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F/CE. F/CE.

CULTURE, FASHION 2023.10.31

F/CE.

視点は遠くに
地に足つけて

毎シーズンデザイナー自身が実際に旅して選んだ一つの国をテーマに、その国のカルチャーを取り入れたコレクションを展開する〈F/CE.〉。ストリートにもテックウエアが広く浸透し、似たようなものも増えているなか、当初からスペックを重視した、街でも山でも着用できる道具として完成度の高いプロダクトをつくり続けている。先日、ブランドとして2店舗目となる旗艦店が大阪の梅田にオープンすると聞いて、デザイナーの山根敏史に話を伺った。そこから見えてきたのは、世界に目を向けたブランドの変わらないものづくりへの姿勢。

Photo_Yudai Enmei
Edit&Text_Fuka Yoshizawa

未来を見据えた現在地

 機能性に特化したアパレルウエアと聞くと、どうしてもアウトドアファッションにカテゴライズされやすい。しかし〈F/CE.〉は、プロダクトの性能を大々的にうたうことはしない。「洋服は実用的でないといけない」という考えをベースに、デザイナーの山根が旅した国々で見てきたものや各国のデザイン哲学などをレディートゥウェアに落とし込む。ただ実用的なのではなく、さまざまなテクニックが加わった日常に寄り添うプロダクト。そんな独自の路線で着実に歩んできたブランドは、設立から10年以上経ち今年新たに大阪に路面店をオープンさせた。何でも指先一つでものが手に入る今、このタイミングでお店をオープンすることを決めた理由にも、ブランドとしてのこれからを見据えたものがあった。「きっかけは、コロナを経て改めてお客さまと直接コミュニケーションをとることの重要性を感じたことです。僕たちがやっている、国をテーマにするコレクションって、お客さまからしたらすごくわかりづらいことなんですよね。言葉やアイテムだけだとなかなか伝わりきらないものをわかりやすく表現できて、かつブランドの世界観をもっと広めていきたいと思い、お店をつくることを決めました」。

大きな窓から自然光が差し込む店内は、長年使われてきたであろう無骨なコンクリートに温かみのある木材や什器スチールのパネルなどが並べられている。一見相反するものが混在しているようにも思えるが、ここにブランドのアイデンティティが映し出されている。

 新店舗は、代官山の旗艦店ともまた違う、落ち着きがあり洗練された雰囲気を感じる。アイテムの魅力はもちろん、ブランドの世界観を伝えることを軸とするからこそ、内装には山根のこだわりが詰まっていた。「内装はいつも、僕がやっているバンド『toe』のメンバーでもある内装デザイナーの山嵜廣和さんにお願いしていますが、今回も多くは伝えずとも、僕の考えを彼なりに落とし込んでくれました。お店をつくるにあたって参考にしたのは、僕らが海外で見てきたものや感じたことを語るうえで欠かせない、海外の建築やデザイン哲学です。たとえばバウハウスのようなモダニズム建築や、光を取り入れたデザイン哲学。そういう要素に、古いものや自然を感じられるもの、環境に配慮されている素材がミックスされた空間が、僕にとって理想のお店の姿であり、ブランドが掲げているアイデンティティにフィットしていると思いました。ただこれだけだと直接的でないというか、もっと具体的に表現する手段として、壁面に本を置くことにしました。僕自身本が大好きで、実際にカントリートリップの際に現地で購入した本からのインスピレーションもたくさんあります。本と一緒に洋服を見せてブランドのテーマを表現できたらと考えていたので、ご縁があった恵比寿のアートブックショップPOSTさんに、シーズンテーマに沿った選書をお願いしました。僕だけの知見だと絶対に辿りつけないような建築やデザインの専門書やカルチャーの本など、こだわりのセレクションになっています。今は、23AWのテーマであるデンマークと23SSのテーマだったドイツのものだけを置いていますが、シーズンごとに増やしていき、ゆくゆくはこの壁面を本屋さんのような見せ方にできればと思っています」。そう言って並べられた本を手にとる山根からは、建築やデザインといったさまざまなカルチャーに興味を示し、それを純粋に楽しむ様子が伺えた。ブランドのアイデンティティを、そして山根自身が常に考えていることをひとつの箱として視覚的に表現した新店舗。この場所を起点に、今後はどのように舵を切っていくのだろうか。

店内の一角に設けられた「POST」による選書コーナー。洋書をメインに新本から古書まで、幅広いジャンルでセレクトされている。もちろん購入も可能。 

コミュニケーションを
デザインする

 昨今、キャンプや登山といったアウトドアが注目され、機能性に特化したアイテムを展開するファッションブランドも増えてきた。同時に環境に配慮したサスティナブルな考えも、もはや当たり前になっている。当初から両方の取り組みを続けている〈F/CE.〉はこの流れをどう受け止めているのだろう。「やっていることはずっと変わっていないけど、時代が環境とか機能面に関心が向いている感覚はありますね。どんな国をテーマにしていても、結局は実用性の部分に行き着いてしまうから特に意識はしていなくて。僕たちのものづくりを続けていくだけだけど、アプローチの方法は変えていこうと思っています。設立当初から海外卸はしているのですが、最近イギリスに〈F/CE.〉の子会社を立ち上げたので、まずは3年後にイギリスにお店をつくること、そして海外卸の流通を確立させることを目標に動いています。いつか海外でプレゼンテーションをできたりしたら、ブランドとして一歩前進する時なのかな。現状のプレゼンテーションの場は、直接お客さまとコミュニケーションをとれるこのお店だと思っています。今シーズンのテーマのデンマークって、街全体がパッシブデザイン※1やソーシャルデザイン※2といったコミュニティありきのデザイン哲学なんです。お店をつくる時にも参考にした、環境や自然を大切にしたこの考え方は、ブランドのあり方にも共通するなと思っていて。これからも僕らの身の丈にあったやり方で、お客さまと価値を共有しコミュニケーションを深くとっていけたらと思います」。これまで築き上げてきたアイデンティティを、今度は世界に広げていく。そのためにユーザーとのコミュニケーションの場を大切にするという姿勢は、ブランドの今後の方向性を示唆しているように思う。そして、ブランドの現在地となるこの新店舗を軸に、〈F/CE.〉はこれからも自分たちらしく一歩一歩積み重ねていくだろう。

Information

F/CE. Flagship Store Osaka

@fce_flagshipstore
fce.tools
06-6690-8388

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