GRIND

HARD-SHELL® HARD-SHELL®

CULTURE, INTERVIEW 2023.7.21

HARD-SHELL®

INTERVIEW with Joshua P. Matthews

ツールボックスに見出した
フリーダムとモビリティー

シェルパーカーを中心とした108点の〈アークテリクス〉のプロダクトが掲載された写真集『HARD-SHELL®』。これはブランド側が制作したアーカイブ本ではなく、ニューヨークのとあるサイクリストの私的コレクションを集めた1冊である。その名も“ブラック・ザッカーバーグ”こと、ジョシュア・P・マシューズ。彼は地下鉄に乗らないことを決めてから自転車で移動する生活をはじめ、次第に〈アークテリクス〉のプロダクトが手元に増えていき、2022年に自身のツールボックスを本に綴じることを決意した。ジョシュア・P・マシューズとは一体何者か。『HARD-SHELL®』の制作背景に目を向けることで、彼のスタイルの輪郭が浮かび上がってきた。

Photo_Ryoma Kawakami
Translation_Ryo Kumazaki
Edit&Text_Yuki Akiyama

自分らしく生きるための選択

 〈アークテリクス〉のプロダクトとともにニューヨークの街を走るサイクリスト、ジョシュア・P・マシューズ。ツールボックスと呼ばれる彼のコレクションを集めた写真集『HARD-SHELL®』は、2022年の4月にアメリカで500部限定で発売され、今では〈アークテリクス〉の直営店でイベントを開催するまで、その注目度は高まっている。個人的な趣味の延長としてスタートしたプロジェクトがブランド側から公式に認められるまで至ったことは、まさにアメリカンドリームを見ているかのようだ。しかし、『HARD-SHELL®』の認知は広がってきている一方で、張本人であるジョシュア自身については、“ブラック・ザッカーバーグ”と名付けられたInstagramのアカウントから発信される情報のみであり、まだまだ謎に包まれている。5月某日、〈アークテリクス〉の丸の内ブランドストアにて、北米以外では初となるジョシュアのトークイベントが開催されると聞きつけ、GRINDではインタビュー取材を敢行した。彼のスタイルに迫るべく、『HARD-SHELL®』をつくるに至った経緯について尋ねてみると、まずは彼の生活が大きく変わることとなった2008年の出来事について話してくれた。「僕はニューヨークに住んでいて、マンハッタンとブルックリンを結ぶLラインという地下鉄によく乗っていたんだけど、とにかくサービスが悪かった。電車は止まるし、時間通りに来ないし、そういうことが頻繁にあったんだ。それがあまりにも不便に感じていたということもあるけど、何より電車が動かないからみんながイライラしてるし、そこに閉じ込められているっていうことに耐えられなかったんだ。嫌でも周りの負の感情をシェアしなければいけなかったからね。電車に乗ることで自分のマインドセットが囚われてしまうのが嫌で、2008年にもう地下鉄に乗ることを辞めたんだ。羊のようにみんなと一緒の方向に動いていくよりかは、自分は進みたい方向に自由に動き回っていたいという想いが強いんだ。僕はウルフだからね」。

トークショーの様子。長年の友人であり『HARD-SHELL®』のデザインを手がけた日本人デザイナーのリョウ・クマザキとともに、今まで明かされてこなかった制作秘話について語っていた。

  • スライド

    会場となった〈アークテリクス〉の丸の内ブランドストアの店内には、『HARD-SHELL®』に掲載されているジャケットがインスタレーションとして飾られていた。1着1着に深い思い入れがあると語るジョシュア。“shit don't stop”は彼を象徴する言葉だ。

  • スライド

    会場となった〈アークテリクス〉の丸の内ブランドストアの店内には、『HARD-SHELL®』に掲載されているジャケットがインスタレーションとして飾られていた。1着1着に深い思い入れがあると語るジョシュア。“shit don't stop”は彼を象徴する言葉だ。

