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BENTGABLENITS BENTGABLENITS

CULTURE, FASHION, INTERVIEW 2024.9.10

BENTGABLENITS

Interview with Brenda Bent, Karen Gable, Angelo Nitsopoulos

最短距離ではなく
新たな道をつくる

カナダ・トロントを拠点とするデザインレーベル〈BENTGABLENITS〉。彼女らは蒐集した既存の衣服にヴィンテージのパーツを取り付けて、時が止まったプロダクトの時計の針を進めていく。繊細な手作業で行われる彼らのアプローチは、ナイキやリーバイスとのコラボレーションを経て大きく広がり、結果としてそのアプローチに多くの関心が寄せられることとなった。日々新作が生まれ、とてつもないサイクルで回るこの業界に身を置きながら、異なる文脈で試行錯誤を繰り返す〈BENTGABLENITS〉の動きから、クリエイションにおける時間の重要性が見えてくる。

Photo_Xavier Tera(Portrait), bentgablenits(studio)
Edit&Text_Fuka Yoshizawa

時間がもつ価値

 先日アシックスとのコラボシューズの発売のために来日していた〈BENTGABLENITS〉(以下BGN)は、熱狂的なコレクターが集うデザインレーベルである。インテリアデザインのクリエイティブデュオのブレンダ(以下B)とカレン(以下K)、そして彼女らの息子の友人であるアンジェロ(以下A)の3名で活動をするBGNは、既存の衣服にヴィンテージパーツを用いて、新たなプロダクトを生み出す。近年の環境に対する関心や取り組みもあり、最近では既存のプロダクトに手を加えて、異なる意味合いや価値を与えるという動きが活発なように思える。常にヴィンテージショップやフリーマーケットから、誰かにとっては役割を終えたとされるモノに美しさを見出し、時間をかけて行う繊細な作業は、トレンドやシーズンといったファッションの急速な流れのなかで、立ち止まり考えるきっかけや異なる視点を向ける機会として機能している。「手を動かすのが、本当に好きだから」という彼らの話から見えてくるのは、サスティナブルという単語では形容しきれない、ファッションが抱える消費構造への選択肢とスタンス。

A「もともと僕たちは、毎週日曜に一緒にご飯を食べる習慣があるほど家族ぐるみの仲なんだ。きっかけは、ある日彼女たちが友人へのクリスマスプレゼントに、オリジナルのナイキのスウッシュをつけたセーターをつくっているのを見たことにはじまるね。感動して思わず声をかけたんだ。はじめは遊び感覚でナイキのヴィンテージウエアに手作業を施して、ごく少量を販売してみたら周りからの反応が良くて、ブランドをはじめることに決めたんだ。クリエイティブには、あらゆる物事のなかに美しさを見出すことが非常に重要だと思っているんだけど、彼女たちを見ていると、常にその姿勢を感じるんだ」。
B「いきなりはじめたのではなく、私とカレンは以前ファッションデザイナーをしていたので、経験と技術があります。インテリアデザインにも共通することですが、私たちはどんな些細なものも自分たちでつくります。壁を塗ったり椅子に刺繍を施したり、こういう作業が好きだからこそ、一緒に取り組めました。もちろん活動するなかで私たちとアンジェロの感覚が違うこともありますが、今何がかっこよくて何がいけているのかをアンジェロは教えてくれるし、私たちは彼のアイディアに何を追加したらより良くなるのかを考えているので、常にお互いに学び合っています」。
 歳や背景も違う3人は、自分の考えに固執せず互いの強みを理解し、時に譲歩し合う過程を経て、オリジナルを生み出していく。情熱を共有できるコレクターという共通点をもつ彼女らは、すでに存在する時が止まったモノたちの時計の針を進める作業を続けている。
B「ひとつの絵を描くのに1日で完成させる人もいれば、1ヶ月や1年かかる人もいるように、時間や労力はモノの価値に影響しないと思います。私たちはやりたいことや頭の中にある完成形が少し複雑で、どうしても時間がかかってしまうだけ。時間がかかったからと言って良いものとは限らないし、その過程で価値は決まりません」。

 ただ時間をかけるだけではなく、自分たちが満足できるかというゴールがあってこそ意味をもつ。彼女らがベースとして使用するアーカイブやヴィンテージのアイテムも、時を重ねてきた意味があるはずで、彼女らが制作の中で向き合い再びエネルギーを発していく。日々新しいプロダクトが生み出され、過剰な生産が行われている状況に疑問をもつ人も増える中、BGNのような活動は、ファッションやカルチャーが育んできた時間に目を向け、流行とは異なる道を着実に整えている。

