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CULTURE, FASHION, INTERVIEW 2023.7.10

Moderーn

Interview with Akira Takamiya

人との出会いや関わりを
クリエイティブへと昇華する

〈モダーン〉という雑誌をご存じだろうか。DOVER STREET MARKET GINZAや代田橋の書店flotsambooksなどで取り扱いされ、アートやファッションに関心のある人なら一度は目にしたことがあるかもしれない。大胆にビジュアルがレイアウトされたアートブックのような佇まい、レコードのようにA面とB面に分けられた編集、参加アーティストによるオリジナルレコードの付録など、さまざまなカルチャーが交差し、見るだけでなく聴いて楽しむこともできる雑誌だ。発行人は高宮啓。彼はフリーランスの編集者としてもファッションを中心に多くのプロジェクトを手がけている。自身の媒体とクライアントワーク、双方に対するモノづくりのスタンスに迫ることで見えてきたのは、彼のクリエイションの根底を成すコミュニケーションのあり方。

Photo_Haruki Matsui
Text&Edit_Yuki Akiyama

間合いを近づける

 数年前にふらっと立ち寄ったDOVER STREET MARKET GINZA。マイクを持って歌うヨーガン・テラーのビジュアルのインパクトにつられて〈モダーン〉の1号目を手に取ったことを覚えている。発行人はフリーランスの編集者としてもファッションを中心に数多くのビッグプロジェクトを手掛ける高宮啓。昨年は北野武や村上虹郎などを起用したLOEWEとGR8によるキャンペーンビジュアルが大きな話題を集めた。もともと制作会社のエディターとして働いていた彼だが、だんだんと会社という枠にとらわれずにクリエイションの幅を広げたいという想いが募り独立を決意したという。現在は〈モダーン〉以外にもOK-RMがデザインを手掛ける〈レピクチャー〉という雑誌を自身の出版レーベルであるREPOR / TAGE(ルポルタージュ)から発行している。クライアントワークを中心としながらも、自身の媒体を掲げて表現を行う高宮に話を聞くことで見えてきたのは、さまざまな人との関わりや出会いを自身のクリエイションへと昇華していく姿勢。〈モダーン〉を発行するに至るまでにも、きっかけをくれたキーパーソンの存在があったようだ。「1号目に参加してくれたヨーガン・テラーとは以前に一緒に仕事をしたことがあって、また日本に撮影で行くから手伝ってくれないかって連絡をもらって。せっかくヨーガンが来るからってことで、普段から付き合いのあった写真家の塩田正幸さんにも声をかけて、3日間ぐらい一緒に行動しながら写真を撮ってたんですよ。それで塩田さんがそのときに撮った写真をまとめてフォトブックを3部だけつくったんですけど、それをヨーガンに見せたら、お前ら3冊だけとか嘘だろ、あのとき俺が撮り溜めてた写真もあるからそれと合わせて何か企画してくれよって言われて。そういった流れで1号目に掲載されている『YAKITORI TELLER』が生まれたんです。だから、先に構想があったというよりかは自然な流れではじまった感じでしたね。〈モダーン〉は完全に趣味です。自分が仕事をする中でたまたま出会った人たちと過ごした時間を束ねてつくった、いわば日記みたいなものですね」。

(上)1号目に掲載されたヨーガン・テラー本人のポートレート写真。彼が着用しているのはヴォルフガング・ティルマンスのTシャツであり、さりげなく2号目の伏線が張られているという裏話を明かしてくれた。
(下)3号目の付録として制作された大竹伸朗とEYヨによるユニットPUZZLE PUNKSの10インチアナログレコード。

