AFFXWRKS
Interview with Taro Ray
”新しい活用性”は
カルチャーとともに
2018年AWよりスタートした、ロンドンを拠点とするコレクティブ〈AFFXWRKS〉は、”新しい活用性”という言葉を掲げて、ワークやテクニカルな要素をプロダクトへと反映させてきた。23AWのテーマとなったのは、東京のレジェンド音楽レーベルMAJOR FORCE。昨年11月、メンバーの1人であるK.U.D.Oを父にもつフォトグラファーE-WAXと、幼少期をロンドンで家族ぐるみでともに過ごした当時の写真の数々を1冊にまとめた『EAST2WEST』の発売記念イベントを原宿のGR8にて開催した。機能的なプロダクトにカルチャーを宿す〈AFFXWRKS〉、音楽レーベルという枠にとどまらず、東京におけるストリートの牽引役として時代を切り開いたMAJOR FORCE。〈AFFXWRKS〉のデザイナー、タロウ・レイの視点からファッションとカルチャーの関係性を探る。
Photo_Rina Saito
Edit&Text_Yuki Suzuka
見る角度を変えて
価値を付加する
〈AFFXWRKS〉の原点は、2016年に4人のメンバーが各々のプロジェクトに取り組むためにコーワーキングスペースを創設したところに遡る。小さなスペースに集まった、才能溢れるクリエイターたちは、自身のプロジェクトと並行して、無数のアイデアを互いに共有して、ブランドの原型をつくり上げた。コンセプトの「新しい活用性(New Utility)」とは、物事を別の視点で捉えるということ。そして、人々が衣服をどう実用的にライフスタイルに落とし込めるかという指標を示しながら、ここまで着実に成長を続けてきた。デザイナー、タロウ・レイは、あまり表立って語ってこなかった〈AFFXWRKS〉の現状から話をはじめた。「今は僕とマイケル・コッペルマンの2人で主に活動しているんだ。立ち上げ当初は全員が同じ考え、同じ目標を掲げていた。しかしだんだんと僕たちが目指す方向性に変化が現れたんだ。今でもブランドのコンセプトにはユーティリティがあるけど、僕らはストリートウエアや音楽とのリレーションが強いから、ベースに音楽とカルチャーがあって、そのなかのユーティリティを探している。今回のコレクションは『MAJOR FORCE』からインスパイアされているし、最近ではクラブイベントや展示もやっているよ」。90年代のバーミンガムサウンドからインスピレーションを受けた23SSや、日本のダンスミュージックシーンを牽引してきた音楽レーベルMAJOR FORCEを今シーズンのテーマとしたり、設立当初のコンセプトを踏襲しつつ、タロウやマイケルがもつバックグラウンドがブランドの色を明確にしていく。「僕たちのブランドはコラボレーションとコミュニケーションで成り立っているんだ。オフィスにいるときは大体会話してる。デザインのことだけではなくて、今欲しいものや、ヴィンテージのアイテムを試着しながら、互いに意見を言い合っているね。もっともっと自分達の考えや感情を共有していく必要があるし、〈AFFXWRKS〉は人と人との繋がりを増やして、コミュニティを拡大していく必要がある。僕はチームを大事にしているから、チームの誰かひとりでもやりたくないといえば絶対にやらないよ。僕たちにはルールブックと呼ばれる、何か新しいアイデアやプロジェクトを行うときの、判断基準がある。会社やファクトリーに行くと、壁に大きなルールや注意事項みたいなのが貼り付けてあると思うんだけど、想像できるかな。実はこれもユーティリティに対する考え方のひとつなんだよね。ここではシューズを履き替えてください、ヘルメットを着用してくださいというように、いくつかの決まり事がリストされていると思うんだけど、この考え方を僕たちはオフィスで活用しているんだ。システムがあることで、自然とユーティリティに対する考え方にアプローチしやすくなる。もしルールが存在していないと、僕たちはただのファッションアートブランドになってしまう」。ブランドに関わる人々、チームに対する考え方も〈AFFXWRKS〉の特徴のひとつ。興味深いのは、彼らが0からつくり上げたアイディアというよりは、既存の枠組みから外れた新鮮な感覚に気づかせてくれるという点であり、まさに活用性というワードが起点になっていることを示す。「〈AFFXWRKS〉はレスファッションブランドだと思っているし、ファッションという言葉はテンポラリーに聞こえることもある。僕たちはただの洋服ではないものをつくり上げようとしていて、今回本を出している理由もアートとして世の中に発信したいわけでなく、誰も見ていないカルチャーの部分も伝えるためなんだ」。
