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FASHION, INTERVIEW 2021.9.14

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Interview with Eiichiro Homma

余白に乗せる
自分らしさ

高機能マテリアルを日常着に落とし込む、今では定着したアーバンアウトドア。その中でも本格的なパフォーマンス性とファッションとしてのスタイルを併せもつ〈ナナミカ〉は、日本を起点に今や海外にも多くのファンをもつ。年代やカテゴリー、シーンや場所を超えて愛され、纏う人によってさまざまな表情を魅せるプロダクト。ブランドを率いる、本間永一郎氏の言葉と優しくも研ぎ澄まされた視線から、自由な海で模索する、ルールや規制に縛られることのない“自分らしさ”の在り方を、読み解いていく。

Photo Ko Tsuchiya
Edit&Text Shiori Nii

自分に対するリアリティ

 7つの海の家>七海家>nanamica。〈ナナミカ〉は、One Ocean, All Landsをタグラインに、世界はひとつの海で繋がっていると捉えて、国境や思想を越えて世界中の人々と繋がるという想いが込められたブランドだ。2004年に第1号店を代官山にオープンして以来、ザ・ノース・フェイスとコラボレーションした〈ザ・ノース・フェイス パープルレーベル〉を筆頭に、世界の様々なブランドやクリエーターと手を組みながら仲間を増やす。一方、オリジナルブランドの〈ナナミカ〉もその存在感を増している。
「ファッションの自我が芽生えはじめた時から、とにかく人とは違うことをしたいという気持ちがありました。次々に新しいものにホップして、マイノリティを求めていくような。それが、高校3年くらいの時ですかね、だんだんと、いわゆる自分っぽいものの方が大事だっていう風に少しづつ変わってきました。日本の社会的にも、90年代くらいから、それまでは大きなストリームに対してみんなが付いていく風潮から、自分らしさの追求へと変わってきた気がします。それって、人々がいろいろなことを経験し、その過程で自分の好みが定まって、自分らしさができてくるっていうことだと思うんです」。

 学生時代からスキーやサーフィンなどのスポーツに親しんできた本間氏は、その延長線上でキャリアにおいても長年マリンウェアやアウトドアウェアに携わり、さらなる魅力と可能性を見出し、仲間と共にブランドを立ち上げるに至った。「会社をはじめた時、売れるからというだけの理由でモノをつくるのはやめようというルールを自分に対してつくったんです。特に創業当時はいつ潰れてもおかしくないような状態でしたから、いくつかヒット商品が出た時は会社でも議論がうまれることもありましが、決めたんだからやめとこうって。ブランドをスタートして約20年が経ち、自分がリアルターゲットかどうかは別としても、家族や友人など、自分の大切な人に着てもらって嬉しいかどうかという意味でのリアリティは今でも大切にしています。ブランドのネットワークを形成する上で、自分たちがいいと思うかどうかは正直にしないと」。自分がつくりたいモノと、ビジネスとして成功するためにやるべきことが必ずしも一致するとは限らない。しかし、〈ナナミカ〉が創業以来変わらずこだわり続けている“自分が着たいかどうか”のシンプルな自問自答が、ブランドに1本の軸を通す。
「ファッションビジネスをやっているブランドは、洋服にフォーカスし、それが主役になってしまうような錯覚を起こすことがあります。でも私は、人間の人生は長いので、いろいろなことを経験して充実した人生を送った方がいいと思っています。その過程で、自分の好みを知り、スタイルが定まっていくものですから。そうすると、洋服は主役ではなく、人間が主役で、洋服は人間が人生を彩るための道具であれば良い。人生を奏でるさまざまなツールのひとつとして、〈ナナミカ〉の服を着てくださる方の人生を快適で格好良くサポートできれば嬉しいです」。

個性を生み出す“違い”

 リアルな感覚を追求された結果としてできあがる〈ナナミカ〉のアイテムは、カテゴリーや年代を超えて愛される。幅広い環境やそれぞれの快適さにフィットする柔軟性の理由は、クリエイションの基盤となるスポーツウエアの在り方と、ブランドの起点にある。「ブランド創業以来、私たちの土台にあるのは“ファッションとスポーツの高次元ミックス”。スポーツウエアは世代や性別関係なく多用する、ノーエイジ・ノーセックスの概念が根底にあります。だから、ベーシックな発想が根底にあるんです。そして、創業メンバーである3人が、もちろん気が合って一緒に会社をはじめたわけですから共通の価値観はあったのですが、一方で、それぞれが異なるフィールドで活躍していたこともあり、全然違うことを考えていて。それを許される範疇で、出来上がった結果が破綻しなければ否定はしないみたいなところが僕たちにはありました。中には、会社に自分のクローンをつくろうとする人もいるとは思うし、手数が増えやりやすいこともあるかもしれませんが、それだと自分の得意な範疇でしか物事は進まず、殻は破れなくなっちゃいますよね。それに対して僕たちは、自分と違うものをある程度受け入れて、成長していこうという考えをもっていたわけです」。ひとりの人間が決めた範囲内でつくりあげるのではなく、余白を残した基盤の上で、それぞれに異なる自分の色を表現する。“違い”を受け入れ楽しむこともまた、〈ナナミカ〉にとってのリアリティであり、さらに広い世界へと歩みを進めるためのキーとなる。

