GRIND

the Force the Force

INTERVIEW 2020.4.29

the Force

VISIONS AND PARADOX

華やかな舞台に潜む
泥臭さと創造性

きらびやかなイメージに満ちたファッションショーを中心に、ブランドのパーティーなどのプロデュース、空間のディレクションを手がけるヴィジョンズ アンド パラドックス。表舞台に照らし出されるブランドやその洋服とは違い、脚光をあびることが決して多くない彼らだが、国内外問わず名だたるデザイナーやブランドから、信頼を集めているのには理由がある。普段目にしない美しき舞台の裏側を、代表である籠谷友近さんの話を介して深く覗き込むことで見えてくる、本質とは。
※こちらはGRIND Vol.98に掲載した記事です。

Photo_Kazuma Seto, Yoko Tagawa(item)

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濃密な各工程

両サイドから関係者が食い入るように見つめるランウェイ。美しい洋服を纏って颯爽と歩いてくモデル。会場を彩る音楽や照明、そして目を引くステージ全体のかっこよさ。普段目にする機会は少ないにしても、ファッションショーの様子はファッション好きな人にとっては馴染みがあり、想像がしやすいものでないだろうか。現場で見れば純度はより高いが、画像や動画であっても見る人の心を揺さぶるのは事実だ。ヴィジョンズ アンド パラドックス、そして代表である籠谷さんは、まさに心を動かすショーを手がけている張本人。「デザイナーにブランドやシーズンのコレクションのコンセプト等を聞いて、具体的な日程、会場を決めていきます。その際に座席のレイアウトや照明プランを、会場のキャパシティなども考慮して考えます。そしてスタイリスト、ヘアメイク、選曲家を誰にするかといったスタッフィング、モデルのキャスティングやフィッティング、前日や当日の施工を経てショーが行われます。全てのプロットにおいて薄く平坦に進行することはなく、デザイナーやスタッフとのセッションに沿って修正し、日々さまざまなやり取りを積み重ねてショーができていきます」。会場選びというスタートの時点から、今まで使われていないような場所を探し出し、イメージを膨らませながら構成が動き出していく。当日を迎えるまでに、関わる全員が意見をぶつけ合いながら作り上げていくのだ。ここまではまだ大まかな全体像の把握に過ぎないが、各工程には、圧倒的な熱量と創造性が注ぎ込まれている。

籠谷さんの演出の特徴的な要素の1つが照明。会場やプランに沿った独自の照明のアイディアを提供していく。

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見えない部分を演出し
世界観を感じさせる

「人が見る部分、いわゆるセットやステージ、照明または音楽といった部分が素晴らしいというのは、当然のことだと思っています。ショーを通して、洋服をよく見せるためだけではなくて、ブランドとその洋服が持つ世界観をどう感じさせるか、洋服とブランドが持つ世界観に沿ったやり方で何倍にも見せるという点が1番大事だと意識しているので、見える部分へのこだわりを大前提とした、もう一個裏の見えない部分の佇まいやオーラを感じさせるための演出、プロデュースをしています。ファッションショーは会場に入った瞬間からスタートしていて、入った時のオーラというものが絶対的にあるんです。人が見えない、見えていなけれども感じる部分をデザインしたり、配置したり構成して伝えていく。明確にこれを伝えますということではなく、感じさせることが大切です。デザイナーをはじめ、全スタッフの意見がそれぞれに成立していて、全員のバランスが融合しないと作り上げることはできません」。私たちの目に入ってくるのは表面的な側面がほとんどで、過程や裏側のストーリーは削ぎ落とされてしまっているのだが、立ち現れた美しさやかっこよさに感覚が動かされる後ろ側には、彼らの信念がある。「例えば、会場には音響機材や照明機材があるのでどうしてもケーブルが走ってしまいます。そのケーブルがビシッと揃っているのとごちゃごちゃしているのでは全然違う。人間は意識していなくても感じている部分が絶対にあって、見えてなくても雑多なところが存在すれば、雰囲気的に雑多に感じるし、反して全体的に洗練された空間は見えないところに尋常じゃないこだわりがあります。そういう感覚がすごく好きだし、自分の中で大事にしていて。誰も見ていないところにこだわりを持つと、全体のオーラが全く変わります」。“神は細部に宿る”とは使い古された言い回しのように聞こえるが紛れも無い事実だと痛感させられる。ファッションという感覚的な世界で、ブランドの世界観や洋服を表現するという実態を掴みづらい仕事を紐解いていくと見えてくるのは、ひとつひとつの工程がリアルな作業の蓄積だということ。ブランドが洋服を通して表現するデザイナーの思考や創造性を、増幅させて発信するファッションショーの現場は、いわば音楽でいうところのライブのようなものだろうか。華やかに世間を魅了するステージの裏にはいつだって、途方もないストーリーがあり、そしてそのストーリーがあるからこその美しさなのだ。作る人のスタイルがプロダクトに表れ、着る人のスタイルが着こなしに表れるように、心を突き動かす現場には、作り上げる人たちのスタイルが滲み出ている。

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    「最終的に会場全体を染めるのは音楽」と籠谷さんがいうように、音響機器、選曲に関してもクオリティを追求する。