イベント当日には、MAJOR FORCE FAMILYによるDJのライブパフォーマンスが披露され、K.U.D.O氏や滝沢氏などが駆けつけた。
東洋と西洋を織り交ぜた
シーズンで終わらないもの
東から西へ。今回出版イベントを行った写真集のタイトルにもなっている『EAST2WEST』は、ロンドンと東京の2つの都市を表している。MAJOR FORCEのメンバー、K.U.D.Oを父にもつフォトグラファーE-WAXは、幼少期をロンドンで過ごし、タロウとともに育った。彼らのバックボーンに焦点を当ててみると、音楽との関連性が浮かび上がる。「僕は幼い時からMAJOR FORCEが好きなレーベルだったし、家族ぐるみでバーベキューもサッカーもやっていた仲だったんだ。本当の血が繋がった家族という意味ではなくて、そうしたイベントやパーティーに参加していた人や一緒にお酒を飲んだ人たち、そのシーンにいた人たち全員を指して、僕はメジャーフォースファミリーと呼んでいた」。血縁関係の域を超えて、コミュニティへと広がりを見せるファミリーという共同体。〈AFFXWRKS〉のチームを大事にする姿勢の根底にはそんな影響があるのかもしれない。「今回制作した写真集で興味深いところは、イースタンカルチャーとウェスタンカルチャーがミックスしてる部分で、たとえばK.U.D.Oがロンドンにいる時は、日本にいるときよりもっと派手な格好をしている。彼がわざと足を机の上に大胆に置いている写真があるんだけど、日本でやったらかなり失礼だよね。でもロンドンではごく当たり前の光景なんだ。イングリッシュアチチュードと日本の他人行儀にも思えるスタイルやカルチャー、という2つの面に対して、幼少期に感じたこの違和感は今でも印象的だよ」。幸運にも幼い頃から身の回りに存在していた音楽やカルチャーを振り返り見つめ直すことで形となって、今シーズンのコレクションに現れた。「参考にしたのはイースタンとウエスタンカルチャーのミックスで、バギーフーディーのルックは日本の原宿スタイルから着想を得たり、ワークウエアはイギリスの作業着をモチーフにしたんだ。アーカイブを見て、色やテクスチャ、シルエットを参考にすることは多いね。たとえば、フーディーを被っているルックは金曜日の夜、クラブ帰りのスタイルをイメージしたり、バッグのルックはK.U.D.Oの奥さんが大きなバッグを自分で抱えていたところから着想を得たんだ。K.U.D.Oは口数が少なくて、パブリックにあまり出たがらない。ミニマムなデザインにしたのは、そんな彼を象徴する、サイレントを表現しているんだ」。
MAJOR FORCE結成前後の友人、家族、音楽シーンを捉えた90年代当時の貴重な写真を一冊にまとめた『EAST2WEST: Dayz of our lives』(100部限定発行)。会場ではブックサイニングも行われた。
50枚限定で発売されたハンドメイドTシャツは、〈AFFXWRKS〉のデザイナー、タロウ・レイとフォトグラファーのE-WAX自らがスタンプサービスを行い、その場でTシャツを完成させた。
自身の母親が日本人であり、そのバックグラウンドを誇りに思い、このコレクションを通じて多くの人に日本のカルチャーを届けたいと語るタロウ。音楽シーンでは人々の着こなしにも変化が出るという。「この本の中でもクラブシーンがあるけど、もっと自然だし、リアルだよね。すごい派手な洋服を着てレイヴに行くのは友達が見つけやすいため、おしゃれをしたいというよりかは、パーティーに行って雨が降っているからウォータープルーフのパンツを履く。そういう考え方が好きで、それもひとつのファッションの形だと思ってる。ファッションのシーズンは年が変われば終わるけど、カルチャーは終わらない」。彼らが通ってきた音楽シーンの周辺にあるカルチャーが色濃く影響を与えている〈AFFXWRKS〉のオリジナリティ。テクニカルなプロダクトはただの技術の産物ではなく、カルチャーやルーツへの愛情表現としての姿を見せている。ファッションがカルチャーを、カルチャーがファッションを、互いをリスペクトしながら活用していくことが、トレンドでは終わらないストーリーを生み出していくことになるだろう。