ROLD SKOV
Interview with Francesco Rossini
静かなる情熱をひたむきに
2016年にスタートしたイタリアのメンズブランド〈ROLD SKOV〉。90’sの音楽シーンや北欧のシンプルでパワフルなスタイルに着想を得て、ベーシックなアイテムを主軸に長期的な視点で捉えた服づくりを行う。10月中旬、〈ROLD SKOV〉の日本ポップアップツアーに際して、デザイナーのフランチェスコ・ロッシーニは初来日を果たし、東京・新潟・大阪の3都市でストアイベントを開催した。余計なものは加えずクオリティで勝負をかける彼の理想とする洋服のあり方とは。滞在中に行ったインタビューを通して、シンプルさに裏づけられるクリエイティブへの誠実さと服づくりへの絶え間ない熱量が垣間見えた。
Photo_Haruki Matsui
Edit&Text_Fuka Yoshizawa
スタートにリミットはない
程よくルーズなシルエットのシャツやデニム、決して奇抜ではないが仕立ての美しさや絶妙な色合いが、上品な印象を与える〈ROLD SKOV〉。ただクリーンなだけではなく、彼らが打ち出すビジュアルから感じられる、多少の土臭さ、アンダーグラウンドなテンションには惹きつけられるものがあった。〈ROLD SKOV〉は一体どんなブランドなのか。デザイナー、フランチェスコのバックボーンから紐解いていく。「全てのはじまりは小学生の頃、祖母の家で毎日のように見ていたMTVのなかでOasisを見つけ衝撃を受けたんだ。特にリアム・ギャラガーは、奏でる音楽とファッション、そのスタイル全てが完璧ですごくカッコよかった。彼に憧れて、ライブで着ていた服をebayで探しまくったよ。当時はSNSなんてなかったから、見つけるまで1ヶ月かかることもあったけど、すごく楽しくて夢中で探していた」。幼少期にハマったOasisをきっかけに、フランチェスコはファッションに目覚めていく。しかし若い頃の彼は、ファッションへの興味関心と勉学や仕事は異なるものとして捉えていた。「当時、ファッションへの情熱と自分の将来が結びつかなかった。だから大学では科学や犯罪学を学び、卒業後は私立探偵としてキャリアをスタートさせたんだ。でも働いていた2年間ずっと苦しくてとにかく不幸だった。結局人生に納得がいかなくて探偵を辞めた。その直後家族と旅行で行ったデンマークのコペンハーゲンの森を歩きながら、改めて自分の声に耳を傾けた時に服づくりがしたいと強く思った。すでに29歳で若くないのはわかっていたけど、家族に話したらすぐに賛同してくれ、夢を追うための後押しをしてくれた。そういう存在があったから僕は〈ROLD SKOV〉をスタートできたんだ」。デザイナーとしてのスタートは決して早くはなかったかもしれない。未経験のなかはじめることの恐れや不安のなかで、自身の声に従った。一度別の道で迷い苦しんだ経験があるからこそ、クリエイティブへの情熱を信じ行動することが、苦悩を伴ったとしても価値があるものだと気づけたのかもしれない。
押しつけずに
余白をつくる
奇を衒ったアプローチを行うのではなく、クオリティを重視した服づくりを実直に続けている〈ROLD SKOV〉。その根底にあるのが音楽と北欧のカルチャー。「デザイナーになると決心した場所もコペンハーゲンだったように、シンプルだけどパワフルで想いが伝わってくるような、デンマークの美学が好きなんだ。だから僕が思ういちばんカッコよくてパワフルなものは、究極のシンプル。プリントやグラフィックで着飾ることは簡単だけど、洋服はシンプルであればあるほどストレートにスタイルや想いが伝わるんだ。そして何より僕の隣には常に音楽がある。特に90’sのリラックスしたムードから多くのインスピレーションを受けていて、〈ROLD SKOV〉は今も20年経っても飽きることなく着られるコンテンポラリークローズを目指している」。