GRIND

Rabbit Hole Rabbit Hole

CULTURE, INTERVIEW 2024.7.3

Rabbit Hole

Interview with James Edson

ストリートにおける
時間の捉え方

〈Palace Skateboards〉のファンであれば一度は耳にしたことがあるであろう〈Palace Wayward Boys Choir​​〉(以下PWBC)。その初期メンバーでありながら、フォトグラファーとしてロンドンを拠点に活動しているのが、ジェイムス・エドソンだ。彼は25年間に渡りブリティッシュのスケートシーンを撮影し続け、それを1冊にした写真集『Rabbit Hole』を昨年発表した。ページをめくるたびに写真が45度傾いていく本作では、読者を“ラビットホール”の世界へと誘うように、あえて本を回転させて写真をみるような、遊び心溢れたデザインが施されている。「写真は自由なんだ」と言うジェイムス。偽りのない姿を切り取ることにこだわる彼が25年の歳月をかけてつくりあげた“ラビットホール”の世界には、時間との向き合い方が見え隠れしているように思えた。

Photo_James Edson
Edit&Text_Yuki Suzuka

過ごした日々が
リアリティを生む

 ルシアン・クラーク​​、ローリー・ミラネス​​、ダニエル・スノーウィー・キンロクなど、サウスロンドンに位置する3LDKの間取りに当時9人のPWBCのスケーターが住んでいた。そのボロアパートを“パレス”と呼んでいたことから今の〈Palace Skateboards〉がはじまったのは有名な話だが、その創設メンバーのうちの1人が、ジェイムス・エドソンである。そんな彼が、2024年5月上旬に行われた写真集『Rabbit Hole』のイベントで来日した。急遽オンラインでの取材となったが、快く引き受けてくれたジェイムスは『Rabbit Hole』を制作した経緯についてまず話してくれた。「MPK STUDIOのマットがメッセージをくれたんだ。最初は彼がつくっているTシャツとか傘とかの撮影をする予定だったんだけど、結局そのアイデアが無くなって、一緒に本をつくることになった。理由はともあれ、話していくうちにどんどんアイデアが膨れ上がって、出来上がるまでに約1年くらいかかったかな」。25年間で撮り溜めてきた膨大な数の写真をセレクトする作業はかんたんではなかったというが、選び抜かれた1枚1枚の写真にはどのような意味が込められているのだろうか。「被写体の多くは俺にとって大切な人たち。そして俺はその場で起こっていることをありのまま伝えたいんだ。誰か特定の人間の写真を撮ろうとするのではなく、シナリオを捉える。もちろん、この本にはポーズをとった写真もたくさんあるんだけど、ポーズをとれば、それは既に彼らの本来の姿ではないでしょ。だから俺が撮る写真のためにとったポーズじゃなくて、実際のストーリーや彼らの本当の姿を感じてもらえる写真を撮っている」。『Rabbit Hole』は自分自身と向き合うきっかけになったというジェイムス。25年もあればもちろん良い思い出だけではないが、それすらも写真集に入れたのにはある理由があった。「この本をつくる過程、マットとのプロセスは正直怖かったんだ。この本には亡くなった人がたくさん出てくるから。もう彼らのような昔の友人やガールフレンドには会うことはできない。気が引ける作業だったけど、その作業は俺を心の旅に連れ出したんだ。その旅をはじめるには誰かが必要でマットがそうしてくれた。でもあいつがいなければよかったと正直思ったこともあった。だけど良い思い出も悪い思い出もいつまでも引きずっていたら前に進めないんだ」。25年という時間を1冊にまとめるというプロセスには、痛みも伴うからこそ、リアリティが生まれその経験をしていない人々の共感につながる。

  • スライド

    ジェイムスにとって初の写真集となる『Rabbit Hole』。そこにおさめられた貴重な写真の数々の一部を紹介。ロンドン・サウスバンク、スケートパークでのキッズの写真、ふざけ合う友人たちの写真、何気ない病院訪問の写真、そして世界中の都市を旅したときの写真までが掲載されている。

  • スライド

    ジェイムスにとって初の写真集となる『Rabbit Hole』。そこにおさめられた貴重な写真の数々の一部を紹介。ロンドン・サウスバンク、スケートパークでのキッズの写真、ふざけ合う友人たちの写真、何気ない病院訪問の写真、そして世界中の都市を旅したときの写真までが掲載されている。

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    ジェイムスにとって初の写真集となる『Rabbit Hole』。そこにおさめられた貴重な写真の数々の一部を紹介。ロンドン・サウスバンク、スケートパークでのキッズの写真、ふざけ合う友人たちの写真、何気ない病院訪問の写真、そして世界中の都市を旅したときの写真までが掲載されている。

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    ジェイムスにとって初の写真集となる『Rabbit Hole』。そこにおさめられた貴重な写真の数々の一部を紹介。ロンドン・サウスバンク、スケートパークでのキッズの写真、ふざけ合う友人たちの写真、何気ない病院訪問の写真、そして世界中の都市を旅したときの写真までが掲載されている。

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    ジェイムスにとって初の写真集となる『Rabbit Hole』。そこにおさめられた貴重な写真の数々の一部を紹介。ロンドン・サウスバンク、スケートパークでのキッズの写真、ふざけ合う友人たちの写真、何気ない病院訪問の写真、そして世界中の都市を旅したときの写真までが掲載されている。

