GRIND FEATURE TOPIC
『STREET EYES』
BRAIN DEAD
Interview with Kyle Ng & Ed Davis
コミュニティへ還元する
カルチャーの礎
カイル・ウンとエド・デイヴィスを中心に活動するコレクティブ〈ブレイン デッド〉。LAを拠点に、アートや音楽、映画やコミックブックなど、カテゴリーやジャンルを跨いでさまざまな世界に飛び込んでは自身の中に吸収し、新たな形でアウトプットする。その実験的なアプローチが生み出すのは、アパレルプロダクトや幅広い日用品など手に取れるモノだけではなく、そこから広がるヒトの繋がり。自身の育ったコミュニティを基盤に2人の止めどない好奇心は、さまざまなヒトやモノを巻き込みながら大きなエネルギーとなって、人々のもとへと届けられる。
Edit&Text Shiori Nii
開かれた興味に宿る
クリエイションのDNA
ポストパンク、スケート、コミックブックなど、多様なサブカルチャーを着想源に、それらすべてをクロスオーバーさせるクリエイションで単なる“ブランド”の枠組みを超えた活動を行う〈ブレイン デッド〉。グラフィックを担当するエドはメルボルン、デザインや全体のディレクションを担当するカイルはLA。生まれ育った場所も現在の拠点も異なる2人。今でこそ、遠隔のコミュニケーションは取りやすくなってきてはいるが、〈ブレイン デッド〉の軸となる彼らは2014年のブランド発足からこのスタイルをとる。
Ed「誰かが、僕がつくったTシャツをカイルにあげたんだ。カイルはその頃別のブランドのプロジェクトを進行していて、その一環でTシャツをつくれないかと連絡をとってきた。僕はちょうど、退屈というか、次のステージに進みたいと考えていたタイミングだった。だからただのTシャツではなく、1回限りでいいからブランドをつくらないかと提案した。それが僕らのはじまりだ」。
Kyle 「確かに、離れているからこそ難しいこともたくさんある。コミュニケーションの点もだけど、どんなに面白いことがあっても、いっしょに体験することができないのが悔しいよ。僕らは仕事仲間である以前に、親友だから」。
Left:Ed Davis, Right:Kyle Ng
対面で会うのは、2年に1~2回、さらにここ数年は新型コロナウイルスの影響で会うことができていないという話が信じられないほど、彼らの間には信頼関係が築き上げられている。頻繁に連絡を取り合いながら、最近あった面白い話、今の興味など、他愛もない話を互いにシェアし、その会話の延長線上で〈ブレイン デッド〉のクリエイションは生まれていく。2人の間にある、物質的な距離の隔たりを感じさせない阿吽の呼吸、強い絆。彼らを結びつけるのは、それぞれを形成するカルチャーと両者に共通して感じられる広く開かれたオープンマインドな精神。
Ed「子供の頃から、アートやコミック、映画や音楽、たくさんのカルチャーに触れ、夢中になった。スケートもしていて、デッキに描かれたアートワークも大好きだった。そして、自分で漫画を描きはじめたんだ。今見たらひどい出来だろうけど、多分それが僕の基盤としてあるだろうね」。
Kyle「僕もEdと似てるかもしれない。コミックとスケートに多くの時間を費やし、そこからアートやデザインのスタイルを見つけはじめた。あとは、LAのパンクシーンに夢中になってライブに通っていたよ。パンクには、自由があるだろ。プロフェッショナルというよりも、もっとクリエイティビティを中心に構築される実験的なスタイル。そこに惹かれたんだ」。
幼い頃からカルチャーの中に身をおき、心向くままにさまざまなものに夢中になっては、自身の世界に取り込んだ。止めどない好奇心で埋め尽くされた2人の脳内を臆することなく映し出した〈ブレイン デッド〉のクリエイションには、予測不可能なアイディアとエネルギーが宿る。
Kyle 「今まで夢中になってきたこと、好きになったものを信じているんだ。そしてそれらに対する熱狂をキープしようとしている。でも『ポストパンクの再解釈をする』みたいなことは絶対にやらないね。インスパイアされながらも、自分たちの中で吸収し、繋ぎ合わせ、何か新しいものを生み出すんだ。人生のアーカイブをつくるのではなく、ブランドを通して人生についてエキサイティングし続けるってことだ」。
