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CULTURE, INTERVIEW 2022.9.1

B+

俯瞰で捉える
ストリートの輪郭

90年代より、名だたるアーティストを撮影してきた、B+というフォトグラファーをご存知だろうか。Nas、Notorious B. I. G、Lauryn Hill、Kamashi Washington、Kendrick Lamarなど挙げればキリがないが、錚々たるメンツを被写体に、カメラを構えてきた。そんなB+ことブライアン・クロスが、7月中旬にトランクホテルで行われた個展のために東京を訪れた。ストリートの偉大なるレジェンドを写真に収めてきた彼の視点から見るストリート像や、そこで輝く人々には一体どんな共通項があるのだろうか。

Photo Haruki Matsui (Portrait)
Edit Kokono Saito

B+の大学院時代に、学校の課題をきっかけにはじめたヒップホップドキュメント。当時のシーンが垣間見える、いわば彼の原点ともいえる写真の数々は、『It's Not About a Salary: Rap, Race and Resistance in Los Angeles』にまとめられ、B+の初の作品となった。このプロジェクトに取り組むために、B+は街にいるヒップホップ集団を見つけては、飛び入りで撮影を続けていたそうだ。
“From left to right, Aceyalone, Myka 9, Ganjah K, Volume 10, and Big Al at Rat Race, Atwater, California, US. October 1992”

音楽に感じた
心を掴むなにか

 トランクホテルでの展示に際して、彼が撮影してきた誰もが知るアーティストの写真が並び、華々しいキャリアを物語っているようにも思えたが、その原点を辿ると地道に活動を続けてきた彼の姿が垣間見えてきた。「私はアイルランド出身で、幼少期からあらゆる音楽を聴いてきました。音楽には、ビジュアルアートや映画とは異なる、腹の底から響くようななにかが訴えかけてくると感じていたんです。大学生になって、アイルランドからロサンゼルスに出てきて、アートや写真を学んで、1990年から大学院に通うようになりました。当時とある著名な作家が教授をしている授業を取っていたのですが、彼の考える社会に反抗するアーティストというのは、ボブ・ディランやジョン・コルトレーンといった、固まった考えをもった人でもありました。自分は当時アメリカに行って、80年代~90年代のアーバンカルチャー、それこそストリートの中が緊張感に満ちていた頃に、聴きはじめたヒップホップにものすごく心を揺さぶられる強烈なものを感じていたんです。しかし教授にその話をしても、わかってもらえなかったのですが、“だったら街に出て、ストリートに行って、自分の目で捉えてその瞬間をドキュメントしてごらんよ”と言ってくれて。学校の課題がきっかけで、こういう撮影をはじめたんです」。彼が音楽に対して抱いていた特別な感情は、そのシーンを客観的に捉えるという行為によってリンクすることになった。「最初はBoo-Yaa T.R.I.B.Eというアーティストを撮影して、Freestyle Fellowshipなどにも出会った。当時はマネージャーや広報みたいな人がいないことも多かったから、知り合いを頼りに、紹介してもらっていた。そのころ自分は今よりもっとヘビーなアイルランドのアクセントで話していて、アーティストとしても“なんでアイルランドからわざわざきて、自分たちを取材したいんだ”って純粋な興味を持ってもらえたことも、今思うとメリットだったのかもしれないね。そうこうしているうちに、自分のやっていることがどんどん話題になって、評判になっていったんだ」。

KING OF DIGGIN’とも称されるレコードコレクターでもあり、アブストラクト・ヒップホップの先駆者でもあるDJ SHADOWのデビュー作『Endtroducing.....』のアルバムジャケット写真。当時、DJはバイナルでプレイすることが主流だったため、レコードショップに人が集まる、リアルな90年代のムードが捉えられている。
“From left to right, Beni B, Chief Xcel, and Lyrics Born at Records, downtown Sacramento, California, US. May 1995. This is the cover of Endtroducing by DJ Shadow. ”

