FASHIONの力
Vol 28 GLOBERIDE
『森を守る、その先に』
釣具のブランドとして世界的に支持を集めるDAIWAや、そこから派生したファッションラインのDAIWA PIER39など、レジャースポーツ用品の製造販売を行う〈グローブライド〉。プロダクトの生産やブランドの運営などに加えて、自然環境に対する活動も、この企業にとって重要な役割をもつ。“自然環境を守る”という、耳馴染みのある表現の実態は、どのようなものなのか。そして我々の生活や、ファッションのシーンに通ずる何かは見出せるのだろうか。〈グローブライド〉が2005年より、長野県森林(もり)の里親制度を介してサポートを続けている、長野県須坂市の仁礼の森を管理する仁礼会への取材から、その一端を探る。
Photo Haruki Matsui
Edit & Text Shuhei Kawada
時間をかけた営みは
誰のためか
アウトドアやスポーツのシーンから派生し、ファッションにおいても徐々にその存在感が強くなってきている〈グローブライド〉。彼らが企業として大切にしている自然との関わり方やその姿勢は、パフォーマンスとしてのサスティナビリティとは一線を画す。いきなり森の保護の話をしても唐突な気もするので、まずはなぜ〈グローブライド〉が仁礼の森での活動をはじめるに至ったのか。そしてその活動の目的とはどのようなものなのか。〈グローブライド〉広報室長補佐の吉川隆に話を聞いた。「この仁礼の森を支援するようになる以前から、その地域にはテニスや自転車のイベントで何十年もお世話になっていました。ある時長野県の試みとして森林(もり)の里親制度が新たに制定されることを伺って、〈グローブライド〉も参加することになりました。当初は森を守るという真の意味を深く理解しきれず、でもなんとなくいいことではあるだろうという空気からはじまったのも事実ですが、時間が経つにつれてグリーンカーボンという言葉が出てきて、二酸化炭素の吸収量を測る仕組みができたり、結果的に時代がついてきたような気がしています」。現在のように環境問題に対する考え方や取り組みが一般的になる以前から、〈グローブライド〉ではこうした活動のサポートを行ってきた。では森を守るとは、一体。「基本的に森を育てるといっても、木の種類によって、30年から70年くらいかかります。現在日本は国土の3分の2が森林と言われていますが、戦後は空襲だったり戦時中の燃料に用いられたりしていたため、ほぼ丸裸の状態だったんです。復興のために早く育つ杉やヒノキが植えられて、それを育てては切って売って、また育ててということを繰り返してきました。しかし海外から輸入木材が入ってくるようになると、商売として成り立たなくなってしまって、今では日本各地で森が荒廃してきているんです」。手付かずの森が増えると、地滑りなどあらゆるリスクが増えて、生態系への影響も大きいのだと言う。そしてそれは森に限った話ではなく、海にまで影響を及ぼしているのだ。DAIWAに代表されるように、海との繋がりも強い企業であるからこそ、森を守ることは大きな意義をもつ。「僕らが森を支える理由は、森の土に含まれる栄養素が、海まで影響するからというのもあります。腐葉土がないと、最終的には海の食物連鎖も止まってしまうんです。森がなくなっていくと、最終的には海も枯れていってしまいます。既に日本の沿岸部では磯焼けと言って、昆布などの海藻類が生息する場がどんどんなくなってきています。それだけが直接的な原因ではないですが、実際に森が荒れることで、メカニズムが狂ってしまったことは事実でしょう」。自然環境の話だと規模が大きすぎて、自分たちのこととして想像しづらいという面もあるだろう。しかしいきなり高度な理解を必要とすることではないのかもしれない。まずはこうした諸問題が実際に起きているという事実を知ること、そして少しでも関心をもつこと、そして理想を言えば関わることで、物事は多少なりとも良い方向に向かっていくだろう。すぐに解決することではないし、明日大きな被害が発生するとも限らないし、自分自身に降り掛からないかもしれない。それでもまずは目を向けることと、長いスパンで物事を捉えることは、人生における豊かさを考えることにもつながるはずだ。
感性に働きかける場所