25年前の記憶
サウスバンクという居場所

 25年前のロンドンは、年間の約3分の1は雨が降るという現実は、アメリカから発信されるスケートビデオを通して見る景色との間に大きな溝をつくっていた。街はグラフで溢れ、毎日どこかでケンカが勃発し、ドラッグやアルコールに日々のストレスや不安をぶつける人も多かったという。「ロンドンはとにかく苦労が多いんだ」と当時を振り返る。「25年前のサウスバンクは強盗に襲われるような場所というか、かなり荒れてたんだ。スケートボードをしない奴らもみんなサウスバンクに集まって、凶暴な奴らがそこらじゅうにいたよ。俺たちはただスケートをしていただけだから大丈夫だったけど、そういう時代だった。でも決して悪い場所ではないんだ。だって友情や家族を与えてくれるからね。たぶん家庭がうまくいってなかったら、みんなあそこに行って、何かの一部になるんだ」。彼にとってPWBCは、ある種の救いであったに違いないだろう。そして写真を本格的に撮りはじめるようになったのもちょうどこの頃だった。「何が起こっているのかを記録することに興味があったんだ。俺のまわりにはクレイジーなやつがたくさんいたから、本当にラッキーだった。当時他に撮っているやつもそんなに多くなかったし、あいつら自身も俺のことを信頼してくれてたからその関係性は大きかったと思ってる」。他の人を撮るよりもスケートをしてる彼らを撮ることが何よりも楽しかったと言うジェイムス。写真家と被写体という関係性に止まらない、仲間としての姿を収め続けてきた。「25年前にもなるけどPWBCのクルーは今でも付き合いがあるし、本当に良いやつらなんだよ。今はみんな少し大人になってクリエイティブなことをやろうとするやつも増えているね。俺みたいに写真を撮るやつもいればアートをやるやつもいる。だけど、その中心にはいつもスケートボードがあるんだ。そしてその愛は出会ってからどんどん大きくなっていったんだ。自分の人生をPWBCに捧げると言っても過言ではないよ」。作品にしたいという欲ではなく、ただともに過ごした時間の記録。だからこそ著名なメンバーたちがいるかどうかは関係なく、彼にしか写せない時の流れが詰まっている。

  • スライド

    東京、大阪2日間にわたり行われたイベントの様子。『Rabbit Hole』の写真の展示だけではなく、ルシアンやローリーによるDJパフォーマンスは会場を大いに盛り上げた。ポラロイドによる写真はジェイムスが今回日本に滞在していたときに撮影したもので今回GRINDのために特別に提供してくれた。

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    東京、大阪2日間にわたり行われたイベントの様子。『Rabbit Hole』の写真の展示だけではなく、ルシアンやローリーによるDJパフォーマンスは会場を大いに盛り上げた。ポラロイドによる写真はジェイムスが今回日本に滞在していたときに撮影したもので今回GRINDのために特別に提供してくれた。

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    東京、大阪2日間にわたり行われたイベントの様子。『Rabbit Hole』の写真の展示だけではなく、ルシアンやローリーによるDJパフォーマンスは会場を大いに盛り上げた。ポラロイドによる写真はジェイムスが今回日本に滞在していたときに撮影したもので今回GRINDのために特別に提供してくれた。

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    東京、大阪2日間にわたり行われたイベントの様子。『Rabbit Hole』の写真の展示だけではなく、ルシアンやローリーによるDJパフォーマンスは会場を大いに盛り上げた。ポラロイドによる写真はジェイムスが今回日本に滞在していたときに撮影したもので今回GRINDのために特別に提供してくれた。

自分の時間を過ごす

 良いときも悪いときもその全ての瞬間をPWBCとともに過ごしてきたジェイムス。昨年この本をつくったことをきっかけに彼の心境に変化が現れる。「自分の中でかなりペースダウンしたんだ。物事が他人にどう影響するかをとても意識するようになった。たぶん人としてもっと冷静になろうとしたんだ。変えられないことはたくさんあるからね​」。変えられない現実に対して落ち着いて受け止める努力をすること。しかしそれは自分自身を追い詰めたり強要することではない。「カメラを持っていても何を撮っていいのか正直わからない瞬間もあるよ。すべてがやり尽くされている感じがするときも全然あるしね。だから​​何カ月もカメラを手にしないこともある。でもそのうちにアイデアが湧いてくるんだ。それはある意味多くのものを撮影しているのと同じだと思ってる。無理にやろうとするとうまくいかない。でもちょっと置いておくだけで頭に浮かんできたりね。写真はもっと自由だと思うんだ。だから強要しないことは今の俺にとってはとても大事なことさ」。瞬間に導かれるからこそ、映し出される写真は時を経ても色褪せずに残る。「今は何でもかんでもたくさんの写真を撮るのではなく、もっと思いやりをもつようになったと思う。確実に残したいなって思うようになった。最近はポラロイドを使っているんだよ。時代じゃないのはわかってるんだけどあえてやっているんだ。自分が何を撮っているのかより意識するようになった。撮ることよりも残すことにフォーカスすることで、自分が実際に望んでいるものを捉えることができる。そしてもう友達の写真ばかり撮っていないで、もっと視野を広げようと思っているんだ。いろんなことに挑戦したい」常に作品を出し続けなくては世の中に忘れられてしまうというプレッシャーがどこか感じられる昨今。しかし型や正攻法、移りゆく人や時代の流れに惑わされ自分の考えを限定する必要はない。自分に対して何かすることを強制しないことが大事だとジェイムスも言うように、たとえその手法やスタンスが時代に逆行していても、自分の時間を過ごすことを意識すれば、目の前の名声よりも大切なものがあるのだと、ストリートを生きてきた先輩が示してくれている。

ジェイムス・エドソン(写真・左)
〈Palace Wayward Boys Choir​​〉の初期メンバーで、フォトグラファーとしてロンドンを拠点に活動している。昨年8月に自身初となる写真集『Rabbit Hole』をMPK STUDIOより出版。

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