日本を代表するヒップホップアーティスト、NITRO MICROPHONE UNDERGROUNDの「NITRO MICROPHONE UNDERGROUND」のMV制作も、B+がディレクションを行なっている。各人の個性に合う場所で撮影することで、アーティストとしての深みが増すそうだ。そのアーティストにとって、リアルな場所はどこなのかを大切にしていることも、どこかストリートの感覚を思わせる。

生き方を学ぶ

 世界の第一線で活躍するアーティストを撮影してきたからこそ、そしてストリートとも密接なつながりがある人々を多く捉えてきたからこそ、彼はどのような人物にスタイルを感じるのだろうか。その共通項を探った。「フランスの映画監督で、クリス・マルケルというドキュメンタリーを撮る人がいて、その人の言葉で自分にとって1番ドンピシャなのが、“被写体から絶対に感じなくてはいけないことは、自分の鼓動が速くなることだ”という言葉です。ロジックでは語れない、体感とか魂からくるようなもので、自分にとってはたまたまそれがヒップホップをやっている人に多かったということ。FOMO(Fear of Missing Out)※取り残されることを恐れるという意っていう言葉があるんだけど、やはり世の中のかなり多くの人が、トレンドに置いていかれることを恐れていたりする。そんな中で自分は昔から、今なにが起きているとか、なにが新しいとか、最初に知るタイプではないしそもそも興味もない。自分にとって縁があることなら、自然と起きることだからね。ケンドリックも前から話は聞いていたけど、会うまでにはすごく時間がかかったし、彼はいろいろなことをすごく考えさせてくれる人だった。自分が写真を撮るのは、なにが流行っているということとは全く関係ないところにあるから、決して人気がなくても自分に縁があると感じたら撮るかもしれないし、そういうスタンスでやっているよ」。彼が音楽に感じた衝動に似たような、鼓動を速くする存在を撮り続けてきた。トレンドに身を任せるのではなく、自分の軸との対話によって動き方を決めていくというスタンスは、B+が自然体でいられることを可能にしているのだろう。「ストリートというのは、いろんな産業や業界がタッチできないところから、異なる価値の基準を生産できる場所だと思っています。世の中にうまくフィットできないと感じている人や、トレンドの外側にいるような人たちが集まってきて、新たな基準を生んでいくような、他の業界からはタッチできない世界がストリート」。ニューヨークやロサンゼルスに限らず。世界各地を渡り歩いてきた彼が感じるのは、国や文化が違えどそこにはストリートが存在するということ。そしてストリートにおいては、自分自身が世の中に迎合する必要はなく、むしろ新たな基準や価値観を生み出せる可能性があるということを彼は目の当たりにしてきた。ここまでのキャリアを通じて、B+は“世界でどうやって生きていくか”ということを学ぶことができたと口にする。それはなにも、彼が偉大なアーティストを撮影してきた、レジェンドフォトグラファーだからということではなく、ストリートに身を置く我々にとっても、大きなヒントが隠されているのではないだろうか。

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    今回、トランクホテルにて展示された作品群。写真には、The Notorious B.I.G、Kendrick Lamar、Erykah Badu、Kamasi Washington、Ol' Dirty Bastard、Thundercatなど、レジェンドの名に相応しい顔ぶれが並んだ。アーティストとB+双方の世界観が調和することで、見るものに訴えかけるような個性を放つ。

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    今回、トランクホテルにて展示された作品群。写真には、The Notorious B.I.G、Kendrick Lamar、Erykah Badu、Kamasi Washington、Ol' Dirty Bastard、Thundercatなど、レジェンドの名に相応しい顔ぶれが並んだ。アーティストとB+双方の世界観が調和することで、見るものに訴えかけるような個性を放つ。

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    今回、トランクホテルにて展示された作品群。写真には、The Notorious B.I.G、Kendrick Lamar、Erykah Badu、Kamasi Washington、Ol' Dirty Bastard、Thundercatなど、レジェンドの名に相応しい顔ぶれが並んだ。アーティストとB+双方の世界観が調和することで、見るものに訴えかけるような個性を放つ。

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