SNSの発達でモノが簡単に探せるようになった今でも、デザインのリファレンスを探すことに多くの時間を費やすと言うフランチェスコ。クオリティを高めるための労力を惜しまない姿勢は、移り変わりの激しい昨今のシーンの動向とは逆行しているようにも思う。「最近のファッションの速すぎる流れには完全に反対の立場だ。2ヶ月に1回のサイクルで洋服を買い、着なくなったら売ったり捨てたり。今は洋服よりもSNSでのコミュニケーションを重視しているブランドもあるけど、〈ROLD SKOV〉は常に製品のクオリティにフォーカスしてきた。テキスタイルからボタンなどのアクセサリーまで、地元マルケ州の認証を受けている工場でつくられるから、製品には絶対的な自信がある。コミュニケーションとクオリティのバランスを意識しながら、長く安全に着られるモノをつくることで、消費サイクルに立ち向かっているんだ」。生産の全てをイタリアの工場で完結させ、生産背景の透明性や製品の安全性をより明確にする。〈ROLD SKOV〉の服づくりにおいて興味深いのは、本人の音楽への愛情やカルチャー的な背景を必要以上に明示しないという点にあるように思える。それでいて、単にクリーンでクオリティが高いだけでなく、滲み出すようにカルチャーへの愛が痕跡として洋服に宿る。そうしたカルチャーを押し付けるのではなく、長く着用していく中で、着る人の色が染み付いていく余白を残しているのだろう。
確かな一歩の積み重ね
インタビューが進むにつれ、次第にフランチェスコの語り口は熱を帯びていく。立ち上げから10年弱、つくりながら学び、着実に〈ROLD SKOV〉を築き上げてきた。「そのシーズンが終わった瞬間から次のアイデアを探しはじめる。この瞬間がいちばん好きだし、どんどんエネルギーが湧いてくる。この情熱こそが原動力となっているね。周りにいるスタッフも信頼できる経験者が多く色々なことを学べるし、安心感をもって仕事をできていることもモチベーションにつながっているよ」。情熱という言葉だけを聞くと少し陳腐に聞こえるかもしれないが、フランチェスコは自身を信じ、その情熱に突き動かされてここまで進み続けてきた。だからこそ時に訪れる困難も決してマイナスに捉えることはしない。「毎日のように何かしらの苦悩があるよ、人生だからね。大事なのは、自分がその困難とどう戦うかを知ることなんだ。今回の日本ツアーも実現までに4年かかったし、いきなりジャンプアップできるとは思っていない。最初のコレクションで20着のサンプルをつくった時から、シーズンを重ねる毎に一歩ずつ成長してきたから、苦悩があってもそれを苦悩だと感じていなかったよ。自分自身のプレッシャーを乗り越えてきたことが間違いなく自信につながっている。内にある情熱と自分を信じることが、向上していくための鍵だと思っているよ」。きっと、やるしかないのだ。納得のいかない結果に終わることもあるだろう。簡単にうまくいけばそれはそれで良いかもしれないが、その過程で生じる努力や失敗の積み重ねが、厚みをつくっていく。彼の服づくりに対する熱量と誠実に向き合い続ける姿勢は、大きな飛躍でなくとも、結果的にスタイルをつくっていくのだと、彼の生き様が指し示しているように思えた。
日本ポップアップツアーの限定アイテム。架空のバンドチームを結成し音楽ツアーを行うという設定で、ツアースケジュールを記したグラフィックや、フェルッチオ・メンガローニというアーティストにより製作されたメデューサの作品などがシルクスクリーンで印刷された。
Francesco Rossini
〈ROLD SKOV〉デザイナー。幼少期に感銘を受けた90’sの音楽やファッションにインスパイアを受け、一生着ていられるシンプルでパワフルな服づくりを目指す。洋服のデザインだけでなく自身もDJとしても活動するなど、音楽シーンとも積極的に関係性を築いている。