  • スライド

    会場となった〈アークテリクス〉の丸の内ブランドストアの店内には、『HARD-SHELL®』に掲載されているジャケットがインスタレーションとして飾られていた。1着1着に深い思い入れがあると語るジョシュア。“shit don't stop”は彼を象徴する言葉だ。

 自由を求めて地下鉄に乗ることを止め、自転車で移動する生活をはじめたジョシュアは、友人からもらった1着のジャケットをきっかけに、次第に〈アークテリクス〉のプロダクトが手元に増えていく。集めていたというよりも、さまざまなシーンで自転車を乗るために必要なモノを揃えていたら自然と集まってしまったと彼は語る。『HARD-SHELL®』をつくるまでには、旧知の仲であり、この本のデザインも担当している日本人デザイナーのリョウ・クマザキの存在が大きかったようだが、ジョシュアは最初から自身のツールボックスを本に綴じることについては前向きではなかったという。「僕の家にリョウを招いて自分のツールボックスを見せたとき、これは1冊本をつくるべきだと彼が言ってきたんだ。でも正直最初はあまりピンと来なかった。アパレルの本なんて世の中にたくさんあるし、今さらつくる意味なんてあるのか?って感じだった。でも具体的に話を進めてく中で、これは単なるプロダクトをまとめた本ではなくて、“移動することの自由”をテーマにした本にしようと決めたんだ。パンデミックがはじまって変化を余儀なくされる状況の中で、多くの人々にとって移動することの自由が奪われてしまった。だからこそ、今フリーダムやモビリティーをテーマに本をつくることに意味があるんじゃないかと思うようになったんだ」。単にプロダクトのアーカイブをまとめた本ではなく、サイクリストである彼だから伝えられる説得力のあるメッセージが込められているからこそ、この本には多くの人々の心を突き動かすようなパワーが宿るのだろう。『HARD-SHELL®』は、何にも縛られない自由な生き方を我々に示している。

ジョシュアはCOMMA™️という会社を立ち上げ、『HARD-SHELL®』の出版をはじめ、Tシャツやキャップなどのアイテムを制作している。「COMMA™️はブランドじゃない。“multidisciplinary company"だ。モノをつくることも、映像を制作して発表することも、僕にとって全てがクリエイションであり、ビジネスなんだ。」

ジョシュアに今後の展望について聞いてみると、「世界を乗っ取るように靴下の事業を拡大させていきたい」と大きな野望を語ってくれた。

 「パンデミックがはじまってから、自転車の需要がすごく増えたよね。ニューヨークとかだと売り切れになるお店があったりして。それって思うに、パンデミックという状況で家に閉じ込められたとき、多くの人々が自転車に乗ることで自由を感じたかったからじゃないかなと。自転車は移動することの自由を与えてくれる。自転車に乗っている時は自分自身の内面とつながっているような感覚になるし、自分らしくいることができるんだ。シェルジャケットも同じだよ。例えば雨が降っていたりすると今日は自転車に乗れないなとか、外に出るのは止めておこうとか思いがちかもしれないけど、ゴアテックスのジャケットを着れば、雨の日に諦めていた場所にも行けるようになる。シェルジャケットが自由を与えてくれるんだ。そこが面白いところなんだよ」。地下鉄に乗るのを止めたこと、自転車に乗ること、シェルジャケットを纏うこと、『HARD-SHELL®』をつくること。ジョシュアにとって、これら全ては自分らしく生きるための選択だった。こうした選択の連続によって現在の彼のスタイルは確立されたのだ。何にも縛られず自由に生きていきたいという想いは、誰しも少なからずはもっているだろう。それを実現するためには多くの障壁があるのが現実ではあるが、彼のように身近なところから1つずつ選択を変えていくことで、目の前の景色はだんだんと変わってくるに違いない。

Information

Joshua P. Matthews / COMMA™️

@black_zuckerberg

@its_comma

itscomma.com

ARC'TERYX

arcteryx.jp

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