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余白としてのファッション

ショーやパーティーをプロデュースしていくという仕事柄、常にファッションと隣り合わせの場所に身を置く籠谷さんは、客観的に一定の距離を保ってファッションを捉えている。「仕事としてショーを作るとき、ファッションの部分だけ空白になっているんですよ、もちろんいい意味で。デザイナー、スタイリスト、ヘアメイクの方たちに完璧なものを出してもらうための余白がファッションなんです。デザイナーなどとかなり身近な距離感で仕事をするので、日々のすべてがすごく刺激的ですし、ファッションがそうさせていると思うと、ファッション自体が大きな力を持っていて、だからこそエキサイティングで終わりがないし、多くの人を魅了している。ただ魅了するものであると同時に翻弄されることもあるという光と闇を感じますね」。ファッションという環境のなかにいるからこそ意識する力。多くの人と関わりながらショーを作り上げ、見てきた正負両方の側面を、刺激と捉え自身のクリエイティブに還元しているのかもしれない。「この環境に身を置いているからこそ好きなものだし、逆に言えば凹凸のない世界では自分は絶対に生きていけないでしょう。フラットでドキドキしない生活とか全く興味がないので」。

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    ランウェイを実際に歩くモデルや、最終のリハーサルの様子。作り上げた空間に最後の色を添える、空間を通して演出するブランドの世界観と、空間のなかに最後に加わるエッセンスである洋服を纏ったモデルが相互に作用しあい、より良いものを作り上げていくのだろう。

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完璧がない舞台で
完成度を求めて

自身が身を置く環境を刺激的だと表現した籠谷さんにとって、毎回違うものを求められるということも、ポジティブな意味合いを持つ。「同じことは二度とやらないから、作っていてしんどそうとか、辛くないのかってよく言われるんですけど、そこが1番面白い。刹那的で残らない、変化させなくてはいけない、それでいて時代性も必要な部分が自分にぴったりなんです。自分もスタッフも、この仕事がめちゃくちゃ好きなので、他の人が過酷だと思うことも全く苦にならないですね。むしろハードルが高い方が燃えるし、難しい状況になったときは最終的にやばいのやってやるって」。好きだからこそ、プライドと情熱を惜しげなく注ぎ込み、妥協しない姿勢がより良いクオリティにつながっている。「究極的にいうと見てくれた人たちが良かったって言ってくれるより、一緒に作った人たちがすげえってアガってる時が一番良かったなと思う瞬間かもしれません。あらゆるスタッフを含めたチームが一体となったときのグルーヴ感、得体の知れないものが上がってくる感覚、その時は完成度がかなり高いと感じます」。完璧ということはなく、あくまで完成度の高さ。終わりの見えない追求がより一層籠谷さんを奮い立たせる。

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    今回インタビューに応じてくれた籠谷友近さん。

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    今回インタビューに応じてくれた籠谷友近さん。

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    仕事をする上で欠かせないアイテムとして、ブラックウィングの鉛筆、自社のオリジナルノート、全てのステージデザインはこの鉛筆とノートから。そして時間を計算できる機能がついたセイコーのストップウォッチ、ドイツのリヒターというメーカーのメジャー、天井高など長い距離を計測する際に用いるボッシュのレーザースケール。ステージ撮影用のCANNON M3。そしてショー音楽の最終確認用に用いる、バウワース アンド ウィルキンスのヘッドホンをあげてくれたが、ミニマルでありながらこだわりを感じさせる、籠谷さんならではのチョイス。

創造性と信念

大きなスケールのショーを作り上げているが、創造性の根底にあるのは意外なものだ。「街中には直線、曲線、丸、四角、いろんなフォルムが存在しているので、それを自分の中にピックアップして組み直すんです。個人的にモダニズムが好きなので、その雰囲気に落とし込んでみたり、色やフォルムを変えてみたりしながら、自分なりの表現をしていきます」。道路やビルの外壁、工事現場など普段生活するうえで意識しない日常の風景にイメージソースが溢れているという。そしてその創造性を形として作り上げていくことを可能にするのが信念。「諦めないこと。たとえば予算が合わないからとやめてしまうのは簡単です。でも一度考え直して提案する、アレンジを加える、現場でも最後の最後まで修正しながら、ミリ単位でこだわっていきます。最終的にはクライアントに提供するものであることと、我々のクオリティを信頼してもらって仕事をしているので、自分も途中で諦められたらすごく嫌だし、諦めないことで最終的に必ず良い結果が待っているものだと信じています。諦めずに何度もやって最終的にできない時もありますが、努力した結果としての最終形なら全員納得するし、自分もそう。大勢の人と何かを作り上げるときにはとても大切なことです」。洋服以外にもファッションはストーリーに満ちていて、感覚に突き刺さるものの背後には必ずと言っていいほど存在している。表面だけでなく裏側に想像力を働かせることで、ひとりひとりにとってのファッションの力を拡張させてくれるだろう。

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    自社のプロダクトの一部と、社内の様子。スウェットやパーカ、モデルの立ち位置などに貼るテープや、現場でつけるIDバッジ。スタッフが当日これを着て動くさまはさながら精鋭集団といったところだろうか。

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    自社のプロダクトの一部と、社内の様子。スウェットやパーカ、モデルの立ち位置などに貼るテープや、現場でつけるIDバッジ。スタッフが当日これを着て動くさまはさながら精鋭集団といったところだろうか。

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    自社のプロダクトの一部と、社内の様子。スウェットやパーカ、モデルの立ち位置などに貼るテープや、現場でつけるIDバッジ。スタッフが当日これを着て動くさまはさながら精鋭集団といったところだろうか。

自社のオフィスは白を基調としたデザインに、天井を一直線に走る照明や黒に塗られたパイプ、オリジナルで製作したダクトなど、強いこだわりが現れている。

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