CULTURE, INTERVIEW, MUSIC 2021.11.25
MONTHLY / ONE STYLE from MUSIC VIDEO
Vol.02
Selector:Takayuki Ohashi
日に日に映像の需要が高まる現代において、ミュージックビデオはその歴史も長い。数分間に凝縮されたアーティストの世界観、ファッション、時代背景やメッセージ。最前線で活躍するクリエイターが厳選したMVと、それらの作品から影響を受けたアイテムにフィーチャーし、ファッションショーやSNSとは一味違う視点でスタイルのヒントを探る当連載。第2回目は、独自のコネクションでNYと日本のストリートを繋ぐ〈the Apartment 〉のオーナー、大橋高歩氏に話を聞いた。
Photo Haruki Matsui
Edit&Text Shiori Nii
Artist : Black Moon
Song title : Buck Em Down / 1993
現在も続く
スタイルの原点
「自分が10代の頃よく池袋や六本木のクラブに遊びに行ってたんですが、その時つるんでた先輩たちが、NYのラッパーであるバックショット率いるヒップホップクルー、Boot Camp Click(以下、ブーキャン)が好きでDJもそればっかかけてて。このビデオは後にブーキャンができるきっかけとなるBlack Moonというグループのファーストに入っている曲で、彼らのはじまりのようなイメージです。ヒップホップシーンで言うと、90'sはブルックリンがNYのファッションを牽引していました。そのフッド出身のブーキャンは洗練された都会的なムードとカリブ系移民のノリがミックスされてて、メインというよりも少しコアな感じ。それが音だけではなくファッションにも反映されていたと思います。彼らに感化され、彼らに感化され、友達は中学卒業したと同時に巣鴨にみんなでドレッドかけに行ったりしてましたね。僕らの世代はYoutubeもなかったので、はじめて映像として彼らを見たのはMVやオフショットを集めたVHSのクリップ集で、そればかり見入っていました。その他のビデオのほとんどはYoutubeが出てきて後追いで見る感じだったので、僕はスタイルに関してはその一派にだけ影響を受け、そのまま大人になっちゃったという感じですね」。
Artist : Smif-N-Wessun
Song title : Wrekonize / 1995
スタイルの道標と
自身との共通項
「前述のラッパー、バックショットがフックアップするような形で出てきたのが、Smif-N-Wessun。そして、僕がファッションで最も影響を受けたであろう人物が、メンバーのテックです。自分的には、ヒップホップのファッションを塗り替えていったのはテックなのではと思うくらい、とにかく洒落てて独特なセンスをしていたんです。たとえば、それまではみんな10金の太めのチェーンにペンダントヘッドとかを着けていたのですが、彼は出てきた時から細めのチェーンに翡翠のペンダントをしていたり。僕もこの翡翠の仏陀をNYで買ってから、お守りとしてずっと着けているのですが、もとはと言えばテックの影響です。映像に関していうと、このMVもですが、友達にビデオを回してもらって地元で撮っているみたいなビデオを何回も繰り返し見ていました。僕は板橋区出身なのですが、映るブルックリンの街並みが『あれ、うちの地元みたいだ』って。それまで映画などで観て頭で描いていたキラキラしたNYは東京でいえば銀座とかで、僕が好きな奴らは自分たちと同じような場所から出てきてるんだと知った時に、とても共感できてすごく好きになっていったんです」。
Artist : Fab 5(Heltah Skeltah × OGC)
Song title : Leflaur Leflah Eshkoshka / 1995
Artist : Timeless Truth
Song title : Gods in the Details / 2017
受け継がれた伝統を
繋ぐ使命
