MONTHLY / ONE STYLE from MUSIC VIDEO
Vol.01
Selector:Ryohei Matoba
日に日に映像の需要が高まる現代において、ミュージックビデオはその歴史も長い。音を聴くだけでは開かなかった世界が、視覚的情報をミックスすることで広がっていく感覚を体験したことはないだろうか。数分間に凝縮されたアーティストの世界観、ファッション、時代背景やメッセージ。最前線で活躍するクリエイターが厳選したMVと、それらの作品にインスパイアされたアイテムから、ファッションショーやSNSとは一味違う視点でスタイルのヒントを探る、新連載が始動。初回は、変動的にアートギャラリーも併設させるセレクトショップ〈offshore tokyo〉のマネージングディレクターの的場良平氏。
Photo Yoko Tagawa
Text & Edit Shiori Nii
Artist : David Bowie
Song title : Life On Mars / 1971
時代を超えて受け継ぐ
圧倒的な存在感
「やはりメインとしてお話したいのはデヴィッド・ボウイ。彼はまさに、アートと音楽、ファッションをイコールで繋いだ人物だと思います。この曲は、ボウイの全盛期と言える70年代に発表されたもので、彼自身を体現していると感じます。動画自体はシンプルで、特殊効果や凝った演出はしていないのに、彼の存在感だけですごいインパクトがある。同じ時代には、イギー・ポップやルー・リード、かたやビートルズのような後世に残るビッグなアーティストもたくさんいるのですが、ボウイだけは明らかにトリッキーで奇抜で。彼だから成り立つ、そんな強さをもった作品だと思うんです。デヴィッド ボウイって、もうヒーローじゃないですか。ヒーローズっていうアルバム出してるぐらいだし。現在、みんないろいろと苦しい状況下だと思うんですが、だからこそボウイみたいな存在を求めてるのかなって思います。彼の最大の魅力は、パフォーマンスもファッションもブレないこと。変化はし続けてるんですが、軸の部分がまったくブレない。永遠と影響を与え続ける彼が際立つこの映像は、今の若い世代が見ても、なにか感じるものはあるのかなって」。
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Artist : The Lemon Twigs
Song title : The One / 2020
独自の視点で切り取る
レジェンドのスタイル
「ロングアイランド出身の兄弟で結成されたザ・レモン・ツイッグス。新鋭バンドをどんどん発掘して最近さらに勢いを増したUKのレーベル、4ADからでたバンドです。曲だけ聴くと、カントリーとかバロック・ポップっぽいクラシックな要素があるのですが、映像を見ると「え、この人たちが歌ってんの?」って。曲調からは想像できない濃いメイクやケバケバしさのギャップに驚きました。ファッション的なスタイルは、ボウイやマーク・ボランの時代のグラムロックからめちゃくちゃ色濃く影響を受けてるんだと思います。ボウイとかを見たことない人も多くいる時代ですが、ザ・レモン・ツイッグスのようなファッションって、LABORATORY/BERBERJIN®の現場を彩る若いスタッフ達ともリンクするところがあって。ファッションやスタイルはやっぱり循環するんですね。でも二番煎じということではなく、彼らのように音楽性もファッションも、レジェンドたちの特色を程よくミックスさせながら、新しいものとして現代に届ける若い世代の姿に対して、リスペクトを感じます」。
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Artist : Starcrawler
Song title : Ants / 2017
オリジナルのDNAと
フラットな感性
「2015年にLAで誕生した4人組バンド、スタークローラーのデビュー曲“Ants”をピックしました。ライブ映像をカットアップしたものなのですが、その場の熱量が直球で伝わってくる。ぱっと見当時のバンドかと思うくらい、70's頃の影響をダイレクトに受けていますね。ただ音楽やカルチャーはいつも時代とリンクしてくるもので、そういった意味ではその頃の反骨精神や政府に対するカウンターカルチャー的なものは今の世代にはあまり感じなくて、もっと感覚的で、みんな楽しんでいるんじゃないですか。彼女たちを象徴する血まみれのパフォーマンスも、僕はファッションやスタイルとリンクしたアートだと思います。特に圧倒的なインパクトを放つリードボーカルのアローは、この時代のミューズ的な存在なのかなと。しかも彼女の両親は、大物の写真家とバンドマンだったりするんです。所謂2世といわれる世代の子達が、自身に刷り込まれたものを軸に、時代を切り開いていく。その過程で生まれたものを僕が今、40を手前に目にして聴けているのが、すげえ楽しめてるなって思いますね」。
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Item:Band T-shirts
巡るカルチャーに
乗せる付加価値
いつの時代も音楽とファッションの関係性は、切っても切り離せないもの。的場氏が服の世界に入るきっかけであり、その後のキャリアにおいても指針となっているのが、バンドTシャツだ。「好きなバンドをサポートする気持ちでユニフォーム的に着用することもあるだろうし、そのTシャツがきっかけで音を聴く人もいるだろうし。でも僕にとっては、やっぱりグラフィックが命。曲を知らなくても、ビジュアルがグッときたらそれだけで買いますね。そのように自由度が高いのがバンドTだと思うんです」。さらに自由度の観点からいくと、原価も何もないところから値段をつけていくという点でも、バンドTは“アート作品のようなもの”だと的場氏は言う。今回持参いただいたTシャツの中でも、豹のグラフィックが中央にあしらわれたものはシド・ヴィシャスなどが着用したことで有名なコレクターズアイテムで、現在は100万円以上の価値をもつ。「当時は3000円で売られていたものが、今は数十万で取引されることなんてざらにあります。みんなアンテナを張っていなかったものが、現在になって価値をもったり、新しい発見があったり。そのようにして、時間とともに付加価値を伴って受け継がれるところが、今回紹介したデヴィッド・ボウイを主軸とする2つの若いバンドたちの表現に通じるところかなと思います」。礎を築き上げた先人たちに対するリスペクトを胸に、時代感や感性を混ぜ込みながら自身のスタイルへと落とし込み着こなすバンドT。衣服としての意味合いだけでなく、手にした人の想いや時間を染み込ませながら循環していく在り方は、音楽だけでなく、ファッションやスタイルの継承にも通じる。「長い間ストリートは、ヒップホップが主流だったと思いますが、最近は音楽チャートとかを見てもロックの流れをすごく感じます。固定概念のない若い世代が、ヒップホップやロックなどいろいろなカルチャーを交えながら、自由に自身を表現していけば、なにか面白いものが生まれるんじゃないかってワクワクしています」。
PROFILE
的場 良平
伝説的ヴィンテージショップLABORATORY/BERBERJIN®のゼネラルマネージャーを務める傍ら、2017年に自身のセレクトショップ、offshore tokyoをオープン。服の世界に飛び込むきっかけだというほどにヴィンテージTシャツを愛する彼は、4年前に出版したニルヴァーナのTシャツBOOK『HELLOH?』に続き、“黒”のヴィンテージロックTシャツだけに絞って掲載するVINTAGE ROCK T BOOK!「Noirshirt」を8月7日に発売。
Instagram:@ryoheimatoba