OUR LEGACY from vol.101
Inseparable
かねてから仲間であったメンバーと、設立時から今に至るまで変わらないマインドを保ちながら表現を続け、またファーストコレクションから現在に至るまでの素材やアイテムを、再構築するWORKSHOPというスペースをつくるなど、多彩なクリエイションの幅を見せるスウェーデン発のブランド、〈アワー レガシー〉。創立者のひとりであるヨックム・ハリンが語る、ブランドの成り立ちや周りとの関係性など、魅了し続けるアウトプットの裏側を話してくれた。
Photo Mikael Olsson(P140), Andreas Dore(P142-149)
Edit Hiromu Sasaki
コレクティブとしての表現とリンクする場所
クラシックな雰囲気だが、どこかエッヂの効いた洋服。作り手の頭の中が色濃く投影されたビジュアル。ブランドの周りを取り囲む人々のスタイル。さまざまな角度から切り取っても、〈アワー レガシー〉の感性からなるクリエイションは、絶妙なポイントを突いてくる。スウェーデンにある家の地下室で、友人同士の2人によって立ち上げられたのがはじまり。「僕は幼馴染であるクリストファーとともに、いろいろなことに対するクリエイティブのアウトプット先として、2004年に〈アワー レガシー〉をはじめたんだ。僕らは2人ともファッション業界にいたけど、同時にグラフィックデザイン、アート、音楽などのサブカルチャーにも関わっていて。これらのベースを全部合わせて、僕たち自身を表現する必要があるような気がしたんだ。だからイタリアのフィレンツェで、出来る限りの最高のTシャツを作ることからはじめて、そこにさまざまなスクリーンプリントをしたんだよ。幸運なことにもともとクリストファーの家の地下にスクリーンプリントの機械や、その他ファーストコレクションを作成するのに必要なものがすべてあったしね。それで僕らがはじめて作成したTシャツのひとつに、“〈アワーレガシー〉はクリエイティブ・コレクティブである。私たちは、異なる視点をもたらすために業界のインディペンデントをデザインする”と書いたよ」。彼らのインディペンデント性は表層を覆うものではなく、深層にあるクリエイションの源とつながっており、各々には役割がある。「クリストファーは、クリエイティブ・ディレクター / ヘッドデザイナー。彼にはデザインとアートの経験があるから、〈アワー レガシー〉におけるすべてのことに対して、クリエイティブな多面的視点をもっている。2007年に加入したリカルドはCEOだね。もともと彼は〈アクネ ストゥディオズ〉で働いていて、セールスとしてのバックグラウンドがある。後にライター / ジャーナリストになろうとしてたところを引き止めたんだけどね。そして僕が〈アワー レガシー〉のヘッドであり、〈ワークショップ〉のクリエイティブ・ディレクターだよ。僕の背景には、スケートボードとスノーボードがあって、ブランドをはじめるまではファッションの会社を経営しながらハードコア / ポストパンクバンドのメンバーとしても活動していたよ。それから僕はインテリアのデザインもするんだ、いつか僕自身のサーフボードをつくることを夢見てね」。
異なるバックグラウンドが交わり合うことで、独創性に富んだ世界観が構築されていく。中でも2つのレーベルに振り分けられたクリエイションは、彼らの意図やメッセージ、欲望のバランスを巧みに表現する。「僕らはとても幅広く多様な表現する。〈アワー レガシー〉のメインラインの雰囲気はとてもニッチで、革新的なファッションといえる。一方で〈ワークショップ〉はもっと遊び心があって、いわゆるストリート的要素が強いかもしれない。あまりそのワードは好きではないんだけどね。僕らは多くの異なるパーソナリティーをもっていて、広い表現を可能にしているんだ。美しく、面白くて、洗練されたものであれば、〈アワー レガシー〉の世界に取り入れることができるよ」。アカデミックなファッションを学んできたわけでもない彼らが、ハイクオリティかつ縦横無尽なクリエイションを、3人でつくり上げ発信し続けてきている背景は、〈アワー レガシー〉を〈アワー レガシー〉たらしめる。3人という小規模の集団の在り方は、結果としてどこにどう作用しているのか。「僕らはみんな異なるスキルをもっていて、お互いに強みとエネルギーをシェアすることができる。でも同時にお互いの作品に意見を伝えたり、疑問を抱いたりすることもできるんだ。これがヘルシーなフィルターになって、僕らを軌道に乗せて集中した状態をキープしてくれる。会社を運営する負担や責任をシェアすることが、僕たちを助けてくれるひとつの要素でもあると思うんだ。僕らはみんな一緒に時間をともにする友人であり、家族なんだ。そしてそのことが僕らコレクティブを団結へと導いてくれる」。彼らのコレクティブとしての在り方は、周りの人を巻き込みながら、リアルな場所、プラットフォームとしての役割をはたす。そして濃密な関係性が築かれながら、表現の可能性が広がっていく。「僕らがクリエイトする場所とプラットフォームは、僕らコレクティブのメンバーがほとんどの時間を過ごした場所で、人生そのものになっている。お客さんや友人、他の従業員が出たり入ったりして、彼ら自身の空気感( バイブス)を一時的に置いていき、時にはその形が残ることもある。僕らは進化し進歩して、変化するのが好きなんだ。ひとつのものからはじまり、何か別のものに変化していく。長い時間をかけて発展していくはずのものもあれば、あっという間に変わるものもある。それが〈アワー レガシー〉をクリエイティブにし、ここで働く人々をインスパイアし、顧客を惹きつけ続けられるプラットフォームだと信じているよ」。3人の人生を体現する〈アワー レガシー〉。クリエイションを発信することだけに制限せず、場所としての在り方を添えることで、今現在この瞬間の、そして次の世代へ向けたプラットフォームとなり、彼らのレガシーになっていくはずだ。