 同じ時間を共有する仲間たちの間から生まれた『Moder—n no.1』。彼の身の周りで起こった出来事を記録するように、日常を編集する形ではじまった〈モダーン〉は、仕事を通じて出会った仲間と関わる中で自然と生み出されたものだった。2号目ではヴォルフガング・ティルマンス、そして3号目では大竹伸朗とEYヨによるユニットPUZZLE PUNKSを特集するなど、言わずと知れた大物アーティストたちが参加するこの雑誌は、新刊が発売される度に大きな話題を呼んでいる。高宮はこうした一流のクリエイターやアーティストと関わる中で、自らのスキルに磨きをかけてきた。「制作会社に勤めてた頃にPARCOの案件でM/M (Paris)とも一緒に仕事をしたんですけど、彼らのようなキャリアも長く国際的に活躍するクリエイターと一緒に仕事をするといろんなことを学べるんですよ。頻繁に連絡を取り合ったり、彼らのアトリエに行って直接コミュニケーションをとったりする中で、クリエイティブなモノづくりをする上での根本的な考え方とか、この基準で物事を考えるんだっていうのをまじまじと痛感したんです。中毒じゃないですけど、高い基準でクリエイティブと向き合ってる人たちとやっちゃうとやっぱりそれを続けたいじゃないですか。一緒じゃなかったとしても、なるべくその基準でモノづくりをしていきたいと思ってますね」。高い基準でクリエイティブと向き合う人たちと接する中で見えてきた彼らと自分とのギャップ。その間の距離を近づけるかのように高宮は自らに課すハードルを高めてきた。優れたカルチャーや芸術に触れることで感性は磨かれていくものだが、自分のスキルを高めるためにも、その道を究めた人の近くで仕事をすることが一番の近道なのかもしれない。

  • スライド

    M/M (Paris)、ヨーガン・テラーらと一緒にPARCOの広告ビジュアルを手がけた際に制作したレコードの形をした本。

  • スライド

    M/M (Paris)、ヨーガン・テラーらと一緒にPARCOの広告ビジュアルを手がけた際に制作したレコードの形をした本。

インタビューの最後に高宮は1枚のCDを手渡してくれた。仕事納めをしたら年賀状の代わりにMIX CDをつくるという習慣を働きはじめたときから毎年つづけているという。音楽制作を通して自分自身を見つめ直すことが彼のライフワークとなっているようだ。

 高宮はさまざまな人と関わりながらモノをつくり、自分のクリエイティビティを磨いてきた。彼のクリエイションは人とのコミュニケーションの上に成り立っているが、これは〈モダーン〉など自身の媒体におけるモノづくりに限ったことではなく、クライアントワークを手掛ける際のスタンスにも通ずる部分である。「クライアントワークでも〈モダーン〉や〈レピクチャー〉をつくるのと同じようなテンションで制作できるように努力をしてます。僕はアーティストに撮影を依頼することも多いんですけど、ぶっちゃけ広告向きではないというか、すごくキャッチーなわけではないし、マスではない。だからそこの理解を得るためにも、まずはクライアントの考えや気持ちをどうやって自分がやりたいことに近づけていくかという作業に一番の時間と労力をかけてますね」。ニッチなものをニッチで完結させずにマスへと波及させていくため、クライアントとのコミュニケーションを大切していると語る高宮だが、こうした表には見えない部分に対する努力があるからこそ、多くの人々の心を動かすクリエイションが生まれるのだろう。一流の人たちと自分との距離、クライアントと自分との距離。彼はその間合いを埋めるかのように自らのスキルを磨き、モノづくりと向き合ってきた。クリエイティブな仕事とは、協働によってなにかモノをつくる仕事であるとも言えるだろう。優れたクリエイションの背景には、常に人と人とが近い距離かつ同じ目線で対話するような健康的な関係が築かれている。他人の考えを柔軟に取り入れ、密にコミュニケーションを図る。高宮のクリエイションに対するスタンスに迫ることで、クリエイティブに限らず、クオリティの高い仕事をするために大切な姿勢に改めて気がつくことができた。

取材を終えた後、高宮は行きつけだという新宿のとある居酒屋へと案内してくれた。新宿は高校を卒業するまで彼が生まれ育った場所であり、この街特有のスピード感の早さは彼のルーツの1つになっているようだ。

Information

moderーn studio

moder-n.jp

REPOR / TAGE

repor-tage.com

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