」コレクションで言えば、まずはアウトドアウエアとして防寒性が高いもの、それから濡れないことや丈夫さなど必要最低限の機能は必ずアイテムにディテールとして存在させています。そのなかで、他ブランドとは違う工夫をしていて、例えば日本の四季を考慮し、いかなる環境においても変わらず高いパフォーマンスを発揮できるなど、そういったことがブランドのカラーになっていきますね。だからこそ目的とか着る人のイメージは製品を作る最初の段階でチーム全体で共有していて、ゆえに新製品でも定番でも基準としているクオリティに満たないことは決してありません」。確かに値段的には安いとはいえないかもしれないが、洗練されたシンプルなデザインである故に汎用性が高く、コストパフォーマンスは抜群に良いというのが実際のところである。真摯にものづくりに向き合う姿勢はクラフツマンシップを感じさせ、大人の男のクリエイティブな遊び心を刺激するというものだ。