メッセージ性の強いカオスなグラフィックはもちろん、ロッククライミングのアイテムやローラーシューズまで。彼らの興味がそのまま〈ブレイン デッド〉で形づくられる。
人々とつくりあげる
コミュニティの未来
LA、ミラノ、そして日本と、世界に3店舗構えるBRAIN DEAD STUDIOSは、彼らの世界観をフィジカルで体感できる空間。その中でもLAのストアは、アパレルだけでなくシアターやカフェを完備しており、彼らが選出した映画を観に来る人やレストランで提供されるオリジナルメニューを食べに来る人など、目的はさまざまだ。〈ブレイン デッド〉を中心とするカルチャーのハブとしての機能を果たすこの場所は、以前はカイルが足繁く通った小さな映画館だったという。
Kyle「20代の前半にここで、たくさんの映画について学んだよ。そしてこの場所がなくなると知った時、僕やエドが生きてきたコミュニティの未来になにが起こるかとても怖くなったんだ。だから僕はここをもう一度生まれ変わらせ、面白い場にする必要があると考えた。人々がSNSなどに時間やお金を費やしている中で、僕らはフィジカルなものに費やすという賭けに出たんだ」。
Ed「僕らにとってコミュニティは、とても大切な存在だった。インターネットが主流になる前は、カルチャーを知るにしても造詣が深い人に会って話をしながら経験値を上げていくしかなかったからね。クリエイティブ業界の中には、ムードボードをつくってイメージすることはできても、実際にはカルチャーの中にはいないような人も多い。でもどんなに頭の中で想像してインスピレーションを得ようとも、その世界に入り込み、コミュニティに参加するのはぜんぜん違うんだ」。
自身を形成する重要な要素をブラッシュアップし、クリエイションでリンクさせる。他のどの国よりも訪れた回数が多いというほど日本を愛する彼らが、BRAIN DEAD STUDIOSを日本にオープンすることも自然な流れであった。クリエイションの着想源となることも多いホラー映画や漫画、おもちゃなど日本のアンダーグラウンドカルチャーの原点となる場所に表現の場を設けることは2人にとっても大きな意味をもつ。
Photo Ryo Sato
イタリア、LAに続き、カルチャーの中心地である神宮前にて、今年の4月にオープンしたBRAIN DEAD STUDIO。
アパレルラインはもちろんのこと、最近ではボディタオルブランドの〈ゴシ〉とコラボ、ペッド用品まで、カテゴリーやジャンルを超えたさまざまなプロ ダクトを生み出す。また、ターンテーブルを設置した店内では、今後イベントなども開催予定。
Kyle「僕らの大きなテーマは、カルチャーをマーチャンダイズすること。〈ブレイン デッド〉はクリエイティブのコミュニティやカルチャーをサポートし、成長させるためのものでありたいんだ。プロダクトをつくってはいるけど、そこで終わらせるつもりはない。ブランドを起点に僕とEdが生きてきたコミュニティに貢献したい」。
コミックストアやスケートショップ、ライブ箱。そしてその場所で出会った人々。彼らが多くの時間を過ごし経験値を上げたコミュニティを、カルチャーをフックに繋がった仲間たちと〈ブレイン デッド〉を通してつくりあげる。うわべの関係性や一過性の流行でどんどんと上書きするのではなく、ピュアな好奇心とリアルな感覚を2人で追い求め走り続ける先に生み出される、単なる“ブランド”には収まりきれない大きなエネルギー。経済的な成功に注力するのではなく、自分たちをインスパイアしたものを人々へ惜しみなく提供するアプローチは、自身の基盤にあるコミュニティやカルチャーに対しての還元ともとれる。自然体に、しかし妥協のないスタンスで、カルチャーを独自の視点で切り取り繋ぎ合わせる、その自由で縛られない姿勢こそが結果的にストリートのひとつの在り方を体現しているのではないだろうか。
Information
BRAIN DEAD
Adress:4-29-8 JINGUMAE SHIBUYA-KU TOKYO
TEL:03-3401-4010
OPEN:11:00-19:00 (CLOSE : WEDNESDAY) ※新型コロナウイルスのため、営業時間に変更がある可能性がございます。
Instagram:@wearebraindead