CULTURE, FASHION, INTERVIEW 2023.1.4
MIN-NANO
Interview with Goro Nakatsugawa
カルチャーを俯瞰で捉え
楽しみの選択肢を増やす
世田谷区は池ノ上の住宅街に佇む〈MIN-NANO〉。世界中から厳選されたストリートブランドが顔を揃えるセレクトショップと、その向かいに店を構える自転車屋の2店舗から構成されており、異なるバックグラウンドをもった人々が行き交うコミュニティを形成する。オーナーのGoroは東京を拠点に広い視野でカルチャーの魅力を発信し、独自のセレクトや、彼が仕掛けるコラボレーションは常に注目の的となる。やりたいことを形にし、多くの支持を集める彼へのインタビューを通じて、生き方としてのスタイルを固めるためのヒントを探りたい。
Photo_Ryoma Kawakami
Edit&Text_Yuki Akiyama
1歩ずつコツコツと
池ノ上の駅から歩いて1〜2分ほど、住宅街の中に店舗を構える〈MIN-NANO〉。オーナーであるGoroはもともとインディーズ界隈では名を馳せるバンドのメンバーとして活動していたが、自営業をしながら音楽活動をする先輩たちの背中を見て、自分でもなにかをはじめたいという思いでお店をスタートさせた。現在は、ショップのバイイングから接客、自身のブランドのデザイン、外部のブランドのクリエイティブディレクションなど、さまざまな仕事をこなす。取材当日に店のドアを開けると、彼は海外に発送する商品の梱包作業をしていた。伝票を入力し、商品を包み、配達業者に荷物を渡すという地道な作業を1つ1つ丁寧に行っている姿がそこにはあった。彼との話を通じて見えてきたのは、できるところまでは1人でやるというスタンス。こうしたDIYの精神は、青春時代に触れてきた音楽のルーツとリンクする。「中学生とか高校生ぐらいのときからパンクやハードコアの音楽がすごく好きで、そのDIYカルチャーというか、基本的には自分でやるという精神性が根底に染み付いているんです。自分でやれば失敗しても自分のせいですし、なるべく人を介したくないという気持ちがあって。たとえばバンドでレコードをつくるとき、誰かにデザインしてもらうのではなく、とりあえず自分たちでできるんじゃないの?みたいな考えは、お店をはじめたときも基本的には変わっていないんです。もしなにかやりたいと思うことがあれば、とりあえずは自分でやってみる。そこでやらなきゃいけない努力は大したものでもないですし、自分でがんばってとりあえずやってみて、もしダメだったとしてもそれはそれで思い出だし。やらずに後悔するよりかは、やってみた方がいいんじゃないかなって思いますね」。世の中の状況や周りの環境が障壁となることは多く、好きなことをやりつづけることはそう簡単ではない。1人でなにかを成し遂げるためには、地道な努力を積み重ねる忍耐とすべての責任を背負う覚悟が必要だ。しかし、まずは1つだけでも自分でできることを増やしてみる。そうすることで、その先の道は大きくひらけてくることだろう。目の前のやるべきことと真摯に向き合い、コツコツと積み上げてきた過去があるからこそ、今の〈MIN-NANO〉の姿があるのだ。
彼のDIYの精神は、セレクトのラインナップからも感じ取ることができる。「洋服以外のカルチャーのバックグラウンドを強く感じられて、かつ自分が好きなものとリンクするブランドをセレクトするようにしてます。すべてに共通しているのは、インディペンデントに活動してたり、つくり手の顔が見えるような距離感にあるところですかね」。こうしたブランドのセレクトは、できるところまで自分で行うスタイルを貫く彼の姿と通ずる部分があり、店頭に立ってアイテムの魅力を直接お客さんに伝えているからこそ、多くの支持を集めるのだろう。取材で訪れたときには、〈ストレイラッツ〉、〈ルック スタジオ〉、〈キャッシュ オンリー〉、〈シーイー〉など、アメリカの西海岸から東海岸、オーストラリア、そして日本と、各国のストリートブランドがフラットに並べられ、自転車屋には〈パレス スケートボード〉と〈キャノンデール〉がコラボした1台が置かれていた。物理的な距離やジャンルの垣根を超えたカルチャーのつながりを提示する〈MIN-NANO〉。Goro独自の目線でセレクトされたアイテムやプロダクトに触れながら、彼とのコミュニケーションを通じて、広い視野から捉えたストリートの空気を肌で感じていただきたい。
店内に積まれていた海外に発送するための段ボール。〈MIN-NANO〉オリジナルのテープで丁寧に梱包された荷物には、お客さんへの感謝や想いが込められ、どんな相手とも真摯に向き合ってコミュニケーションを取るGoroの人柄が感じられる。
彼がショップのオーナーとして大切にしているのは、セレクトを通じてカルチャーの楽しみ方に選択肢を与えるということ。コロナによるパンデミックをきっかけに、こうした想いはより強くなっている。「個人的にはコロナによるパンデミック以降、海外と日本のシーンがすごく分断してしまったと感じていて。なんというか、日本はドメスティックな印象を強く受けるんですよ。実際、リアルに人の行き来ができなくなって、フィジカルで感じられる機会が減ってしまったから、もう外の文化は必要ないのかなみたいな寂しさや違和感を感じるときは正直ありますね。だからこそ、楽しみ方のひとつとして、Tシャツのようになんてことのないものでも特別なものになるかもしれないよっていうところで、サブカルチャーやファッションの楽しさとか、海外のモノを積極的に紹介していきたいという想いは根底にありますね。海外のモノの方が優れてるとかじゃなくて、両方あったらもっと楽しいよってことを伝えていきたいです」。Goroは日本と海外の架け橋としての立場を意識しながら、新しい発見をもたらすために、自分なりにできることを模索し貫き通す。有名無名問わず、確かな審美眼をもって海外の文化を積極的に発信する彼のような存在は、日本のストリートシーンのさらなる発展に重要な役割を担うと同時に、新たなカルチャーを知ることで視野が広がることの楽しさを改めて気付かせてくれる。