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Diesel Diesel

CULTURE, FASHION 2021.8.3

Diesel

Interview with Glenn Martens

名門の革新を担う
実力者の手腕

2020年10月に〈Diesel〉のクリエイティブ・ディレクターに就任したグレン・マーティンス。2013年より 〈Y-Project〉のクリエイティブ・ディレクターとしても手腕を発揮している彼の新たな物語が〈Diesel〉とともに動き出した。22SSミラノファッションウィーク・メンズコレクションにて発表された動画に落とし込まれた洋服とそのクリエイションの方向性。その狙いと真意、今後のビジョンをグレンの言葉から紐解いていく。

Edit&Text Shuhei Kawada

背景への理解と
実験的なアプローチ

1978年にレンツォ・ロッソによってイタリアにて創立された〈ディーゼル〉。デニムを中心にアパレルからホームコレクションに至るまでの幅広いプロダクトを手がける世界的なブランドとしてその名を知らしめている。比較的カジュアルでマスなイメージも強いが、昨年10月にクリエイティブディレクターに就任したグレン・マーティンスは、すでに十分なほどに成長を遂げてきた名門への新鮮な息吹となり得るのだろうか。実験的なデザインでキャリアを築いてきた実力者のデビューコレクションとなった2022SSコレクションは、引き続きデジタル上でプレゼンテーションとなったが、そこで発表された動画は多く注がれた期待の眼差しを納得させ、両者の融合の意義を強く感じさせた。

  • スライド

    動画の撮影の裏側を収めたカットの数々からは、現実と非現実の間をさまようような空気感が。「他のブランドではつくれない一風変わった動画にしたかった」とグレンは語った。

  • スライド

    動画の撮影の裏側を収めたカットの数々からは、現実と非現実の間をさまようような空気感が。「他のブランドではつくれない一風変わった動画にしたかった」とグレンは語った。

  • スライド

    動画の撮影の裏側を収めたカットの数々からは、現実と非現実の間をさまようような空気感が。「他のブランドではつくれない一風変わった動画にしたかった」とグレンは語った。

今回の就任について「とても興奮しているし、誇りに感じている」とグレンが言うように、ブランドへの理解とリスペクトをベースに、自分のスタイルを存分に反映させるというアプローチがすでに表現されているのではないだろうか。「〈ディーゼル〉は40年以上もの間素晴らしい功績を残し続けてきた大きな会社であり、今なお成長し、ますます強いブランドになっています。私はものすごい速さで進む列車に乗り込んだようなもので、まずはここまでのビジネスについて理解するための時間が必要でした。そしてもちろん現在、さらには未来に向けて私たちがどのようにブランドの価値を定義していくのかを考える必要もあるのです。〈ディーゼル〉は主にカジュアルウエアを扱う大衆的なブランドとして有名ですが、私が培ってきたノウハウやリサーチ、実験的なアイディアをベースにして、コンセプチュアルに表現できる可能性も十分にあるのではないでしょうか。私は非常に実験的なアプローチで知られていますが、そのアプローチは〈ディーゼル〉との取り組みにおいては、表面的な部分だけでなく、ウォッシュや素材の加工、色使いやグラフィックの組み合わせにも反映されていくのです」。自分のスタイルを客観的に捉え、ブランドの特性や技術を理解した上で相互に引き立てあっていく。先の動画のコンセプトにおいてはその実験的なアプローチが可視化されている。「この映像は現実と夢の境界線を曖昧にしているのです。深夜の家でのシーンからはじまり都会の街並みへ、そしてエレベーターに乗ってるシーンと続きます。最後は真紅のフィルターがかかったトリッピーで異質な部屋で締め括られ、4つの異なるフェーズにおける主人公の変化と進化を示しているのです。実はこれは新たなリアリティに足を踏み入れようとする、混乱が続く今の世界を映し出す序章に過ぎないのです」。動画で示した、この混迷極まる現代の先にある新たな時代の到来は、世相を映すだけでなく〈ディーゼル〉とグレンの未来に向けた幕開けを予感させるものとなった。

グレンの洋服へのアプローチがわかりやすく反映されたディテールの数々。デニムという素材ひとつをとっても、色の濃淡、シルエット、加工などによって異なる表情を描き出している。ブランドが歴史の中で培ってきたノウハウと、グレンの解釈が早速合わさり、両者の相性の良さが一目で伝わってくる。

パンツにおいては、デニムがキーアイテムであることはもちろんだが、シンプルなものだけでなく、ジップによってレイヤーのように見えるものから、レザーパンツなど表現の幅広さを窺わせる。

未来に向けた
責任ある創造

実は〈ディーゼル〉とグレンの結び付きは、彼のファッションの原体験にまで遡る。「16歳の時、はじめて意志をもって買ったのが〈ディーゼル〉のプロダクトでした。他のブランドでは経験したことのない気持ちで、そのデニムをすごく欲しいと思っていたのを覚えています」。その後2018年にDiesel Red Tagというコラボプロジェクトにて、ゲストデザイナーを務めるなど、ブランドとの関係性を育んできた。そしてこの世界的なブランドとの取り組みは彼自身の課題も明確にした。「ブランドの認知も流通も世界的な規模で、さらには社会的な貢献も果たしています。単に美しい服をつくるだけではないのです。現在の私の最大の課題は、多様な人々に語りかける責任があると自覚することであり、もっと社会に関与し、環境的な問題についても変化を促していかなければならないと感じています」。従来の自身の仕事よりさらに規模が大きくなったことで芽生えた責任感。クリエイションにおいて自分のスタイルを打ち出していくことと並行して、ブランドから学ぶことも多くあるのだろう。満を持して披露された22SSコレクションからは確かな手応えを感じさせたが、ここからさらなる進化を見せてくれるだろう。「〈ディーゼル〉の将来のビジョンは極めて明確です。私たちは世界で最も偉大なデニムの知識をもっていることを忘れずに、常に社会的、環境的に持続可能なブランドであることを重視しています」。

とても華やかなものから、カジュアルだが力強いアイテムまで、幅の広さを見せつけるのでなく、統一感ある仕上がりにまとめる手腕にも驚かされる。自分たちの原点や価値を守りつつ、よりファッション的な色合いを強めていく新生〈ディーゼル〉に注目してみてはいかがだろうか。

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