今回のアシックスとのコラボシューズ。ブレンダとカレンが長年集めてきたクラッカージャックというポップコーン菓子のヴィンテージチャームがキャンバスにひとつひとつ丁寧に縫い付けられており、得意とする手作業へのこだわりを強く感じられる。

過去2回行ったリーバイスとのコラボレーション。ヴィンテージの501ジーンズとトラッカージャケットのボディに、ヴィンテージのテーブルクロスを裁断して縫い付けているほか、細部には独特なタッチで施された複雑なステッチが見られる。

ブランドをはじめるきっかけとなったナイキとのコラボレーションも実現した。モヘアで縁取られたスウッシュはもちろん手作業。カラーと装飾の組み合わせを一から相談してつくられるため1着ごとに全く表情が異なる。

何のためのモノづくりか

 世の中に存在する素晴らしい衣服の数々。BGNは、過去に生産された高品質な衣服に手を加え、もう一度光を当てている。ただプロダクトの寿命をのばすだけでなく、トレンドのサイクルやつくり手の存在など、背景を見直すきっかけをもたらす。その活動は、ベースとなるヴィンテージに対するリスペクトが軸となる。

B「たとえばヴィンテージショップに1850年製のフランスのカーテンがあるとして、それを分解して再利用することに対して、『貴重な昔のモノに手を加えるなんて』と非難されるかもしれません。でも、現実は埃をかぶってそこにあるだけです。私たちが行う活動の目的は、そのアイテムの美しさに再度目を向けることであり、大事なのは自分たちが良いと思えることです。すでにあるものに対して何か手を加えることは冒涜と言われることもあります。しかしそれは搾取しているのではなく、ある意味さらに敬意を払おうとする行為だと思うんです」。
A「マーケティング戦略はあまり重要だと思わない。人が何を好むかはコントロールできないからね。だからこそ僕たちのプロジェクトは、誰かに向けてつくるのではなく自分たちが100%と言えるものであり、僕たちのためにあるんだ。気に入ったら気に入ったでいいし、気に入らなければそれでいいんだよ」。

 大切なのは、自身が良いと選択したものを貫き誠実に向き合うこと。自分自身に従うことで自ずと責任感も生じる。そのスタンスが一貫しているからこそ、地位を確立することやビジネスへの執着は一切感じられない。

B「お金を稼いで裕福になりたいと思っている人や有名になりたい人を批判するつもりはないし、彼らには生きるための人生があります。私たちはもう子どもも大きくなり気持ちにも余裕をもてていますし、今の生活が絶対だとも思っていません。だからこそ私たちのクリエイションはある意味とてもラグジュアリーかもしれません」。
A「収益に関しては最終事項だね。ただ、事業の拡大を目指すと格段にプロダクトの品質も下がってしまうんだ。僕たちは全ての工程をハンドメイドで行うから、常にそのバランスを考えて活動しているよ」。

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 ビジネスやマーケティング上のデータによって多くの人が最短距離を目指し、一定の成果をあげたからこそ、シーンの発展は達成できた。しかしその先に待っているのは、サイクルの加速とビジネスという目的や手段が混同した世界にも思える。人を魅了し、誰かの心を突き動かすのがクリエイションの1番の力だからこそ、その力をまず自分が感じてはじめて世の中に対して提案できるし、結果的に誰かの手に渡ることになる。そんな原点を思い起こさせるような〈BENTGABLENIT〉のスタンス。目先の利益や発展に目を向けることは必ずしも悪ではないが、流れの早さから抜け出し、過去に目を向けてみることもまた大きな意味をもつのではないだろうか。そして過去を利用するのでも執着するのでもなく、リスペクトをもって接すれば、頼もしい味方となってくれるはずだ。

BENTGABLENITS
2019年にスタートした、トロントを拠点とするデザインレーベル。既存のプロダクトにヴィンテージのパーツを加え、時間をかけてオリジナルの1点ものを制作する。今回のアシックスとのコラボレーションは、「大切にされる1足」をつくることを目的とし、彼女らが長年収集してきたヴィンテージチャームがキャンバスに丁寧に縫い付けられた、それぞれ表情の異なる特別なスニーカーとなっている。

Information

BENTGABLENITS

@bentgablenits

bentgablenits.com

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