そして我々は実際に都内から2時間程度の距離にある長野県須坂市、仁礼の森へと足を運んだ。とはいえ1700ヘクタールという莫大な面積を有するため、実際に足を踏み入れたのはごく一部だが、圧倒的な自然のスケールを前に、管理していくことの難しさも意識させられた。仁礼会ではどのようにしてこの自然と向き合っているのか。「仁礼会は今年で54年目になる組織です。当時、山を放置していると土地が国のものになってしまうということがあり、そうなると自分たちで何もできなくなってしまうので、地域の人々で協力しながら山を管理しようとなったのが仁礼会のはじまりです。もとを辿れば、200年くらい前からこの山を水源にして、下の方にある田んぼや畑に水が行き渡るのですが、それを管理していたという歴史があるんです。その後ゴルフ場やペンション、スキー場をつくってお金が回る仕組みをつくりながら現在まで続いてきました。50年以上も前から、土地を管理しながらお金を生んで、そしてまた地域に還元するというビジョンを描いていたわけですね」。リゾート地としての開発を経て、そうした施設のオフシーズンの活用なども試行錯誤しながら、環境を守ることと、人の流れを誘致することの両立を目指している。近年では、周辺地域との協業や郷土文化の再興など、自然環境をベースにしながら地域全体の発展に注力している。同時にこの場所を守り、そして発展させていく担い手が不足しているという問題も抱えている。「この場所を使いたいと主体的に動いてくれる人たちが増えると、もっと良くなると思っています。いきなり“やってみろ”ってプレッシャーをかけてできる仕事じゃないので、私たちのこの気持ちを次の世代に繋げていくにはどうすればいいんだろうかとすごく悩んでいるんです」。森を守る行為は途方もない苦労がかかる。それでいて利益としてはすぐには割に合わないという現実が付きまとうだろう。もっと言えば、自分たちの世代で回収を考えると言うよりは、先の世代に向けた投資のようなものだ。予測不能で、結果も見えづらいが、それが森を守るということでもある。そしてその価値を失って気づくのはあまりにも損失が大きい。今当たり前にそこにある景色は、必ずしも永続的なものではない。人が守っていく責任があるのだ。「今日もその場所についたときに、みなさんが口々に“気持ちいいね”って言ってたじゃないですか。それこそが一番のアピールポイントだと思ってるんです。森を守ると言っても、変に自分たちが手を加えて、つくったものにする必要はないんです。ひとりひとりが、それぞれの想いで何かを感じてほしいんです。別に取り立てて何かがあるわけじゃないけど、須坂の仁礼に行ってみたいと思わせるような整備をしていきたいんですよ。人の感性に応えたいですし、何かを感じさせるような場所であってほしいですね。明確な答えはないけど、いい場所ってそういうことなんだなと思ってます」。わからないことや、答えがないということを許容する態度。自然と向き合うということは、そもそも思い通りに何かを動かせるという前提が通用しないもの。そんな当たり前のことを、つい忘れてしまう。それでいて、自分たちのエゴではなく、自然を自然のまま育むための手助けを仁礼会は行っている。その上で、そこから派生する周辺の設備や環境を整えながら、うまく人の流れもつくろうという試みを続けている。長い歴史の中で、自然と共にある土地だからこそ、過剰な開発や一過性の利益に執着しない。委ねる部分と関わる部分を見極めながら、歩みを進めていく姿勢にこそ、本質的な自然環境との向き合い方が見えてくる。
同様の構造
今回ファッションの力という連載において、このテーマを扱ったことには理由がある。もちろん〈グローブライド〉がファッションとの親和性もある中で、こうした自然環境に対する活動をしていることを多くの人に知ってもらいたいという想いもあったが、同時に取材を通して、多くの場面でファッションのシーンにおいても、同様の構造があるように思えたのだ。森も然り、海も然り、自然環境を短いサイクルで、人間の利益のためだけに利用していくとどうなるのかということを、今を生きる我々の世代は考えていく必要がある。そして、その弊害は我々の世代に限った話ではなく、この先にもっと顕著に現れる可能性だってある。楽観的に、何も取り組まずにいつか良くなるでしょうと言えるような状況ではないことは、多くの人が認識しているはずだ。だからこそ〈グローブライド〉や仁礼会の活動には、大きな意義があるし、参考にできる姿勢や考え方が必ずある。同時にファッションやカルチャーを取り巻く環境に想いを巡らせてみるとどうだろう。自然環境が抱えてる問題と、同じような問題点を抱えていると言えるのではないだろうか。一過性の影響力や短期的な数字ばかりを追い求めたり、自分たちのテリトリーだけを守る術を選んだり。マクロが自然環境であれば、私たちが仕事する中に、日々の生活の中に、スケールは違えど似たような構造をもつ問題が潜んでいるように思えた。しかし綺麗事を並べて、大切だからというだけでは、なかなか持続させていくことが難しく、しっかりと金銭的に回るシステムを構築することも同時に求められる。自然環境に限らず、手がかかるし、時間もかかる。すぐに結果も出なければ当たる確証もない。答えもない。でも感覚知で大切だと思えることは、いくつか思い浮かぶだろう。そんな物事を追求する人々があらゆる分野で生まれてくることが、その分野の土壌を育み、本当の豊かさにつながっていく。答えはないからこそ、そう信じて続ける他ない。