「ブーキャン一派の2つのグループ、Heltah SkeltahとOGCをミックスさせたクルー、Fab 5として出した曲なのですが、これも当時から本当に好きでめちゃくちゃ見ました。その中でも、常にふざけてるようなお調子者のショーンPという人がすごく好きだったのですが、生で見る前に亡くなってしまったんです。NYって上下の繋がりが強い地域で、伝統を受け継ごうという意識が浸透している。それが2つ目にあげた、Timeless Truthというクイーンズ出身の兄弟にもリンクするのですが、この2人の家の前にクイーンズのレジェンドと言われる人が住んでいて。ガキの頃からその人にヒップホップを教え込まれて、可愛がられた兄弟なので超エリート育ちなんです。そして彼らがショーン Pといっしょに曲をやったんです。この兄弟とは個人的にも仲が良く、NYに行く際にはよく会うのですが、ショーンPとの思い出話とかも聞いたりして。彼らの世代的に少し新しいスタイルのヒップホップをやってもおかしくないのですが、ファッションも含めて全然ブレないんです。そんな兄弟をOG(Original Gangstaの略。伝説的なギャングや知識のある人々。)たちは自分たちの後継者のように見ているのかもしれませんし、彼ら自身も体に染み込んだNYの音楽やカルチャーを受け継いでいくという使命を意識的に担っているのだと思います」。
Item:Timberland / Worldhiker
変わらないことの強さ
「はじめて映像でブーキャンを見た時、みんなブーツを履いていて衝撃を受けました。今ヒップホップと言えばスニーカーのイメージも大きいと思いますが、90'sのNYシーンを見るとほぼブーツを履いてますね」。大橋氏が高校生ではじめて手にしたブーツが、ビデオ内でメンバーがこぞって履いていたTimberlandだ。ニューヨーカーは厳しい寒さを耐えるアイテムとしてブーツにこだわりがあり、ワークブーツとしてのルーツをもつTimberlandは、NYの街と強い結びつきをもつ。その中でも大橋氏にとって印象深いのは、94年に登場したモデル、World Hiker(写真右)。「最初に紹介したビデオでバックショットが履いているのが当時最新で1番高価だったWorld Hikerです。もちろん定番のイエローヌバックもかっこいいのですが、それより値段も機能性も高いけど、あえて前に押し出さないようなコアな部分が、音的にもブーキャンと通ずるところがあって象徴的でした」。リリック内でも“Timbz”というワードが何度も登場する程彼らにとってマストなアイテムであると共に、ヒップホップがここまでTimberlandを押し上げたとも言える。「同じアイテムで見た目がいっしょでも、裏にカルチャーがあるかないかでは、やっぱり強さが全然違うと思います。ブーキャンのビデオに強烈に惹かれたのも、彼らがスタイリストが用意した衣装を着させられていたのではなく、普段から着慣れたものでそこにスタイルがあるのは荒い画面越しにも伝わってくるんです」。10代の大橋氏を虜にした彼らのリアルなスタイルは、映像を作り込んで表現する必要がないほど強い。そして移り変わりが激しい世の中で、変わらずにそのスタイルを貫く姿勢が、今もなおこうして語り継がれる理由のひとつであり、大橋氏のその後の生き方にまで影響を与えたのだろう。「ヒップホップの人たちってどうやって大人になるんだろうなって。日本は途中でTimberland履くのをやめて、ネクタイ締めて働くみたいな社会じゃないですか。でもあの人達って、ファミリービジネスをしたりみんなで子供を育てたりしてずっと地元にいる。ショーンPが死んだ時も残された家族のために仲間がベネフィットを募ったりして。そういう生き方もあるのだと彼らを通して知りました」。スタイルも、関係性も、カルチャーに裏打ちされたものはずっと残っていく。先代たちが築いてきたものに対するリスペクトと、それらを変わらない熱量で楽しむピュアな情熱。それらがさらに太く、丈夫な幹となってストリートに根を張り続けていく。
PROFILE
大橋 高歩
中学生の頃にヒップホップに魅せられてからというもの、NYカルチャーに傾倒し2009年には吉祥寺にセレクトショップ〈the Apartment〉をオープン。Timberlandのみならず、ヴィンテージのTHE NORTH FACEやPOLOのコレクターとしても知られ、その造詣の深さは世界的にも有名なほど。リアルなストリートカルチャーと密接にリンクしたスタイルを提案する。
instagram@theapartment_tokyo
http://www.the-apartment.net