CULTURE 2023.4.25
PARCO
“NEW DEPARTURE”
2023 SPRING/SUMMER
広告を通じて背中を押す
1969年の創業以来、センセーショナルな広告を打ち出しつづける〈パルコ〉。2023SSシーズンは『NEW DEPARTURE』をテーマに掲げ、約2分間のムービーを公開。寓話『トンボとアリ』をモチーフに、華やかな衣装を纏ったキャストたちが繰り広げるダンスからは、心を躍らすポジティブなメッセージが感じ取れる。クリエイティブディレクターを務めるタヌ・ムイノは〈グッチ〉や〈ディオール〉のキャンペーンや、リル・ナズ・Xのミュージックビデオなどを手がけ、多くのアワードにノミネートされる映像監督であるが、日本の企業としては今回が初の取り組みとなる。世界中の新人アーティストや気鋭クリエイターを起用してきた企業が考える広告の役割、そして今シーズンのキャンペーンムービーに込められた想いに迫ることで見えてきたのは、新たな1歩を踏み出す人々の背中を後押しする〈パルコ〉の姿。
Edit&Text_Yuki Akiyama
目利きとしてチョイスし
表現として発信する
石岡瑛子、井上嗣也、M/Mパリス、ヨーガン・テラー、ジェイミー・リードなど、〈パルコ〉は世界中の気鋭クリエイターたちと協業し、センセーショナルな広告をつくりつづけてきた。〈パルコ〉の広告が多くの人々を魅了するのは、何かを売るためではなく、会社が抱く強いメッセージを世の中に伝えるためのメディアとして広告を捉えているからこそ。そしてそのクオリティの高さを裏付けるのは、日本のカルチャーの発展を支えてきた存在ならではの審美眼。「単純にクリエイターを起用してご自由にどうぞというスタンスではなく、〈パルコ〉が世の中に強くメッセージしたいことの代弁者という視点でアーティストやクリエイターを選んでいます。有名な人だから、みんなに人気があるからという視点は全くなくて、むしろまだ知られてない人だったり、日本初の人だったり、そういう人たちをパルコが目利きとしてチョイスして、こんなすごい人がいるんだよと広告を通してお客様に提供するというのが基本的なスタンスです。〈パルコ〉は映画や演劇、音楽ライブなどもプロデュースしていますが、その考え方は全てに等しくあると思っています」。〈パルコ〉という表現の場を利用して世の中に出ていく。そうしたインキュベーションとしての機能が企業としての社会的な役割だという。GRINDは昨年、一昨年と渋谷PARCOを舞台に開催されたカルチャーの祭典『P.O.N.D.』を取材し、独自の視点から若手のアーティストやクリエイターをフックアップする姿を目撃していたが、広告といういわば企業の顔である部分に対しても、スタンスを曲げることなく挑戦する姿勢には正直驚かされた。長い歴史の中で積み上げてきたものに対して誇りをもちながらも、決して驕ることなく実直に自分たちの役割を果たしつづける〈パルコ〉。自分たちの商品を売るのではなく、新たな才能が花開く舞台として広告を捉えることで、時代の空気を映し出し、カルチャーの発展を下支えする土台としての姿が浮かび上がる。外に向けた目線は周囲を巻き込み、刺激し、結果として大きくなって自分たちの元へと帰ってくる。
人と人との距離が生む
ポジティブな空気
パンデミックがもたらした社会の変化にもだんだんと慣れてきた状況の中で、カルチャーを通して新しい生活のスタートを応援するという想いを込め、2023SSシーズンのテーマとして〈パルコ〉は『NEW DEPARTURE』という言葉を掲げた。そして、このメッセージの代弁者として抜擢されたのがタヌ・ムイノだ。彼女は〈グッチ〉や〈ディオール〉のキャンペーンムービーやリル・ナズ・X、ポスト・マローンとザ・ウィークエンドのコラボ楽曲などさまざまなアーティストのミュージックビデオを手がける映像監督だ。ファッションショーをオンラインでやったり、ストーリー性のあるムービーを発信するラグジュアリーブランドが増えていることもあり、〈パルコ〉としても今年からポスターではなくムービーを中心とした広告制作に舵を切ったというが、そもそもなぜ彼女を起用するに至ったのだろうか。「ストーリー性のある映像の表現者としては、映画の監督をはじめいろいろなジャンルのアーティストの選択肢がありますが、その中でも特にタヌさんのクリエイティブが素晴らしかったという点と、もともとモデルやスタイリストとして活動されてたり、音楽や映像だけじゃなくてファッションとしてのバックグランドも兼ね備えられていたので、起用に至ったという形です。撮影の現場にも同行しましたが、タヌさんは本当にフレンドリーな方で、私たちクライアントに対してもそうですし、制作のスタッフだったり、出演者のダンサーの方たちに対してもすごい距離が近くて、友達みたいな感覚で接してるのがとても印象的でした」。お互いの距離が近い現場の和気藹々とした雰囲気は、新たな出発を祝うキャンペーンムービーに映し出された多幸感が物語ってるだろう。タヌ・ムイノとの取り組みは日本の企業としては初となるが、〈パルコ〉が見据える時代の流れや企業としての役割などを考慮すれば、今回彼女を起用したことは必然だったことのようにも思えてきた。カルチャーを通じてつながった人と人との間には、いつだってポジティブな空気が漂っている。新しい1歩を踏み出そうとする人々の背中を後押しする『NEW DEPARTURE』、それは新たなカルチャーが生まれる瞬間を予感させる。