GRIND

CULTURE, FASHION, INTERVIEW, MONTHLY 2020.5.23

The way of Materials

ILL-STUDIO

謎多きユニットが描く
リアリティと“自由”

ファッションデザイン、出版、映像、空間作成、レコードレーベル。イル スタジオは、2007年にパリで活動を開始して以来、マルチなクリエイションで、世の中に数々の仕掛けを施してきた。特にファッションの分野では、ルイ・ヴィトン、カーハート、シュプリームやナイキなど、仕事をする相手は幅広い。何かに縛られることなく、媒体や手段を変えながら独自の表現を続けるイル スタジオとは、一体何者なのだろう。そして垣根を超えて求められる2人の世界観の裏側には何があるのか。その謎を紐解くべく、創設者の1人、トマ・シュブレヴィルに話を聞いた。

Leica/ドイツのカメラメーカー、ライカが開催した写真展に展示された彼らの作品。日々のクリエイションにおいても身近なカメラを用いて、イル スタジオとしての

Leica/ドイツのカメラメーカー、ライカが開催した写真展に展示された彼らの作品。日々のクリエイションにおいても身近なカメラを用いて、イル スタジオとしての"リアル"を切り取った。

独創性を生む
自分自身の蓄積

「What do you do?(あなたは何者?)」と聞いても、彼らからはっきりとした答えは返ってこない。2007年、トマはスケートボードを通じて知り合ったレオナールと独自の表現を行う場としてイル スタジオをスタートした。以来、幅広いクリエイションに取り組んでいる。「ブランドとのコラボレーション、レコードレーベルの運営、雑誌やキャンペーンのディレクション、インテリアのデザインなど、多くの企業のクリエイティブに関わってきました」。コンテンツに合わせた柔軟性の根底には、意外にもパーソナルな部分が色濃く影響を与えている。「10歳の頃に見たアニメ、反抗期の頃の自分、イル スタジオをはじめる前に手掛けたスケートボードマガジンや過去の作品、私自身の経験すべてが素材となって、クリエイションを形作ります。また仕事柄、世界中を旅するので、訪れた場所の写真を納め、残しています。数年後に見返した時にインスピレーションとなって、再度その場所を訪れることもよくあるのです。またその過程で異なる文化を体感することも、私たちの表現に大きな影響を与えてくれますね」。共通点を見出すことが難しい彼らのクリエイションだが、一貫しているのは、自分たち自身を表現しているということ。視覚、感情、知識など自分の内面と直結したリアルな素材が、姿を変えて人々を魅了する。だからこそ名だたるブランドやアーティストとの共演も、互いのアイデンティティが反応し合い、斬新な驚きを与えているのではないか。常に新しい何かを探すのではなく、自分自身が蓄積してきたものに目を向けることが唯一無二のクリエイションへと繋がっていくのだ。

(左)NIKE PIGALLE CAMPAIGN/スポーツブランドとファッションを融合させる架け橋として、数回にわたってアートディレクションを担った。(中央)Lemaire/長きに渡ってコラボレーションを続ける同郷のファッションブランド、ルメールの17SSコレクションでは、1980年代に絶頂期を迎えたジャーマンニューウェーブがモチーフとなった。音楽と強く結びつく両者が共鳴し、背景のカルチャーを感じさせる演出に。(右)PIGALLE SHOW SS-17/パリの近代美術館で開催されたピガールのショーで展示されたインスタレーション。古代ローマ時代から、今日に至るまでの視覚的な類似点をアートに落とし込み、イル スタジオスの表現の幅を示す作品となった。

波及する原動力

2人が手掛けるクリエイションはジャンルや国境を超え、いかなるカテゴリーにも当てはめることができない。「分野が違おうと、変化するのは形式とテクニックだけ。私たちは全てのプロジェクトを空白のキャンバスとして捉え、さまざまな要素を用いてそこに物語を描きます。その物語を世の中の人々に伝えることが私たちの使命であり、そのために自由に創造するのです。そしてこの”自由”こそが私たちの原動力と言えるでしょう」。この“自由”を求めるマインドは人との関係性にも共通する。「今の時代インターネットを通して世界中の人々と簡単に繋がることができるのは承知していますが、私たちはできる限り直接会うようにしています。仕事以外のカジュアルな話をすることで、互いに対する壁もなくなるのです。コミュニケーションがより自然で実りあるものになり、結果的に仕事に良い影響を与えることがベストです」。ジャンルやカテゴリーという概念は、彼らの中に存在していない。あらゆる境界を境界とすら認識せずに行き来できるのは、“自由”が原動力であるからこそ。縛られずに、型にはまらずに、流動的に動き続けることで、さらに可能性を広げていく。その先にはまた新たなクリエイションが....。そんなポジティブな連鎖を生み出す姿勢を体現し続けるイル スタジオの動きに、注目してみてはいかがだろうか。

Parabola/2019年、日本で展示を行った際の作品。現代の"標準"と、前衛的な芸術形態との間をイル スタジオの解釈で表現。坂本龍一など、多数のアーティストをインスピレーションにポストモダニズムの可能性を探求した。

Attention Deficit Disorder Prosthetic Memory Program/人間が証明した事実に焦点をあてた、イル スタジオの実験的な新プロジェクト「GENERAL INDEX」がイタリアのセレクトショップ、スラム ジャムとタッグを組んだ。人間の心理や内面における問題を文化的視点から解釈し、映像などを用いて表現した作品。

  • スライド

    シャツ¥28000、Tシャツ¥9000 ユナイテッドアローズ&サンズとタッグを組み、発表された最新のカプセルコレクション“Pale Blue Dot(ペイル・ブルー・ドット)”。その名称は、1990年にNASAの宇宙探査機ボイジャー1号が約60億キロメートルの彼方から地球を撮影した歴史的写真の名称であり、宇宙における小さな地球を示す。施されたプリントやグラフィティからは、イル スタジオスのクリエイションに通じる壮大な物語と無限の可能性を感じることができる。

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PROFILE

ILL-STUDIO

https://www.ill-studio.com



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