 セレクトショップとして、そしてハウスブランドとして。2つの顔をもつ〈ナナミカ〉は、組み合わせ次第で無限の広がりを見せる。「もともと揃えてデザインされた物ではない要素を組み合わせて、僕たちが提示するひとつの世界観を表現するという意識をずっともっています」と本間氏が語るように、その感覚は〈ナナミカ〉を構成する随所で反映されている。たとえば、代官山店で使っている何種類ものハンガーは、それぞれ形やデザインが異なる。さらには、店に立つスタッフにもその意識は通じている。〈ナナミカ〉のSNSを見ると、日本の5店舗、そしてNew York店と、ポストされるのはそれぞれのスタッフが思い思いにスタイルを組んで、着こなす〈ナナミカ〉のプロダクト。「店の子が、うちの服を『どのように着たらいいですか?』と聞いてきても『そんなの自分で考えろ』と言います笑。とにかくみんな違うんだから、全員違っていいじゃない、でもなんかこの人たちグループだよねと思えるまとまりを目指してきました。やはりここでも大切になってくるのは、自分たちが着たい服。そのリアリティは、モデルを使ったルックでは表現できませんね。基本の価値観の共有はもちろんですが、個性によって十人十色の着方があるわけですから。会社が大きくなると、マニュアルや役割分担を求める人も出てきますが、そのルールの範囲内で縮こまってしまうのではなく、ある程度広くとった的の中で各々が自由に自分らしさを表現してうまれたバラエティが〈ナナミカ〉にとって重要な要素になると思うんです」。ブランドの世界観を方向付けるルックも、作り始めたのはここ10年。特に、海外展示会3会場は、試着もしにくい狭いブースにくわえ、各国を3〜4日ずつで回るツアーなので、短時間でもある程度解ってもらうため。さらには、ルック通りの正解を求めるのではなく、それぞれの自分らしさを全開にアイテムを着こなして欲しいという意図があった。異なるものが、全体で見るとどこかバランスがとれ、ひとつのまとまりを成すのが〈ナナミカ〉。出来上がったフォーマットの中で表現するのではなく、広く開かれたステージで、それぞれの個性をそっと後押ししてくれるプロダクトとブランドの軸が、自分らしくいることを肯定してくれる。

それぞれのリアリティに寄り添い、さまざまな表情をもつことが可能な〈ナナミカ〉のプロダクト。21AWからは、Women’sのルックも公開された。もともと女性ファンも多くいた中で、女性の骨格に合わせたもの作りをすることで、さらなる快適とフィットを提供する。


 昨年の8月には、New Yorkのソーホー地区に海外1号店となるnanamica New Yorkをオープン。大統領選挙や新型コロナウイルスの影響を受けながらも、自然光が差し込む開かれた空間で、〈ナナミカ〉は新たなストーリーを紡ぎはじめた。 「もちろん、衣服に対する価値観が欧米と日本では異なることもありますが、私たちくらいの規模の会社では極端なローカライズはなかなか難しいということもあり、商品自体は今のところ変えていません。しかしやはり場所によって表現の見せ方が違ったり、ショップをハブにコミュニティができ、ローカライズされていくっていうのはあると思います」。文化や価値観が違う街で見るアイテムは、デザインや規格が同じであろうと一味違った表情を見せる。その土地によって自由に色付けられるのも〈ナナミカ〉らしさであり、新たな視点を取り入れることが、地図をさらに大きく広げるきっかけとなる。

「もともと私はアナログ思考で、服を買うなら触ってみたいし試着したいと思う。デジタルの流れや利便性はお客様のインターフェースとして整えていく必要があると思いますが、やはりオンラインだけでは「顔」が見えない対応にお客様がストレスを感じることもあるかもしれない。でもうちは、足を運んでくれれば、いつもお店には誰かいますから」。

建築家のTaichi Kuma氏との相談を重ね、都会の中の“海の家”をコンセプトにした店舗デザイン。開放的でリラックスした空間は、New Yorkの多様な人々と交わりながら、新たなカルチャーのハブとして機能を果たしていく。


自分たちのクリエイションを押し付けることは決してせずに、日常に少しの快適さや幸せを提供する。よりリアルな場所や感覚でそれぞれとリンクする、機能性やファッションが我々にもたらしてくれるのは、物質的な衣服としての役割だけでなく、自由に楽しむリアルな自分らしさ。自分にしかできないスタイルや着こなしができる〈ナナミカ〉の余白は、着る人が自ら舵をとり、さらに広大な海へそれぞれの船で進んでいくための道標を、そっと示してくれる。

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